side:【剣聖】とアイン
アイン・フォースガルドとユウトは、帝国と王国の境界にあるウェッジの街に到着していた。この街は両国の緊張感が漂う最前線であり、常に戦争の危機があった時は戦場になっていた街だった。そのような緊張感漂う地帯ではあったが、アインは驚くほど落ち着いた様子を見せていた。
「ユウト、お前にはこの街での任務をこなしてもらう。」
アインはユウトに冷静にそう告げた。彼の飄々とした態度は変わらないが、その言葉にはどこか期待も含まれているように思えた。
「わかりました!」
ユウトは剣を握り締め、強く頷いた。しかし、内心では焦りを隠せなかった。アインの圧倒的な実力を目の当たりにした彼は、自分の未熟さを痛感していたからだ。
時間は遡り、王の前での邂逅以降ユウトはアインとの剣技の修行を行っていた。その内容は真剣を使い"アインに一撃を入れる"だった。
最初それを聞いたユウトは
「そんな危ないことを味方同士でやるなんておかしい!」
と抗議したが、
「味方だから斬れない?もしそいつがスパイだったら切らないのか?」
とアインに返され、ユウトは「ぐっ!」と反論出来なかった。
「いざという時に敵を斬る…こんな戦場の常識も知らないお坊ちゃんが勇者候補とか笑わされるね。」
アインの言葉にユウトは何一つ言い返すことが出来なかった。
「だからさ…その甘さを捨てさせるための修行さ。大丈夫、君の腕や足が切られようとそこの【聖女】様が治してくれるよ。」
そう言ってアインはミサキの方を見る。見られたミサキはそのアインの悍ましさに、顔が青くさせ震えていた。
「さて…来い。全力でな。」
アインが剣を抜き構える。その姿勢からは隙が全く見えない。ユウトは緊張しながらも剣を振りかぶり、全力で突進した。
「はあっ!」
彼の剣がアインに届く寸前、アインはほとんどその場から動かず最小限の動きで避け、逆にユウトの剣を弾いた。その衝撃でユウトの手から剣がこぼれ落ちる。そして、ユウトの両腕を斬り落とした。
「ガアァァァァァア!?」
ユウトが絶叫する。
「腕を切り落とされたぐらいで大げさだね...叫べば敵は優しくしてくれるのかい?」
アインは冷たい声でそう言うと、剣を軽く地面に突き立てた。
「ユウト!」
ミサキはユウトに駆け寄り、ユウトの切り落とされた腕をもって回復魔法をかける。
「ハイヒール!」
切り離された腕が瞬く間につながっていく。
それを見てアインは
「相変わらず回復魔法はすごいねぇ...」
と邪悪な笑みを浮かべる。
ミサキに回復してもらったが、全く相手にならないどころか両腕を斬り落とされたショックでユウトは茫然自失する他なかった。
(なんで…なんで…)
ユウトは恐怖のせいか地面に両膝をつき、立てずにいた。彼の全力はアインにとっては取るに足らないものであることを痛感する。だが、アインはさらに追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「まだ始まったばかりだよ?立たないなら首を切り落とすけどいい?」
ユウトはそのアインの言葉にハッとしながらもその言葉の真実性を知り、直ぐに立ち上がり剣を持つ。そんなユウトをミサキは止めようとする。
「こんなの修行でも何でもないわ!もうやめよう!」
そんなミサキにアインは言う
「甘いねぇ…実に甘い。温室育ちは所詮温室でしか育たない、か。」
「温室育ちでも構わないわ!私たちは望んだわけじゃないもの!」
そうミサキが反論すると、ユウトが反応する。
「それは違うよミサキ。」
「え?」
「僕たちはあの日決めたはずだ。もう何も奪われないように強くなると」
そう言ってユウトは立ち上がる。アインに対峙するのはとても怖かった。でもそのおかげで大事な事を思い出せた。
「もう一度…宜しくお願い致します!」
こうしてアインとの地獄とも呼べる修行を1ヶ月ほどこなしてきた。
未だに彼に傷一つ負わす事が出来ていないが、体を斬り落とされることは無くなった。
相変わらずのアインの圧に押し潰されそうになったが、彼は自分が【剣聖】と呼ばれる存在に選ばれたからにはその責務を果たすべくして、彼の出す難題へと取り組み続けるのであった。




