54.アルターVSバニング
シェド戦後、控え室に戻ったトーマを、フィーナとリアナが駆け寄ってきた。
「トーマ!」
フィーナが満面の笑みでトーマに抱きつこうとするが、トーマは軽く避けた。
「やめろフィーナ。汗だらけだ。」
「でも、すごかった!」
フィーナは嬉しそうに飛び跳ねる。リアナも安堵した表情を浮かべていた。
「心配したわよ…最初はあんなボコボコにされて。」
「悪かったな。」
トーマは短く返すと、部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろした。
「それにしても…どうやって逆転したの?あの最後の攻撃、シェドは影に隠れてたはずなのに。」
リアナが首を傾げる。
「…運が良かっただけだ。」
トーマはそう言って考え込む。
(【反転】の変化についてむやみに言うべきではないな。)
精神世界で起きたことのせいかトーマは心の中で警戒心を保っていた。仲間とはいえ、自分の能力の変化について明かすつもりはなかった。
「運…?でも、明らかに何か変わってたわよね?」
「運命の女神さまが味方してくれたのかもな。」
リアナが食い下がろうとしたが、その時控え室のドアがノックされた。
「入っていいか?」
低く落ち着いた声。アルターだ。
「アルター。」
トーマが返事をすると、アルターが入ってくる。
「すごい試合だったな。特に後半…お前、まるで別人のようだった。」
アルターはトーマを真っ直ぐ見つめる。
「何があったんだ?」
「別に。ただ…本気を出しただけだ。」
トーマは表情を変えずに答える。
アルターはトーマの様子を見て、何かを察したような表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。
「そうか…まあ、勝てたならそれでいい。」
アルターは肩をすくめる。
「さて…俺の出番だな。次はバニングとの準決勝だ。」
その言葉に、部屋の空気が引き締まる。
「バニング…」
リアナが緊張した面持ちで呟く。
「ああ。正直、勝てる気はしないが…全力でぶつかってみるさ。」
アルターは淡々と言う。
「負けるな。」
トーマが短く言い放つ。
「俺以外に負けるのは許さない。」
その言葉にアルターは笑った。
「ははは…相変わらずだな、お前は。わかった、やれるだけやってみるさ。」
アルターはそう言い残し、闘技場へと向かっていった。
◆
『さあ!準決勝第二試合!』
実況の声が会場中に響き渡る。
『一方は予選から圧倒的な強さを見せ続け、A級ライセンスを持つ大剣使い!アルター選手!』
アルターが闘技場に姿を現すと、歓声が上がる。
『そして、もう一方は!三年連続優勝!共和国最強の男!バニング・ロレアル選手!』
バニングが現れると、会場の空気が一変する。
圧倒的な存在感。
それだけで、勝負が決まっているかのような雰囲気。
バニングはアルターを一瞥し、不敵に笑った。
「お前か…A級とはいえ、随分と上がってきたじゃねえか。」
「光栄だな。最強の男と戦えるなんて。」
アルターは落ち着いた口調で返す。
「だが…お前じゃ俺の飢えは満たせねえな。」
バニングは興味なさそうに言う。
「さっさと終わらせて、次のトーマとやらと戦いてえんだ。」
その言葉にアルターの目が鋭くなる。
「舐めるなよ、バニング。俺も…それなりにやれる自信はあるぞ。」
アルターは素手で構える。
(この闘技大会は武器禁止か…だが、素手でも俺にはやれることがある。)
二人は対峙する。
審判が手を上げる。
会場が静まり返る。
そして…
「始め!」
審判の声と共に、準決勝第二試合の火蓋が切って落とされた。
バニングが動く。
いや、消えた。
「!?」
アルターは瞬時に警戒態勢に入るが、次の瞬間、背後から凄まじい殺気を感じた。
(速い!)
アルターは咄嗟に腕で防御する。
ドゴォン!
鈍い音と共に、アルターの体が大きく吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
アルターは空中で体勢を立て直し、地面に着地する。
(この速さ…そして威力…!腕が痺れる…!)
「おいおい、防御だけじゃつまんねえぞ。」
バニングは退屈そうに言う。
「もっと本気出せよ。お前ならもっとやれるだろ?」
その言葉にアルターは歯を食いしばる。
(くそ…武器なしじゃここまで差があるのか…!)
アルターは決断する。
(【闘気】!)
アルターの全身から黄金の気配が漂い始める。
「おっ?【闘気】か!面白くなってきたじゃねえか!」
バニングは興奮した様子で構える。
二人の激突が始まる。
アルターの拳とバニングの拳が何度も激突し、その度に衝撃波が会場を揺らす。
「いいぞ!もっと来い!」
バニングは嬉しそうに笑いながらアルターの攻撃を受け止める。
アルターは【闘気】で強化した拳を振るい、バニングの顔面を狙う。
バニングはそれを避けるが、アルターは即座に回し蹴りを放つ。
「おっ!」
バニングは腕でガードするが、その威力に少し後退する。
「やるじゃねえか!」
バニングの目が輝く。
(いける…!こいつ、まだ本気じゃない!)
アルターはさらに攻撃の手を緩めない。【闘気】を全身に纏い、連続攻撃を仕掛ける。
左ジャブ、右ストレート、膝蹴り、回し蹴り、そして跳び蹴り。
バニングはそれらを次々と捌いていくが、その表情には明らかな興奮が浮かんでいる。
「面白い!面白いぞ!」
バニングが笑いながら反撃に転じる。
だが、アルターもそれを読んでいた。バニングの拳を最小限の動きで避け、カウンターの肘打ちを放つ。
ゴッ!
肘打ちがバニングの顎を捉える。
「!」
バニングの顔が僅かに上を向く。
会場がどよめく。
『おおっと!アルター選手、バニング選手にまさかのクリーンヒット!』
実況の声が響く。
だが、バニングは笑っていた。
「ハハハ!いいぞ!アルター!」
バニングの全身から、さらに強大な気配が溢れ出す。
「【剛力】!」
バニングの拳に【剛力】が発動する。
アルターは即座に防御態勢に入るが、次の瞬間―
ドゴォォン!
バニングの拳がアルターの腕を通して腹部に衝撃を与える。
「ぐっ…!」
アルターは吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着地する。
(くそ…さすがに【剛力】は重い…!)
アルターの腕が痺れている。
「まだまだ!」
アルターは再び突進する。【闘気】を最大限に高め、全力の連打を放つ。
バニングもそれに応える。二人の拳が激突し、衝撃波が次々と会場を揺らす。
観客席では―
「アルター…すごいわ!あのバニングと互角に…!」
リアナが興奮して叫ぶ。
「すごい!」
フィーナも目を輝かせている。
トーマは冷静に戦いを分析していた。
(アルター…善戦してる。だが…バニングはまだ本気じゃない。【獣化】を使っていない。)
トーマの読み通り、バニングはまだ余裕を残していた。
だが、その表情には確かな満足感が浮かんでいる。
バニングが戦いながら問う。
「アルターか…お前、強いな。久々に楽しめてる。」
バニングの目が鋭くなる。
「だが…そろそろ終わりにしねえとな。」
バニングの雰囲気が変わる。
(来るか…!)
アルターは警戒を最大にする。
「【獣化】…使おうかと思ったが…」
バニングは一瞬考え込む。
「いや、お前にはまだ必要ねえな。このままで十分だ。」
その言葉にアルターは驚く。
(俺では…【獣化】を使わせるほどじゃないのか…!)
「いくぞ。」
バニングがそう言うと次の瞬間、バニングの速度が倍になる。
「!?」
アルターは反応できなかった。
バニングの拳が、アルターの腹部、顔面、脇腹に次々と叩き込まれる。
「ぐっ…がっ…!」
アルターは防御する暇もなく、一方的に攻撃を受ける。
(速い…これが…最強の男…!)
最後に、バニングの渾身の右ストレートがアルターの顔面を捉える。
ドゴォォン!
アルターは吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられる。
そしてそのまま地面に崩れ落ちた。
審判が駆け寄り、アルターの状態を確認し戦闘継続は出来ないと判定された。
『戦闘続行不可能!勝者、バニング・ライオンハート!』
会場が歓声に包まれる。
だが、バニングは少し残念そうな顔をしていた。
「まだ…まだ足りないな。」
そして、観客席のトーマを見た。
「次はお前だ、トーマ。アルターより強いんだろうな?俺の飢えを満たせるのは…お前しかいねえ。」
バニングはそう言い残し、闘技場を後にした。




