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27.グラスとメンター(3)

メンターはグラスにとって、親代わりの存在だった。


30年前、メンターは冒険者として最盛期を迎え、B級冒険者であったがA級も間近と言われていた。彼の名は多くの人々に知れ渡り、数々の危険な依頼をこなして名を馳せていた。彼の剣技と冷静な判断力は、多くの仲間たちからも信頼され、次第に冒険者ギルドの中でリーダー的存在となっていった。


しかし、その時、ナラハ王国とアストラン帝国の間で突如として戦争が勃発した。


当時、ナラハ王国の冒険者ギルドに所属していたメンターは、王国からの要請を受け、戦争に加わることとなった。王国を守るため、メンターはギルドの仲間たちと共に最前線に立った。そこでは彼の日々の冒険とは全く異なる、過酷な現実が待っていた。


激しい戦いの中で、メンターは自らの命を懸けて戦い続けたが、その代償は大きかった。目の前で仲間たちが次々に倒れていく姿を何度も見た。彼らの苦痛の叫びが耳に残り、無力さを痛感する日々が続いた。帝国の軍勢は圧倒的で、王国の兵士や冒険者たちは次々に命を落としていった。


メンター自身もまた、幾度となく死の淵をさまよった。彼の体には無数の傷が刻まれ、その傷跡は、彼がどれだけの死線を越えてきたかを物語っていた。特に彼の右腕には深い傷が残っており、その傷が完治することはなかった。それは彼が戦争で失ったもの、そして生き残った者として背負わなければならない重荷の象徴だった。


戦争が終結し、荒廃した土地に静けさが戻った後、メンターは冒険者としての活動を一時停止することを決めた。戦争で傷ついた心と体を癒すため、彼は静かな生活を送ることにした。日々の喧騒から離れ、自分自身を見つめ直す時間が必要だった。


そんなある日、彼は一人の孤児と出会った。その孤児が、後に彼の弟子となるグラスだった。グラスは当時まだ幼く、そしてその瞳には強い漆黒が宿っていた。戦争の混乱の中で家族を失い、孤独と絶望の中で生き延びてきたグラスの姿にメンターは責任を感じ、メンターはグラスを引き取り、自らの手で育てることを決意した。


彼はグラスに剣の使い方を教え、ただ強くなるだけでなく、心を持った戦士になることを教え込んだ。剣を振るうことは命を奪うことではなく、守るための力であると。そして何よりも、戦う理由を見失わないようにと教えた。


グラスにとって、メンターは父親のような存在だった。彼にとってメンターの言葉は絶対であり、彼が見せた強さと優しさは、グラスにとって理想そのものだった。メンターもまた、グラスを息子のように愛していた。彼に自分の全てを伝え、育て上げることが、自らが戦争で失ったものへの償いのように感じていた。


年月が経ち、グラスはメンターの元を巣立っていった。それと同時にメンターは冒険者ギルドに復帰、元々育成にも定評のあったメンターは冒険者としてではなくて、ギルドの職員として冒険者をサポートする側となった。


グラスは冒険者となってから瞬く間に成長し、A級冒険者として名を馳せるようになった。彼が戦場で見せた剣技と勇気は、多くの冒険者たちに尊敬され、ギルド内でも一目置かれる存在となった。メンターはそんな彼の姿を誇りに思っていた。


ある日、グラスがメンターの前に現れてこう言った。


「俺はこれからナラハ王国で活動をする」


メンターはそれを聞き、驚愕すると同時に反対した。


「おまえはこのソドム共和国で活動するべきだ!」


戦争遺児であるグラスにメンターはその原因の場所に行って欲しくなかった。何よりグラスのことが心配だったからだ。


「反対されても無駄だ。もう決めたことだからな…。」


それでもグラスは揺るがなかった。


メンターはグラスのその目は決意が決まった目、ゆるがない意志を感じ、ついに何も言えなくなった。


「…勝手にしろ!」


「じゃあな、師匠オヤジ


こうしてメンターとグラス、親子であり師弟関係であった二人は別々の道を歩み始めた。




「それが、俺とアイツ(グラス)との関係だ。」


グラスがそうトーマ達に話す。


ナラハ王国と深く関わっていたことで、グラスが現在のような状況に追い込まれてしまったことに対し、メンターは強い責任を感じていた。もしあの戦争がなければ、もし自分があの時止めていれば、グラスがこんな状況に陥ることはなかったのでは?


メンターはデスクに置かれた古い写真を見つめた。それは、かつて共に戦った仲間たちと撮ったものだった。その写真の中には幼き頃のグラスの写真もあった。彼のこれまでの人生の全てが詰まっていた。そして、仲間を守れなかった無念と、今も生き続けている者としての責任が刻まれていた。


深いため息をついたメンターは、トーマたちに向き直り、


「これが、俺が師匠として…親としてアイツ(グラス)に出来ることなんだよ。」


「そうか…」


トーマは静かに頷いた。リアナとフィーナもまた、メンターを見つめていた。


「ならその言葉を信じる。」


トーマはメンターから『道化の首飾り』を受け取った。


「それを付けて外見を多少変えればアイツとは分からないはずだ。そのまま冒険者ギルドに来てくれればいい。俺が話をつけておく。」


そう言ってメンターはギルド長席に戻り椅子に深く腰をかけ、葉巻に火をつけた。


トーマ達はメンターにお辞儀をし、部屋から出ていった。


「アイツ…良い仲間に恵まれたな」


そう言ってメンターは葉巻をゆっくりと蒸すのであった。


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