55.決勝前夜
◆
準決勝第2試合の後、
医務室に運ばれたアルターをトーマは無表情で見ていた。
「アルター…」
フィーナが心配そうに呟く。
「だいじょうぶかな…。」
「大丈夫だろ。死んでないんだから。」
トーマはフィーナにそう言い放つ。
「アンタってやつは…。」
リアナはそんなトーマの言葉に呆れ気味に言う。
そんなリアナを無視して、トーマはアルターとバニングの戦闘を振り返っていた。
(バニング…やはり規格外か。アルターでもあっさりと…。)
(あれで【獣化】を使っていない…強すぎるだろ。)
トーマは拳を握りしめる。
(だが…俺には勝算がある。ヤツがくれた…【反転】の新たな可能性の力。それを使えば…。)
そう考えているうちにアルターが目を覚ます。
「「アルター!」」
フィーナとリアナが心配して駆け寄る。
「大丈夫か?」
「ああ…なんとかな。」
アルターは苦笑しながら答える。
「バニング…あいつは化け物だな。俺じゃ歯が立たなかった…。」
がっくりとうなだれるアルターだが、顔を上げるとトーマを見る。
「トーマ…お前ならやれるか?」
「…わからん。」
トーマは正直に答える。
「だが…やるしかない。」
「そうか…」
アルターは頷く。
「なら、一つだけ言っておく。」
アルターは真剣な表情でトーマを見つめる。
「バニングは…まだ本気じゃなかった。【獣化】…そして、さらに不穏な力を感じた。」
「不穏な力…?」
「ああ。俺にもわからないが…あいつが本当に本気を出した時、何かが起こる。それだけは確かだ。」
アルターの言葉にトーマは頷く。
「…わかった。気をつける。」
「頼むぞ、トーマ。お前とは闘えなくなったが、俺はお前を信じてる。」
そう言ってトーマを激励しようとするアルターに
「言われなくても俺は勝つつもりだ。」
トーマは冷たく言い放つ。
「だから…お前の仇は取ってやる。バニングを倒してな。」
その言葉にアルターは笑った。
「ああ…頼んだぞ。」
◆
その夜、宿屋の一室。
トーマは一人、ベッドに腰掛けていた。
明日の決勝のことを考えると、冷静な分析が頭を支配する。
(バニング…あの男に俺は勝てるのか?)
窓の外を見ると、満月が夜空に輝いていた。
(まずは…自分の状態を確認しておくか。)
トーマは【鑑定】で自分のステータスを確認する。
――トーマ Lv 222
ATK:SS DEF:SS INT:SS RES:SS AGI:SS
スキル:【反転】LvG1【英雄】Lv1 【鑑定】Lv5
(レベル222…レベルが大幅に上がった。あの意識を失ってる間に、確かに何かが変わった。)
トーマは【英雄】のスキルについても考える。
(【英雄】…どうやら【仲間】と【不屈】が合体したスキルらしい。つまり、味方の能力向上と、ピンチの際に力を引き出す能力が統合されたものか。)
(だが、これもまだ完全には理解できていない。実戦でどこまで使えるかは未知数だ。)
次に、【反転】の変化について思考を巡らせる。
(今まで【反転】は、視認したものの状態を反転させる能力だった。でも…シェド戦で変わった。)
トーマは自分の手のひらを見つめる。
(シェドの攻撃が当たらなかった。影に隠れていても、投影の後ろにいても…俺を狙う意思そのものを感知して、反転させた。)
(つまり…【反転】LvG1は、視覚に頼らず『感覚で把握したもの』を反転させることができる。敵意や攻撃の意図を感知し、それを【反転】する。)
トーマは拳を握りしめる。
(だが…まだ完全には使いこなせていない。集中力が必要だし、長時間の維持は難しい。)
(それに…バニングのような規格外の相手に通用するかどうかは未知数だ。アイツは【剛力】【不屈】【獣化】、そして得体の知れない【??】まで持っている。)
(特に…【獣化】。アルターですら使わせることができなかった。それほどの化け物が相手だ。)
トーマは窓の外の月を見上げる。
(それでも…俺は勝たなければならない。この世界で生き残るために。)
トーマは深呼吸をする。
(明日は…全てを懸ける。)
窓の外では、満月が静かに輝き続けていた。




