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ヴァルムントの試合が終わり、次はやかましい剣士のホーウェと槍使いの男性が試合をする。
入場してきたホーウェは自信満々な表情で、あると同時に何かやらかしそうな雰囲気を持っていた。
それがなんなのか、すぐに思い知ることになる……。
「おれっちの技! 撃滅撃撃天上剣! どおおおりゃあ! くらえくらえくらえ! まだまだまだ! 天下無双高翔剣! おれっちの成長はまだまだ止まらないッ! いけええええ! やり遂げるッ!」
まーじでこんなにうるさいとは思わなかった……。技名っぽいのもダサい。
槍使いの人も同じだったみたいでタジタジだ。可哀そう。
アクションRPGのキャラじゃないんだしさぁ。
日常でも似たようなものだとすると、そりゃヘルトくんもラドおじさまも喋らせないようにするわ。
てか、戦闘中によくそれだけ喋れるな? 舌噛んだりしないの?
色々と疑問が思い浮かぶ中で進んだ試合は、調子を崩されたっぽい槍使いの人が敗北となって終わったのだった。
つまりホーウェの勝ちである。
「おれっちの! 天下だ~~~っ!」
「さっさと行って下さい!」
ホーウェは拳を突き上げて叫び始めたので審判から怒られていた。
まだ一回戦目だよ、おーい。
しかしこうしてホーウェが勝ち上がったということは、ヴァルムントと当たることになるんだけど……。
ヴァルムントくんの心労が加速しないか?
おれが心配している一方で、お兄様が口元を手で覆いながらプルプルしていた。
「あ、アイツ、おっ、面白すぎ……! 実力もあるし、側近にしたら絶対面白いわ」
「やめてください!」
脇にいた兵士さんから悲鳴に近い声が飛んできた。
ハッとした様子になったので、思わず声が出てしまったっぽい。
アレは同僚にするにはキツいよねえ。
「分かってる、本人の希望もあるしな」と言いながらも、お兄様はまだ笑っていた。
兵士さんは希望があったら採用するんですか……、と言わんばかりの表情をしている。
それを見てお兄様は再びぷくくく笑い始めてしまった。
お兄様って意外と笑いのツボが浅いよなぁ。
笑っているのは何よりだとは思うよ、うん。
その後、おれの知っている人は全員一回戦目を勝ち上がっていった。
二回戦目で当たる知り合いはヴァルムントとホーウェ、ラハイアーとオシフさんである。
……ニコニコしながら斧を振るうラハイアーの戦い方は、とにかく『力押し!』って感じだった。
自分よりでかくて重い斧を相手に押し付ける! 完!
と言わんばかりのスタイルなんだよねぇ。
それでいて話し方がまたのんびりめというか……。
「はーい、それじゃあいきますよー」
って普通の面でふわふわな喋り方して強烈な一撃をするもんだから、すげー相手してると感覚がずれそうだった。
あ、いくら力任せっぽく見えるとはいえ、なりふり構わず武器を振るっている訳じゃない。
ちゃんと経験に基づいて戦っている……と、お兄様が解説してくれた。
ゲームでも『力!』ってキャラだったから納得ではある。
見た目はマジで普通で善良な人っぽいからこそ、意外性がありすぎてビビっちゃうわ。
これで自称詐欺師とか、中身濃すぎるんだよ。
んでさぁ、正直問題なのは三回戦目である。
ヘルトくんとツィールが二回戦目を勝ちあがると、その二人が当たることになるんだよね……。
主人公対決! って言われたら「うおおおおお!」ってなる!
なるが! なるけど……。不安の方が大きいよぉ。
だって今のツィールって不確定要素が多すぎ!
どうしてここに来てるのかも分からないし、ヘルトくんとどんな会話をするのかも分かんないし。
ハラハラする対決すぎて、今の時点でドキドキが止まらん。
ヴァルムントくんのこともあるのにー! もう!!
◆
第二回戦であるヴァルムントとホーウェの試合が始まっていった。
審判の開始の声と同時に、ホーウェがヴァルムントに向かって声をかける。
「おれっちはアンタと戦いたかったんだ! あの時も結局戦いそびれちまったからさ、ここでリベンジとさせてもらうぜ!」
ホーウェはリズムを取る為か、剣を構えながらトントン前後ろに動いていた。
……戦いそびれたっていつの話だ?
ヴァルムントってヘルトくんと稽古してたりはしてたっぽいから、そういうので戦いそびれたとか?
疑問に思っていたら、お兄様がおれの疑問に答えてくれた。
「ああ、アイツはお前と再会した時にいたヤツだな。あの時は分からなかったが、こんなにも愉快なヤツだったとは……」
……いたっけ?
やけに囃し立てたヤツがいたような、……気がする。
なんかもうあの時はさ、いっぱいいっぱいだったからあんまり記憶になくて……。
対してヴァルムントは特に返事をするでなく、剣を構えて機を窺っていた。
ホーウェはふふんと笑いつつ、剣をブンブン振って叫びながらヴァルムントへと向かっていく。
「おれっちの無敵無双剣がアンタを切り裂くぜ! 喰らえ〜ッ!」
ホーウェの言葉は大分残念ではあるものの、動きは良い。
身軽さを活かし左右に飛びながら、翻弄するように距離を縮めていく。
ヴァルムントはホーウェの意味不明な言葉に惑わされず、冷静に状況を見極めていた。
前の戦いでみせたように、ホーウェがくるであろう場所に氷のまきびしを作り上げていく。
本人は作り上げた氷の外側を走ってホーウェが向かってきにくい形をとっている。
しかしホーウェは氷をものともせず、わずかな隙間を縫って氷の上をピョンピョンしていった。
難なく乗り越えるホーウェへ、ヴァルムントは次の一手として氷の刃を剣の振りと合わせて飛ばした。
「う、うわぁ!? まっ、まだまぁ! 天下無敵の剣はここで負けたりしないっ! どりゃあああああああ! 不利返上剣!」
不利返上剣ってなんだよ。
声に出して突っ込みたくなるほどの掛け声と共に、剣をくるくるとさせて氷を器用に飛ばしていく。
普通ならげんなりしそうなところを、ヴァルムントは気にせず自ら攻めの姿勢に入っていった。
ホーウェへと脚を向けて一直線に駆け抜けていく。
氷と踏むと同時に溶けている? みたいで、ヴァルムントはそのまま走っていっている。
どういう理屈なんだと思いながらも、ホーウェを見定めて駆け抜けていくヴァルムントを見ていく。
そのままホーウェに向かって行き、ホーウェもまたヴァルムントに足を向けて正面衝突をする。
「うおりゃあああああああ!」
目で追えないほどの剣戟が繰り広げられる。
ホーウェの剣技は素早すぎてどうなってんだか正直分からない。
それでもヴァルムントは苦も無く対応し切っている。
「うおおおおおお! 燃えてきたぁああああああ!」
更に速度が上がって目が疲れてきた。こんなことある?
氷も飛び散ってキラキラとしてるから余計にそう思うのかもしれない。
眩しーと目をパチパチさせている頃に、それは起こった。
「う、うわああああ!? お、おれっちの! おれっちの剣が〜〜!?」
剣と剣を合わせていたかと思ったら、ホーウェの剣が飛んでいってしまったのである。
滑って飛んでいったその剣は、氷が纏わりついていた。
「勝負あり!」
ホーウェに剣が突きつけられ、審判が勝敗を下す。
こうしてヴァルムントの勝利が確定した。
何が起こったのかよく分かっていないおれに、お兄様が口を開いて状況を説明してくれる。
「ホーウェって自身の身軽さと軽めの剣で攻撃するのを味にしているだろ? ヴァルもそれを分かっていて、剣を交えている間に少しずつ氷を張り付かせてる準備をしてたんだ。そして準備が完了したら一気に氷をやって、剣の重みを増やし感覚をずらす! いつもと違う重さになったせいで、重心とかもズレて剣が飛んでいったんだ」
いつも持ってる物の重さが、思っていたものよりも違ったらビックリする。
それが急に起こったから、いつも通りができなくなってすっぽ抜けていった……でいいのかな。
なんかすごいことやってるなーとぽかんとしてると、お兄様は「う〜ん」と言いながら言葉を続けた。
「でも確かめている感じがあったな。一戦目よりかは落ち着いてはいるが……」
「確かめている……、ですか?」
「おう。いつものヴァルムントなら、もうちょい早く終わらせるんだがなー」
あんなヤバい打ち合いをしてたのに、もっと早く終わらせることができたの……?
恐ろしい子……!
そんなことを思いながらもヴァルムントの様子を見る。
お兄様の言う通り、一戦目よりは落ち着いているように見えた。
剣を持っていない手をグッパーさせてから、一息ついている。
多分、このままなら大丈夫そうだ。
おれも一息ついて、胸を撫で下ろしたのだった。




