49.本戦前夜
闘技大会本戦前日の夜、バニングはいつも通り修業を行っていた。バニングは集中して自分の感覚の領域を広げていく。その中の空気は張りつめており、常人なら立つことすらままならないほどの圧で満たされていた。そして、その中に入ってくる人物がいた。
「…サラか」
「相変わらず鋭いやつだね。これでも気づかれないように入ってきたつもりなんだけどね。」
サラは肩をすくめながらバニングに話しかける。
「能書きはいい。用件を言え。」
「…相変わらずせっかちさね。」
サラはため息をつきながら告げる。
「あんたのお気に入り、勝ったよ。しかも、あのバルサスに勝ってね。」
「バルサス?誰だ?…でもそうか。」
バニングはトーマが勝ったことに浮かれている様子だった。
(トーマ…予想通り勝ち上がっていたな。くくく…またこの渇きを潤わせてくれ)
そう思いながらバニングは先ほどより圧を上げた。そして、誰もいない虚空と闘い始めたのだった。
「本当に戦闘バカだね。…だからこそアンタは最強なんだよ。」
サラには見えていた。バニングが闘っている虚空に、前回闘ったトーマの姿が。
もはやサラの存在すら忘れ去ったバニングは最高の状態のトーマの幻影と闘い続けるのであった。
その頃、コロッセウム近くの宿ではトーマたちも本戦前の晩餐を終え、各自の部屋へ戻ろうとしていた。
アルターは大剣の手入れを済ませると、窓際に腰かけて静かに目を閉じる。バニングとの決戦はトーナメントを勝ち抜いた者のみがたどり着ける頂――その頂で、自分が先に最強へ挑む。胸の高鳴りを抑えきれず、戦士としての血が騒ぐ。
リアナとフィーナはすでにベッドの上で眠っていた。
トーマは森に出てイメージトレーニングをしていた。明日の本戦を考えると眠れずにいた。
少しでもバニングに勝てる要素を見つけようとするが、サラの言葉、【鑑定】で見たバニングの能力、そこから導き出される答えは自ずと同じ答えにたどり着いていた。
(今の状態だとアルターもそうだが…バニング、あいつに勝つイメージが湧かない。)
今までは【仲間】の能力のバフ効果があったが、それのない状態での身体能力はトーマの反射に追いつくことができていなかった。
彼はそっと右手を掲げ、【鑑定】を自分に向ける。
――トーマ Lv 222 ATK:SS DEF:SS INT:SS RES:SS AGI:SS スキル:【反転】Lv9 【仲間】Lv2 【不屈】Lv9 【鑑定】Lv4
バニングとのエキシビジョン、アルターの模擬戦、そして闘技大会予選を経て、【反転】と【不屈】】、【鑑定】がそれぞれ成長しているのを確認するーーしかしまだ足りない。
(バニングはそもそもの身体能力とスキルレベルが高い…しかも【獣化】に【??】もある。ーー手札が足りない。)
トーマはバニングとの差を考える。バニングになくて自分にあるもの。
(少なくとも【反転】はアイツにとって優勢を取れる唯一の武器だ。【反転】の可能性…他にないのか?)
そうしてトーマは右手を木に向かってかざし、【反転】を発動する。
だが何も変わらなかった。
(都合よく何か変わるわけがないか…だが)
この世界の理不尽を跳ね返す力。【反転】にはその力がある。
(必ず…勝機をつかむ!)
トーマはその後もトレーニングを繰り返した。そうして、明日の戦いに備えるのであった。




