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最弱スキル【反転】で無双する異世界冒険譚  作者: いわたん
第三章 強くなるために
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46.ロレアルの夜

ロレアルの議会場から少し離れた場所にある大きな屋敷。その地下には闘技台ほどの広さを持つ空間があり、床や壁、天井の全てにアダマンタイトが張り巡らされていた。この堅牢な部屋で、バニング・ライオンハートは目を閉じ、静かに気を高めていた。部屋全体に漂う緊張感が彼の集中力を物語っている。


次の瞬間、バニングの身体は目にも止まらぬ速さで部屋全体を駆け巡った。残像さえ残さない速さで動き、最初の構えに戻る。その動きは一切の無駄がなく、空間全体が彼の動きによって支配されていた。


「相変わらずね、自分を高めることにご執心だわ。」


部屋に足を踏み入れたのは、闘技場のオーナーであるサラ・マーキュリーだった。彼女は少し感心したような口調でバニングに話しかける。


「……この高まった気持ちを収めるにはこれしかないんだ。」


バニングは目を閉じたまま静かに答えた。そして続ける。


「少なくとも、お前が止めなければな。」


その言葉には皮肉が含まれていたが、サラは気にする様子もなく肩をすくめた。


「何言ってるのよ。あれ以上やっていたら、どうせ“アレ”を使ってたでしょう?」


サラの言葉にバニングの表情が一瞬だけ険しくなる。そして、冷静さを取り戻すと再び語り始めた。


「……アイツは極上の獲物だ。俺の全力を出せる相手だと匂いでわかる。」


その言葉を口にするバニングの顔は、喜びに満ち溢れていた。その目は次の戦いに向けて燃え上がり、獣のような鋭さを宿している。


サラはそんなバニングを見ながら小さくため息をつく。


「ま、アンタがそこまで言うなら、闘技場が盛り上がるのは間違いないわね。でも、絶対に殺すんじゃないわよ?」


サラの釘を刺すような言葉に、バニングはふっと鼻で笑った。


「ふん、俺の渇きを満たせない相手に情けはかけないさ。ただ、頭の片隅には入れといてやる。」


そう言い放つと、バニングは再びトレーニングに戻った。その動きは、まるで自分の限界を超えるための儀式のようだった。


サラはそんなバニングの様子をしばらく見守り、そして思い出していた。


(全く……昔の悪ガキの頃を思い出すわね。)


彼女が初めてバニングと出会ったのは、彼がまだ少年だった頃のことだ。生きるために必死で戦い続けていたバニング。汚れた顔と鋭い目つきで、誰もが彼を恐れ敬遠していた。


(あの頃は本当に生きるのに必死なガキだった。それが今じゃ、共和国最強の戦士なんだからね。人生って本当に面白いわ。)


サラの目には、かつての少年の面影が今のバニングに重なって見えた。


バニングはそのまま壁に向かい、一発、拳を叩きつけた。その衝撃で壁全体が鈍い音を立てたが、アダマンタイトの壁にはヒビが入っていた。


「次の闘技大会……楽しみにしていろよ。」


その呟きはサラの耳にも届いたが、彼女はそれ以上何も言わず、部屋を後にした。


(本当に手のかかる男だよ、全く。)


そう心の中で呟きながらも、彼女の顔には微笑が浮かんでいた。




バニングとサラがバニング邸で会っている時、トーマはロレアルの外れに出て、夜風を浴びながら静かにバニングとの戦いを振り返っていた。

バニングの身体能力は異常とも言えるほど高く、それに加えて【剛力】、【不屈】、そして未知のスキル【獣化】を持つ。さらに【??】という謎のスキルも控えている。


「正直、正攻法では何もできなかったな……」


とトーマは苦い笑みを浮かべた。


バニングとの戦いでは、トーマは【反転】と【鑑定】を駆使したものの、終始劣勢を覆すことができなかった。特にバニングのスキル【獣化】が持つ能力は頭痛の種だった。アルターの話によれば、【獣化】は攻撃力と防御力を何倍にも引き上げる効果があるが、その代償として知性が若干失われるという。しかし、それでもバニングの戦闘能力は群を抜いていた。


「【剛力】と【獣化】を併用されたら、もうチートみたいなもんだな」


とトーマは一人つぶやく。


さらに問題だったのはトーマ自身のスキル【仲間】だった。このスキルはおそらくパーティを組んだ際に発動する支援系の能力だが、一対一の戦闘では全く機能しない。そのため、バニングとの戦闘ではスキルが一つ無いも同然の状態だった。


(俺のスキルが制限されてるのに、アイツは全部使える……これがMMOの世界なら、運営に文句言いたいレベルだな)


と自嘲気味に思った。


それでも、トーマはバニングを倒すことがこの世界で生き延びるための試練だと考えていた。


(あいつを倒せれば、俺がこの世界で生き残ることが出来るだろうな)


そう考えているトーマの背後から声がかかった。


「こんな夜更けに何を出歩いてるんだ?」


振り返るとそこにはアルターが立っていた。


「アルターか……」


トーマが短く返すと、アルターはすぐに核心を突いた。「バニングのことか?」


「ああ。正直、【鑑定】で見たスキルとステータスじゃ勝ち筋がない」


とトーマは正直に答えた。それを聞いたアルターは少し間を置いてから口を開いた。


「アイツはこの世界で5本の指に入る強者だからな。本来、勝とうとすること自体が無謀だ」


「なら、そのバニングに勝てれば俺も5本指の仲間入りができるってことか?」


その問いに、アルターの顔が引き締まった。


「……本気か?」


「少なくともこの世界で一番強くならないと、自分を守れないからな」


とトーマは真剣に答える。その言葉にアルターは一瞬目を丸くしてから、クックックと笑い始めた。


「お前はほんと、そういう奴だよな」


アルターは笑いながら、自身のアイテムボックスから大剣を取り出した。


「トーマ、久々にやろうじゃないか。バニング対策を兼ねてな」


トーマも頷いた。


「ちょうど頼もうと思ってたところだ」

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