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TS生贄娘は役割を遂行したい!  作者: 雲間
TS元生贄娘は誤解を解きたい!
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VIII


 槍の穂先から石畳の地面に落ちた影響で、昼の陽射しに照らされた広場一帯に高い金属音が響いた。

 少ししてから柄が落ち、審判による「勝負あり」の声が上がる。

 対峙していた戦士は呆気に取られた顔で飛んでいった自身の槍を見つめてから、私へと笑顔を向けてきた。


「対戦ありがとうございました、ヴァルムント将軍。やっぱり将軍はお強いですねぇ」

「……いや」

「ご謙遜を。いやはや、対戦ができてよかったです。是非、また機会があれば」


 差し出された手に、剣を持っていない手で応える。

 握手し終わった戦士は笑顔のまま退場の為に歩いていく。

 私もまた剣を鞘に納め、会場を立ち去ろうと脚を動かしていった。


 本日戦うのは一回のみである為、手続きを済ませてから私は自身の屋敷へと戻っていく。

 その道中で、掌を開いては握ることを繰り返していた。

 ……ただそれだけの行為であるというのに、不要な力が入っている気がしてならない。



 最近の話だ。

 自分自身の力に、違和感を覚えるようになった。

 私としては少しの力を込めたはずが、実際にはそれ以上の力が出てしまうことが頻発している。

 上手く折り合いをつけるようにしているものの、思わぬ場面で出力が過剰になってしまう。

 先程の試合についてもそうだ。

 私は彼の槍を飛ばすつもりはなく、『軽く』弾く予定だったのだ。

 しかしながら私の制御が甘かった故に、槍が吹き飛んでいき試合終了となってしまった。


 己で制御できない力は、周囲に損害を与える可能性が高い。

 今回の大会も自身の力を危惧し辞退をしようと思っていたのだが、周囲の期待が熱かったのと、制御しきれない自分の未熟さを叩き直す為にも出場をすると決めたのだ。

 また、出場をしないことで何かがあるのではないかと勘ぐられるのを避ける為でもある。

 ……何よりも、今の私は優勝を勝ち取らなければならない。

 カテリーネ様から優勝を願われた。

 決して油断をすることなく、かと言って必要以上に力を温存することもしない。

 相手の力量を踏まえ、全神経を注ぎ込み勝利を取る。

 そう決めたのだ。


 とはいえ思っている以上に『軽く』しなくてはならないなと、拳を握りつつ歩いていき、屋敷の門前までたどり着いた。

 門番に軽く挨拶をし屋敷の中へと入っていくと、この屋敷の管理を任せている若い男性の家令が駆け寄ってくる。


「……ヴァルムント様、おかえりなさいませ。じ、実はお耳に入れたいことが……」

「どうした?」

「それが、その……。……不快に思われると思いますが、心してお聞きください。我々は事実無根であると知っておりますので」


 よく分からない念押しをされた後、家令が困り果てた表情で言葉を紡いだ。


「その……、カテリーネ様がご覧になっていた試合の参加者と、カテリーネ様が噂になっておりまして……」

「噂?」


 瞬きを繰り返していると、家令は言いにくそうに口を開く。


「は、はい。……あの、その参加者とカテリーネ様が運命の関係であるといったようなものが……」

「……そうか」

「無論、我々はそうではないと分かっております! 御二方を知らない者が勝手にしている噂です。ですので他の者からそのようなことを言われたとしても、どうかお気になさらないでいただきたく……」

「私は大丈夫だ。……風呂に入りたいのだが、今入れるか?」

「は、はい! 勿論です」


 家令は礼をし、すぐ入れる準備を進めに行った。

 一方私は腹から息を吐きながら、風呂場へと足を進めていく。


 有名であるということは、あることもないことも言われる立場になるということでもある。

 それは、幼い身から十分に知っていたことだ。

 勝手な想像を膨らませ、誰かに話をしていく。

 そうしてありもしない出来事が、さも当たり前かのように話されていくのだ。

 ……父が処刑をされた時に、思い知ったことだった。

 だからこそ私は『噂』というものを信じない。

 自分が見聞きしたものを、私は信じている。


 それ故に噂で何と言われようとも、カテリーネ様からの気持ちを疑うことなどしない。

 カテリーネ様はいつも私へ一生懸命にお気持ちを伝えて下さる。

 勇気を出して伝えてくださったことを疑い、無下にすることなど出来やしない。


 それよりも今は、カテリーネ様にお会いし「貴方ならできる」という言葉を言って欲しくなっていた。

 小さく微笑む姿を、見たいと思っていた。

 そして、それ以上に──……。


 頭の中に浮かび膨れ上がりかけた不純な考えを、首を振ることによって振り払う。

 風呂に入って心機一転をさせると、力の制御をする為に庭で素振りを始めたのだった。


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