10
本日2日目の試合が全て終了し、各会場で行われた予選の結果、本戦に出場する2名が決定した。
おれのいる場所で出場となったのは2主人公であるツィールとオシフさんだ。
……ちなみにツィールはバチコリこっちを睨むようになっていた。
噂を知ってキレたのか?
いくらおれが美少女とはいえ、ツィールってそういうので喜ぶ性格ではなかったはずだからなぁ……。
浮気みたいな感じでもあるし。
けどそもそもの話、噂はおれのせいじゃないから勘弁してくれぇ。
尚お兄様は一生懸命に笑いを堪えていた。お兄様……、遠くから見たら分からないからって……。
おれ、主人公としてはヘルトくんが一番だけど、ツィールのことも好きだから悲しいわ。
よよよよ……、としながら試合観戦を終えたのだった。
城へと戻り風呂に入ってからベッドに横になり、座りっぱなしで固まった体をリージーさんを筆頭とした侍女さん総出でほぐされていく。
時々立って体を伸ばしたりしてはいたんだよ。
でもそれだけじゃいけないからってみっちりされている。
いたる場所をぐにぐにとされている中で、腕辺りのマッサージをしているユッタから話しかけられた。
「カテリーネ様はご存じですか? ヴァルムント将軍のこと……」
「ヴァルムント様がどうかされたのですか?」
おれはここに帰ってくるまで特に何も聞いてない。
他の侍女さん達もおれに付きっ切りだったので知らないみたいだ。
今日ユッタは兄の応援をしに数時間休みを貰っていたので、そこで話を聞いたのだろう。
知らない様子のおれに、ユッタがふんふん興奮しながら口を開く。
「将軍、とっても怒ったみたいなんです」
「ヴァルムント様が……?」
ヴァルムントが怒るのは……、まぁなくはないだろう。
でもなんで怒ったのかは気になるなぁ。
目をぱちぱちさせながらユッタを見ていると、ユッタは目を輝かせながら語り始める。
「参加者の一人が……その、カテリーネ様のことを悪く言う人だったんです。それにすっごく将軍が怒ったんです!」
「……ヴァルムント様が、ですか?」
一応皇族のことを悪く言っただけでとっ捕まる不敬罪はあった。
けど前皇帝時代にその不敬罪で掴まった時の罪が重くなりすぎていて、お兄様が皇帝になる時に協議の末廃止されたのだ。
お兄様は廃止に反対することもなく、むしろ賛成をしていた。
言った言わないの話になるので、言ったことのない人までとっ捕まることもあったからだ。
それで結構人が減ったとかなんだとか……。
とはいえお兄様は前皇帝と違って好感度は高いし、堂々と悪口を言うと白けた目では見られるとは思う。
おれも……、まぁそんな言われるようなことはしてない……はずだ。
自分のことって客観視しにくいから分からん。外全然出ないし。
「はい! 辺り一帯を凍らせちゃったんだそうですよ! ……将軍の試合が最後だからよかったんですけど、片付けが大変だったとか。でもカテリーネ様を愛していらっしゃるからこそ、とっても怒ったんだと思います!」
ユッタは片手の拳をぐっとして、そう主張してきた。
ヴァルムントくんが怒るのも分かるけど……。
……う、う~ん? 聞いてる限り、やりすぎでは……?
ていうか何? どんなこと言ってたん?
誰にでも粉かけるあばずれ淫乱クソビッチだとかでも言ったりしてた?
だとしたら事実無根すぎて笑っちゃうんだけども。
ただ「中身がくそ雑!」って言われたら「はいそうです」としか言えんが……。
でもさぁ、ヴァルムントくんってバチ切れすることがあっても、結局理性が上回る人じゃない?
……ゲンブルクでいくらおれが迫っても鋼の意志を貫いてた訳だし。
と、とにかく! 周りに迷惑かけないよう努める人だと思うんだよねぇ。
だから損しやすい人でもあるんだが。
間違ってもキレ散らかすような性格じゃない。
やっぱりヴァルムントくんとしっかり会いたいなぁと思う一方で、リージーさんを除いた侍女さん達は全員「素敵……」とうっとりとした表情になっていた。
「是非拝見したかったです~」
「絶対に将軍は凛々しいお姿だったと思いますわ」
「とても大切に想われているが伝わってきますね……」
ま、まぁうん。侍女さん達がそうなるのは分かるわ。
おれだって他人事だったら、好きな人の為にブチ切れるのはカッコいいじゃん……ってなるよ。
なおリージーさんはいつも通り微笑んでいる。
リージーさんって、あんまり浮ついた感じを出さないんだよね。
結構他の侍女さん達は恋愛事に興味ある感じだけど、リージーさんは全くない。
そこんトコどうなっているんだろう。突っ込んでいいんだろうか。
悶々としながら、2日目の夜は過ぎていったのだった。