44.エキシビジョンマッチ
バニングからの宣戦布告。それにトーマは応え、バニングvsトーマのエキシビジョンマッチが始まろうとしていた。
お互い舞台上で相手を観察する。トーマが先に口を開いた。
「なんで、俺と闘おうと思ったんだ?」
その言葉を聞き、バニングは空を見上げた。
「俺は…渇いているんだ。」
続けてバニングは語る。
「何度も…何度も何度も何度も強い奴を切望した…だが、そんな奴はほとんど現れやしねぇ。どいつもこいつも見かけ倒しでなんの味もしねぇ!だから俺は強者に飢えている!」
バニングはトーマを指差し、続けた。
「その飢えが極限に達しようとするとき!…お前みたいな奴が現れるんだよ。」
その言葉と迫力にトーマは戦慄した。
(こいつ…戦闘狂かよ…)
そう思いながらも、トーマは言葉を返す。
「そいつは光栄だな。共和国最強の実力を是非堪能させてくれよ。」
トーマが構えると、バニングも応じて構えた。
「俺を存分に楽しませてくれよ?」
「それでは始め!」
審判の合図とともに、両者は一斉に動き出した。
(まずは手始めに一発!)
トーマはバニングの側面に回り、死角から攻撃を仕掛ける。しかし、バニングは当然のようにそれを避け、カウンターで拳を放つ。トーマは【反転】でギリギリ避けるが、さらに追撃の拳が飛んできた。トーマは辛うじてかわしつつ反撃の蹴りを試みるが、防がれる。その攻防が何十回も続いた後、両者は距離を取った。
(さすがだな...付け入る隙がない。)
トーマはこの攻防で【反転】を多用していたが、バニングはスキルを何一つ使っていなかった。
(基本能力と経験の差…か、早めに【剛力】を使ったバニングを攻略しないと…)
そう考えている間、バニングは自分の拳を見つめていた。
「…おまえ、何かしてるな?」
バニングは攻撃が全て当たらなかったことに疑問を抱いていた。トーマもその洞察力に感心しつつ、(さすがにバレるか…)と冷静を装った。
(まだ【反転】そのものがバレたわけではないからやりようがある。)
すると、バニングの雰囲気が変わった。
「面白い…面白いぞ!お前ならあいつと一緒で耐えてくれるよな!?」
バニングが叫ぶと同時に、【剛力】が発動された。
(ここからが本番か…)
トーマは警戒度を上げた。そしてバニングが…動いた。
「!?」
トーマはバニングを見失い、次の瞬間、左腕にバニングの拳がヒットした。
(くっ!)
トーマは衝撃で回転しながら遠くに着地した。ヒットする直前、バニングの拳に【反転】をかけ直撃を避けたものの、左腕は完全に折れていた。
(かすっただけでこれかよ…)
レベルアップにより体は以前より強化されているはずだったが、これが共和国『最強』の実力なのかとトーマは戦慄する。それでも、バニングは止まらない。四方八方から目で追えないスピードで一撃必殺の拳を何度も繰り出してくる。
トーマはそれを初めは苦戦しつつも、徐々に対応し始めたが、ダメージは確実に蓄積していく。
(このままじゃジリ貧だ!)
トーマは【反転】を使い、バニングの攻撃の方向を大きく変える。
「なっ!?」
バニングは驚き、その隙にトーマは距離を取った。さらに死角へと移動し、自分自身に治す方の【反転】をかけた。
「なるほど…【反転】か。」
バニングはそう呟き、少し残念そうな顔を見せた。しかし同時に嬉しそうに微笑む。
「【反転】なのは少し残念だが、お前の強さは本物だ!もっとやりあおうじゃないか!」
再び構えるバニング。彼の猛攻はまだまだ続くのであった。
トーマとバニングの戦いを観客席で見ていたリアナたちは、その激しさに驚愕していた。
「バニング…強すぎでしょ!あのトーマが子ども扱いじゃない!」
リアナが叫ぶと、アルターが応じる。
「最強の男だからな…だが、トーマの動きもいつもより悪い気がするがな。」
「私たちと一緒の時より遅い気がする。」
フィーナが答え、リアナも同意する。
「確かにそうですね…」
(バニングは強いが、正直反撃できないほどではないはずだ…どうしたトーマ?)
アルターは心中で疑問を抱く。
バニングが再び動き始め、トーマの視界から消える。
(…やっぱり、能力が落ちてるな。)
トーマも自覚していた。いつもより自分の動きが鈍いことに。おそらく原因は【仲間】のスキルの影響であることも。
(1対1ではこのレベルが限界か…ならやることは一つだ!)
バニングの動きに目は慣れてきた。そしてバニングの拳がトーマを襲おうとした瞬間、トーマは自分に拳を振りかぶった状態で自身に【反転】をかける。
バニングの拳がトーマの左腕を掠める。しかし、【反転】でバニングの顎に向くように調整したトーマの拳はバニングの顎にクリーンヒットした。
その瞬間、バニングの動きが止まる。会場も静寂に包まれた。だが次の瞬間、「ワァァァァァ!!!」と大歓声が沸き起こる。
観客席ではアルターがガッツポーズを決め、リアナとフィーナは抱き合って飛び跳ねていた。
(やっぱり…これしかないか。)
トーマは自分の腕を犠牲にして放ったカウンターの一発に手ごたえを感じていた。
(これで少しはダメージを受けて欲しいんだが…)
そんなトーマの思考を余所に、バニングは呆気に取られていた。やがて彼は笑い出す。
「フフフ…ハハハ!」
トーマを見つめるバニング。
「やはり!予感は正しかった!」
バニングは興奮しながら歓喜の表情で叫ぶ。
「さあもっとやりあおう!」
さらに追撃を開始しようとしたその時、
「そこまで!」
と女性の声が響く。
バニングは声の主を見て動きを止めた。
「オーナー!止めるんじゃねぇ!」
舞台横から現れた女性は静かに告げる。
「せっかくの好勝負の所申し訳ないけど、このような試合をエキシビジョンでやられると困るわ。」
バニングは舌打ちしながらトーマに向き直る。
「おい!おまえの名前は!」
「トーマだ。」
「トーマか…次の闘技大会に必ず参加しろ!この続きはその時だ!」
そう言い残し、バニングは去っていった。
トーマはほっとしつつ、舞台に残った女性に向き直る。
「なんで止めたんだ?」
女性は微笑みながら答えた。
「このまま闘っていたらあなたの負けでしたわ。」
トーマが怪訝そうな顔をすると、彼女は続けた。
「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私の名前はサラ・マーキュリー。この闘技場の全権限を持つ者よ。」




