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椅子に座って午後からの試合を眺めながら、おれは2主人公のツィールについて思い返していた。
2本編になるまで帝国に戻ってこないはずのツィールが来ているのか、って話なんだけど、……原因がまったく分からん。
トラシク2が始まる状況ではないから、それに連動して2であった出来事が必ずしも起こるとは言えないのは分かる。
だからここにツィールが来ているのも不思議ではない……、が! 読めなさすぎて困るんだよな……。
ツィールは緑翼将軍、グスタフの息子……、……息子だったっけ?
『息子のような存在』だったか?
本当に息子だった場合、お兄様が知ってて何かしら言っただろうから多分違う。
お兄様ってどんな人でも覚えてるんだよ。流石だわぁ……。
ともかく、グスタフが育ててたことだけは間違いない。
だから父のような存在であるグスタフの遺志に従って、帝国を平和にしようと動いていた……という経緯だ。
グスタフは融通の利かない武人だ。
それは美点でもあり、欠点でもあった。
前皇帝の行いがは悪いことだとは分かっていても、帝国に仕える者として最期まで解放軍と戦い抜いたのだ。
自分のようにはなるなと2主人公には言いながらも、やがて緑翼を継ぐ者として2主人公に期待を寄せていた……。
って感じだったはず。……はず!
それこそ解放軍は父の仇にあたるんだけど、2主人公は父がそういう性格であったと理解していたので、葛藤はありつつも国を良くする為に協力を進めたっていう。
あとは……、あとは……?
う、ううーん、全然思い出せん……!
大まかな内容は覚えているけど、詳細は全然出てこないんだなこれが!
おれが頭を悩ませている間にも、試合はどんどん進んでいく。
一瞬で終わる試合もあれば、かなりの時間をかけて勝敗を決するものもあったりした。
色々な人がいてすごいし、お兄様も解説してくれるから飽きはしない。
訓練を見ることはあっても、こういった真剣勝負っていうのは中々見る機会はないからね〜。
口を開けっぱにしてしまったり、危うい場面でひぃってなったりしながら、今日の試合が残り数戦となった頃。
今から行われる試合の参加者が入場してきたので目をやると、あることに気がついた。
「あのお方……」
「ん? どうした?」
「わたくしが治療をした方だなと思いまして」
「ふ〜ん。見たことないな。えーっと、兵士のオシフか」
お兄様が対戦表を見ながら名前を教えてくれた。
おれに惚れている疑惑のある人だ。おれとしては照れてただけだと信じたい。
目をぱちぱちさせながらオシフさんを眺めていると、丁度オシフさんと目が合った。
オシフさんは目を薄くしおれに向かって微笑んでから、対面にいる傭兵っぽい対戦相手に体を向ける。
……何がって具体的なことは言えないんだけど、何かが変だ。
首を傾げている間にも、試合の始まりが告げられて剣の打ち合いが始まった。
最初こそ拮抗していたものの、長引くにつれてオシフさんの有利に傾いていく。
特別鮮やかなものはなかったが、堅実にオシフさんは試合を進めて勝利を収めたのだった。
対戦相手同士が礼をし、退場する間際にまたオシフさんがおれを見てきたのだが、やっぱりなんか変だなぁという気持ちが浮き上がってくる。
「……お兄様、あの……。ええっと……」
「どうした? 何でも言ってくれ」
「……変なことを聞くのですが、オシフさんという方、何かが変だと思われましたか?」
お兄様なら分かるかも、と思って聞いてみたけど、お兄様は首を傾げて頭を掻きつつこう答えた。
「ん〜、あえて上げるなら『堅実すぎる』くらいだな。とはいえ、変かって言われるとそこまでではないというのが俺の感想だ」
「そうですか……」
「なんかあったか?」
なんかあったかと言われるとそこまでのことではない。
おれだってオシフさんのことを一回見ただけだし、今見ているおれがなんか変だと思っている面だってオシフさんの『普通』かもしれないし。
そう思って、おれはお兄様に首を振った。
「いえ、それなら大丈夫で」
「うおおおおお!! 俺がッ! 優勝をするッ!!」
「静かに!!」
次の参加者の咆哮によっておれ達の会話は中断され、結局そのことは流れたのだった。
ちなみに叫んでいたヤツは負けた。