50.本戦開始
闘技大会・本戦当日
夜が明けきらぬうちに、ロレアルの街はざわめきで目を覚ました。商人たちは特需を狙い夜明け前から屋台を開き、歓楽街の看板は徹夜で灯りをともし続ける。――闘技大会本戦の日である。
宿のロビーに降りて来たトーマとアルターを、リアナとフィーナが満面の笑みで迎えた。
「トーマ、アルター。朝食は軽めに済ませておいたほうがいいわ。試合前に重いものを食べると動きが鈍るから」
リアナが大皿のフルーツを差し出すと、フィーナも祈るように手を合わせた。
「トーマ、アルター。二人なら絶対に勝てるよ!でも無茶はしないで。」
アルターは豪快にリンゴをかじり、二人の頭をぽんぽんと叩く。
「任せとけ。負ける気なんざ毛頭ないさ…それがトーマであってもな。」
トーマはアルターの宣戦布告を受け止め、
「俺は――誰にも負けない、それが【大剣】であっても、相手が最強であってもな。」
コロッセウム前広場には巨大な花道が設えられ、選手入場のファンファーレが空へ鳴り渡る。黄金のタペストリーが翻り、紙吹雪が朝陽を反射して舞い落ちる中、16人の闘士が二列になって入場した。
アナウンサーの甲高い声が魔力拡声器から轟く。
『諸君、待ちに待った闘技大会本戦だ! 本日はここロレアル、いや世界で最強の座を決める闘いだ! さあ、選手の入場です!!』
観客席は割れんばかりの歓声に包まれた。武闘台中央へ進んだ16人は半円に並び、互いの様子を探る。
トーマは正面左から3番目の立ち位置だった。そこから一番右端の相手を見る。トーマの視線の先にはバニングがおり、バニングもトーマを見据えた。獣のように盛り上がった肩、かすかに立ち上る闘気――その存在感だけで圧倒的であった。
(あのバニングを越えなければ、この先出あうであろう出あうであろう強者に勝てない…今日超える。)
バニングもトーマを見つめて不敵に笑う。火花が見えるような視線の交錯。その横でアルターが両者を見据える。
この世で最も熱い闘いが始まろうとしていた。
――第一回戦。
トーマの相手は“血煙の”マルキアス。獣人族の蹴撃を得意とする攻撃型だったが、トーマは序盤から一歩も引かず、【反転】を絡めた三連撃で膝を折らせ一本勝ち。アルターもまた、鎧巨人の異名のゴリオスを闘気を纏った渾身の突きで吹き飛ばし、危なげなく二回戦へ至った。
観客が熱に浮かされる中、武闘台では試合が進行する。二回戦はトーマは技巧派の拳闘士エルナードを、アルターは魔闘術ハンナを、それぞれ余力を残して下す。二人の勝利コールが重なった瞬間、スタンドは巨大な歓声のうねりとなった。
そして――
『ここからは王者参戦! 我らが絶対王者、バニング・ライオンハート!』
白亜の出場ゲートが開くや、黒いマントを翻したバニングがリングへ歩む。相手は二回戦を勝ち抜いた格闘僧プラーガ。1回戦は瞬脚のネスミスとの対戦だったがスピードもパワーも兼ね備えた相手を圧倒して勝ち上がってきた猛者だった。観客も良い勝負を期待していたが、開始のゴングが鳴った瞬間、バニングはただ右足を一歩踏み出し、右腕を緩く振り抜いただけだった。
掌底――いや、軽い払撃。それだけでプラーガは空中を回転し、リングの外壁に激突して昏倒。王者は土煙の動揺をものともせず、肩を回して退屈そうに欠伸をした。
『バニング選手、まさかのワンブローKO! 動いたのは片腕だけ! これが王者の貫禄だァァァ!』
観客は悲鳴混じりの歓喜を上げ、トーマは試合場外で拳を握った。
(相手は弱くはなかったーーが、たった一撃……!)
改めてバニング・ライオンハートの強さを見せつけられる試合となった。
陽が傾き、武闘台には再び整地の魔術がかけられる。砂塵と血痕が瞬時に消え、夕陽を浴びた舞台は赤金に輝いた。
ベスト4――準決勝は次の対戦に決まった。
【準決勝第一試合】
トーマ VS シェド
【準決勝第二試合】
アルター VS バニング
控え室の通路。トーマは武闘台に向かう途中、アルターが壁にもたれ掛かって待ち構えていた。
「順調だな。」
「お互いな。」
アルターの言葉にトーマはそう返す。
「次の相手はかなり曲者みたいだぞ?」
「そうみたいだな。…でもアンタほどじゃない。」
「…それもそうだな。」
アルターは笑う。
「俺と闘う前に負けるなよ?」
「それは俺のセリフだよ…まあ安心させてやるよ。」
トーマはそうアルターに告げると先へと進む。
日が傾き、空の色が朱色に染まる中、闘技場は準決勝の開幕を告げる大歓声で揺れた。




