15
カールさんを見送ってから、ヘルトくんが戦う試合を見ていく。
一回戦目でも見た通り、確実にヘルトくんは進化をしていた。
そりゃ伊達に解放軍のリーダーをやっていた訳じゃないんだから当たり前ではある。
けどおれが戦いを見るのは村の祠への道であった対魔物以来なんだよね。
人に対して戦っているところも見たことがない。
だから……、すごく感慨深いものがあるというか。
こうして人は育っていくんだなって……。って、おれはヘルトくんの親じゃないんだから。
とにかく! ヘルトくんは真剣な表情で剣を交え、上手くフェイントをしたり鮮やかに技を決めたりとかっこよかったんだよ!
今だって自分よりも体格が大きい相手に物怖じせず、冷静に対処して優勢な状況に見える。
お兄様もそう言ってたから間違いないし、ラドおじさまもヘルトくんの戦いを見て満足げだ。
「わしもそろそろお役御免なのかもしれんな」
「嫌です、ラドおじさま。わたくしはもっとラドおじさまの活躍を見ていたいです……」
おれはラドおじさまが元気でいてくれるのが一番だからこそ、下手に引退って言って村に戻り寂しく暮らすってことにはなってほしくないんだよ〜。
定年退職して仕事がなくなって、途端に気力がなくなる人とかいるって聞いたことあったし……。
「ハッハッハ、嬉しいことを言ってくれる。そうだな、お前の為にもまだまだ頑張るぞ」
「はい、おじさま!」
そう言ってくれて嬉しい〜!
おれはニコニコしながら引き続きヘルトくんの試合を見ていく。
ヘルトくんは取りこぼしをすることなく、しっかりとチャンスを拾ってモノにし、最後には炎を使っての鮮やかな技を決めて勝利を掴み取っていた。
流石! 流石ヘルトくんだぜ!!
対戦相手にきちんと礼をしてから退場していく様子を見て、やっぱりヘルトくんはいい子だなぁとしみじみ思った。
ふんふん気分が良くなっている中で、後ろから「失礼します」と声をかけて近寄ってくる人がいた。
ヴァルムントの確認に行かせていたカールさんだったのだが、妙に浮かない顔をしている。
「カールさん? ヴァルムント様は見つからなかったのですか?」
「いえ、控え室にちゃんといらっしゃいました。いらっしゃったんですけど……」
いたのになんでそんな顔をしてるんだろう。
おれが首を傾げていると、カールさんは言いにくそうに言葉を続けていく。
「申し訳ございませんカテリーネ様……。ヴァルムント様、頭がカチンコチンでして。カテリーネ様に不名誉がかかる恐れがあるからお会いできないと。次の試合では心配をかけさせない姿をお見せしますとも……」
……あー。冷静になって考えたらそうだわ……。
ヴァルムントくん、不正にあたることはできないよなぁ。
も〜! 融通が利かないんだから!
……でも断らないのはヴァルムントくんじゃないし、仕方ないのかも。
ヴァルムントの意志も尊重したいから、次の試合は我慢する。
けどね!? 絶対にこのままじゃダメってなったら何と言われようが突撃するから!
こういうのって早め早めに行ったほうがいいし……。
おれが決意を固めている横で、カールさんの報告を聞いていたお兄様が、椅子の肘掛けに寄っかかりながらこう言ってくる。
「緊急事態だから嘘ついて密会場所に行けって言ってくればいいのに、カールも大概真面目だな」
「そ、それは……、堪忍してください……」
「分かってる! それをしなかったんだから、やっぱお前はヴァルの部下だわ」
現時点では何も起こっていない。
起こっていない以上やりすぎるのは駄目だ。
だからそこまでしなかったカールさんには感謝しかない。
そう思いながら、しおしおになっているカールさんに声をかける。
「カールさん」
「……はい」
「確認していただきありがとうございます。大丈夫です、ヴァルムント様を信じましょう」
「……はい!」
しっかりと頷いたカールさんは、綺麗に礼をしてから護衛の定位置へと下がっていく。
言った通り、今のおれにできることはヴァルムントを信じることだ。
無事に試合が終わるようにと祈りながら、ツィールの試合を見ることとなった。
ツィールの試合も無事にツィールが勝利で終了し、ヘルトくんVSツィールの試合が確定となる。
こ〜〜〜〜〜れマジでおれどんな心境で見ればいいんだ……。
昼休憩が挟まれた後、3回戦目……つまり準決勝戦が始まっていく。
ヴァルムント対オシフさん、ヘルトくん対ツィールの試合が行われれる。
その後に決勝戦で、3位決定戦は行われない。
注目度の高い試合なだけあって、休憩時間は少し多めになる予定だ。
ヴァルムントになにかあった場合はその合間休憩の時に向かえれば……、と思っている。
何もないのが一番なんだけどね!
ごちゃ混ぜの感情が渦巻いているせいで、いつもは楽しみにしている食事があんまり味がしない。
そうして昼休憩が終わり、準決勝であるヴァルムントとオシフさんの試合を見に観覧席へと着席をしたのだった。




