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そもそも2主人公が帝国にくるのは、トラシク2が始まる頃だったはずだ。
だからおれは2主人公について探したりする気は全くなかったんだよ。
元々帝国民であった2主人公は、『ある事情』で国を数年間離れていた。
……離れた理由は忘れた。なんだっけ、緑翼将軍が関連してたのは覚えてる。
ともあれ、2主人公が諸々終わらせて帝国に戻ってみたらびっくり!
噂に聞いていたとはいえ、見事に国が崩壊しているじゃありませんか〜!
故郷から建て直していって、国全体も再び一丸とさせよう!
と、いうのがトラシク2の始まりである。
ちなみに主人公の名前は忘れた訳じゃない。デフォルトネームがないだけ。
ヘルトくんはあったのに、どうしてトラシク2になったら消したのかは分からん。
おれは少し葛藤した後、お兄様に質問を飛ばした。
「お、お兄様……。そ、その、今戦われていた方のお名前は分かりますか?」
「ん? なんかやけにこっち見てきてるヤツが気になるのか? おーいアデルモ。表くれ」
「はっ」
お兄様は近くにいた兵士のアデルモさんに声かけをし、対戦表をどこからか持ってきてもらっていた。
そうしてお兄様は紙を確認しながら口を開く。
「えーっと、ここの1日目で2回目……。ああ、あったあった。斧使ってるやつがゴコールで、レイピア使ってたのがツィールだな。ん〜、……ゴコールってやつ大丈夫か? 様子を見て職を斡旋した方が良さそうな感じがするが」
「ディートリッヒ様、こちらで手配いたします」
「おう、よろしく。……腰入ってて力ありそうだったし、農業に回すのも手だと思うわ」
実は大会には別の目的もあって、こうして力が有り余ってそうな人間に職を案内するという名目もあったりする。
本人の希望次第であるけれど、勝ち上がれないってことは、戦う道よりも別の道を選ぶって手もあるってことだからね。
……じゃなくてだな。
ツィール、ツィールか……。
そのツィールが緑色の瞳でしばらくおれ達を見つめていたと思ったら、係員に次の進行があるからか声をかけられて立ち去っていった。
……なんか変に感じた視線も、ツィールのものだったのかなぁ。
立ち去る姿まで見つめていると、お兄様がおれの隣に来てこう言ってくる。
「そんなに気になるところがあったのか? ……確かに戦い方は印象的ではあったな。だが……、う〜ん。足りないな」
「足りない……?」
「急いでる……って言えばいいのか? 気持ちが先行しすぎてるんだよな〜」
その説明は分からないよ、お兄様!!
おれが困惑しまくっていると、ラドおじさまが近寄ってきて補足をしてくれた。
「アイツの戦い方は感情任せになっておる。それだけでどうにかなるほどの技量はあるが、今のままでは冷静に戦える者には敵わないだろう。現状を乗り越えられれば先はあると思うがな」
な……るほど?
怒り任せで武器ぶん回してるヤツだから、冷静なヤツには見破られて敵わないぜ! って感じ?
ほんの一瞬で終わった戦闘で、よくそこまで分かるな〜。すごい。
「ラドおじさま、つまり将来性がある方なのは間違いないのですね?」
「ああ、そうだな。……しかしなんだ、カテリーネ。そんなに気になるのか?」
そんなに気になるのかって……、そりゃ2主人公だから気になるのは当たり前で……。
だって絶対に今の時期にはいないはずの人物だよ?
なんで今ここにいるのとか、なんでおれ達……おれ『達』でいいのか? まぁいいや。
とにかく、気になることが山ほどある。
……でもその理由言えないんだよね。
2主人公だから気になってますとか絶対に口に出せない!
おれはどう言えばいいのか迷い悩んだ結果、こう口にすることにした。
「きっと……、国の力になってくれる方だと思ったのです。大きなことを成し遂げてくださる……、そのような雰囲気のあるお方だと」
う、嘘は言ってないもん!
ちゃんとトラシク2だと立派にやり遂げた人物だもん!!
未来のことではあるし、元々の展開も変わってるかは色々違うけど!
人が変わっている訳じゃないから、きっと必ず多分活躍してくれるっておれ信じてるから……!!
「そうか? ……それなら俺も、注目して見ておこうかなー」
お兄様はあっさり飲み込んでくれたが、ラドおじさまは首を傾げていた。
ふふふ、主人公とは最初注目されていないものなのよ……なーんて。
内心汗だらっだらだったのを、これでどうにかスルーできたな! と安堵していたというのに……!!
そこから数試合を終えて午後になったら、な〜んか変な噂が回り始めていたのである。
『皇女様とある参加者が見つめ合っていた』のだという、一応事実の出来事から発展した噂が。
運命で結ばれた同士が惹かれ合い始めたのだとか、婚約者のいる身で禁断の恋の始まりだの、ツィールがこの大会に出たのはヴァルムントに打ち勝って皇女を勝ち取る為だの、ありもしない噂が!!
お昼休憩を終え、席に戻ったところで兵士さんから寄せられたその噂におれは大きく目を見開き、お兄様は腹を抱えて最終的には咳き込むほど笑い始めたのだった。