24.新たな同盟
トーマが目を覚ますと、そこはフィーナの膝の上だった。柔らかい感触とフィーナの優しい表情が視界に入る。少しぼんやりとした頭を振り、彼は周囲を見渡すと、リアナが縄で縛った状態で座らされているグラスを見張っていた。グラスの意識はまだ戻っていない様子だった。
「どれくらい寝てた?」
トーマはフィーナに尋ねた。フィーナは少し考えてから答える。
「1日くらいかな?」
「そんなにか…」
トーマは驚いた。1日も意識を失っていたということは、それだけ無防備だったということだ。彼はその無防備さに反省を感じたが、今は仕方がないと頭を切り替え、周囲の状況を確認することに集中した。そのとき、グラスが目を覚ました。
グラスは状況を理解し、トーマに言い放つ。
「殺せ。」
その言葉にトーマは一瞬の違和感を覚えたが、
(こいつは今後の障害になりかねない。)
トーマは拳を固め、グラスへ振りかぶった。その時、フィーナが間に入ってトーマを止めた。
「なぜ止める?」
トーマがフィーナに問いかけると、フィーナは真剣な眼差しで答えた。
「この人は悪い人じゃない。悪い色がないもの。」
トーマは眉をひそめる。
「こいつは殺人鬼だって聞いてるんだが?」
フィーナは首を横に振りながら言葉を続ける。
「この人からは、人を殺す人特有の黒い色が見えないの。だから、殺さないで」
グラスは苦笑し、肩をすくめた。
「お嬢ちゃん、そいつの言う通りだ。俺はいいやつじゃないぜ?だからさっさとそこをどきな。」
フィーナはその言葉にも首を横に振る。
「私にはその人の感情の色が見える。悪いやつは黒く見えるけど、あなたからはその色が見えないの。」
その言葉を聞いたグラスは驚いた表情を浮かべ、そして次の瞬間、顔を落とした。しばしの沈黙の後、グラスはトーマに向かって言った。
「殺すのはもう少し待ってくれないか?俺にはどうしても殺さなきゃならない奴がいるんだ。」
「それは…誰なんだ?」
トーマは圧倒的な実力を持つグラスが殺したいほど憎んでいる相手がいるのとに興味を持ち、問いかけた。
グラスは真剣な目でトーマを見つめ、力強く答えた。
「ナラハ王国の王国騎士団長、アイン・フォースガルド。あいつだけは、この手で殺さなきゃならないんだ。」
その名前を聞き、トーマは少し考え込むように目を細めた。そして、気になっていることをグラスに尋ねた。
「そういえば…【剣聖】と【聖女】の二人は殺したのか?」
グラスは一瞬訝しげにトーマを見つめ、答えた。
「なんでそんなに気にしてるのかわからねえが…いや、殺してねえよ。薙ぎ払って戦闘不能にしたが、死んでるはずはない。」
その言葉を聞いて、トーマは心の中で少し胸の支えが取れたように感じた。そして、再びグラスに問いかけた。
「なぜ、騎士団長を狙うんだ?」
グラスの顔には怒りが浮かんでいた。
「あいつは俺の大切な仲間に手をかけた。アルとマイン、俺の仲間を。そしてその死を冒涜した。あの時は不覚を取って逃げるしかなかったが、次は万全な状態で奴を潰す。それだけだ。」
その強い決意を聞いたトーマはこの世界に来た時の自分を思い出していた。
甘かった自分、理不尽な状況、変えられない現実…。
そしてトーマはグラスの体のケガを【反転】させた。グラスの体から怪我が一瞬にして消え去った。グラスは驚愕し、トーマを見つめた。
「お前…何をしたんだ!?」
トーマは苦笑いを浮かべながら言った。
「これはサービスさ」
続けて言う、
「奇遇だな…俺もナラハ王国には恨みがある。【剣聖】と【聖女】以外は滅ぼしても構わないくらいには…な。」
その発言にリアナとフィーナ、そしてグラスまでもが戦慄した。トーマの瞳には深い怒りと決意が宿っていた。
「だからさ、同盟を組もうぜ?お前の目的も俺の目的も、それで叶うんじゃないか?」
トーマは手を差し出したまま言った。その手を見つめ、グラスは縛られていた縄を力強く引きちぎり、その手を握った。
「…宜しく頼む。」
握手を交わした瞬間、二人の間に新たな同盟が結ばれたのだった。A級最強と呼ばれる大剣のグラスと、最弱のスキルを持つと嘲笑されてきたトーマ。二人が手を組んだことで、彼らの運命は大きく動き出すことになる。
フィーナとリアナはその様子を見て喜んでいた。
こうして、後にこの世界を揺るがす最強パーティが誕生した瞬間だった。




