side:シリウス・エーデルハイト
ナラハ王国で【聖女】のスキルを持った者が現れたという報せがプロセリアンド法国に届いた。教皇は即座にシリウスを召喚し、その命を与えることを決めた。
荘厳な教皇の間に足を踏み入れたシリウス・エーデルハイトは、片膝をついて頭を垂れた。
「教皇様、シリウス・エーデルハイト、御身の前に。」
教皇は静かに頷き、口を開いた。
「シリウス、お前に任務を与える。ナラハ王国に現れた【聖女】を我が国へ連れてくるのだ。」
「はっ!」
と短く答え、シリウスは忠誠の意思を示した。
しかし、教皇の言葉は続く。
「もし【聖女】が我が国に来ることを拒むのであれば……その命の灯火がかき消えることも致し方ない。」
その言葉には冷たい含みがあったが、シリウスの表情は一切変わらない。
「必ずや成し遂げてみせます。」
その後、教皇の間を後にしたシリウスは、プロセリアンド法国騎士団を即座に招集。配下たちに作戦を伝えた。
(昔からナラハ王国は狡猾な国ですからね。まずは揺さぶりをかけるために帝国と共和国に協力を仰ぎますか。)
シリウスは帝国と共和国に密使を送り、ナラハ王国に圧力をかけるよう促した。そしてその目論見は成功する。ナラハ王国の最悪と言われる騎士団長、アイン・フォースガルドが帝国方面への対応に動き出したのだ。
(これでいい。アインが帝国に向かえば、こちらの動きも察知されにくくなる。)
シリウスはその隙を突いて行動を開始する。目的はナラハ王国に潜入し、【聖女】と接触すること。そのためにまずはソドム共和国東の街イニツィオを経由しゲヘナの森を通ることを決めた。
イニツィオの街に着いたシリウスが、人混みの中を歩いているときだった。突如として尋常ではない力を感じ、足を止める。
(この感覚は……)
その方向を振り返ると、黒髪の青年が彼を見つめていた。彼もまたシリウスを見据えて動かない。
(ふむ、見たところこの街の冒険者ではなさそうだが……)
興味を抱いたシリウスは青年に近づき、柔らかい笑みを浮かべて声をかけた。
「やあ、君はこの街の冒険者かな?」
青年――トーマは短く
「ああ…」
と答えた。
「私はプロセリアンド法国騎士団長のシリウスだ。君の名前は?」
青年はシリウスの肩書きに驚いた様子だった。
「トーマだ。」
「なるほど、トーマというのだね。」
シリウスは目の前の青年を観察しながら、静かに思考を巡らせていた。
(今の段階では私の相手にはならない。しかし、いつかは肩を並べる存在になる可能性を感じる……。)
「また近いうちに会うだろうね。じゃあね。」
そう言い残し、シリウスは騎士団を引き連れてその場を去った。
シリウスは先程会ったトーマを思い出しながらゲヘナの森への道を進んでいく。
(次に会えるのが楽しみだよ、トーマ……そのとき、君がどれだけ成長しているのか見せてくれ。)
シリウスの表情には微かな笑みが浮かび、彼の目はすでに次の目的地――ナラハ王国を見据えていた。




