side:"あの日"
グラスはナラハ王国から要人をプロセリアンド法国まで護衛するAランク任務を終え、パーティの仲間と一緒に帰路についていた。シーフのアルと魔法使いのマイン。どちらもB級とはいえ、冒険者の中では屈指の凄腕だった。二人はグラスに心酔し、彼の背中を追い続ける仲間だったし、グラスもまた、二人にだけは心を許していた。
帰路の途中、彼らは野宿することにした。焚き火を囲み、軽口を叩き合いながら穏やかな時間が流れていた。
「グラスさん、戻ったらあの店でまた飲み直そうぜ!」
アルがそう言って笑う。グラスも微笑みながら答える。
「ああ、そうだな。今度はお前が奢る番だぞ、アル。」
「またかよ、グラスさん!でもまあいいさ、今回もあんたの剣のおかげで無事に任務も終わったしな。」
「アンタはグラスさんに頼りすぎなのよ!」
マインの言葉にアルが返す。
「いいんだよ!俺はみんなの安全に貢献してるんだから!」
「そうだな」
「もう…グラスさんはアルに甘いんだから…」
そんな風に笑い合っていたその時、アルの表情が一変した。
「待て…」
彼の索敵能力で不穏な空気を感じ取ったのだ。アルの鋭い直感をグラスは信頼していた。そのため、すぐに確認することを提案し、三人でその方向に向かった。
プロセリアンド法国とナラハ王国の間には、ゲヘナの森ほどではないが広大な森林地帯が広がっている。その外れの方で何かぎ起こっている様子だった。
「杞憂かもしれませんが…どうします?」
アルがグラスへ確認する。
「お前の勘は本物だ…確認しにいくぞ」
グラスがそう言うと火を消して森の外れへと向かう。
目的の場所へ向かうたびに嫌な空気が漂っているように感じた。
そして徐々に騒がしい声が聞こえ始め、3人は警戒を強める。
そして…
彼らは忌まわしい光景を目にした。
「なんだ、あれは…」
みすぼらしい格好をした三人のエルフたちが、王国兵士に取り囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けていた。エルフたちはすでに虫の息だった。グラスはその光景に息を飲んだ。
「こんなことが…許されるのか…!」
怒りに震えるグラスは、すぐにアルとマインに指示を出した。
「アル、マイン、行くぞ!奴らを無力化する!」
二人は無言で頷き、グラスに従った。総勢30名ほどの王国兵士たちを相手に、三人は一瞬の隙を突き、圧倒的な力で彼らを無力化していった。兵士たちは成す術もなく、地に倒れ込んでいった。
王国兵士の無力化に成功し、すぐにエルフを助けようと倒れたエルフを助けようとする。
しかし、救おうとしたエルフたちはすでに息絶えていた。無残に傷つけられ、彼らの魂はもうこの世界には存在しなかった。グラスはその場に膝をつき、彼らの冷たくなった体を抱えた。
「俺たちは遅すぎた…すまない…」
その怒りは次第に沸騰していく。しかし、ここで兵士たちを殺してしまえば、ナラハ王国との間に余計な問題を引き起こすことになる。それを避けるため、グラスは冷静さを保ち、アルとマインにその場を離れることを指示しようとした。
その瞬間――
グラスの目の前で、二人の仲間の首が飛んだ。
「アルッ!? マインッ!?」
驚愕し、目を見開くグラスの視線の先で、仲間の体が地に倒れ、そこにはナラハ王国の王国騎士団長、アイン・フォースガルドの姿があった。
「お前が…お前がやったのか!?」
そう言ってグラスはアインに斬りかかる。
アインは微動だにしなかったが、グラスの剣はアインに届かなかった。アインの能力によって。
そしてその能力になす術なくグラスは敗れるのであった。
「A級の君が、愚かなことを…」
騎士団長は冷笑を浮かべながら、膝をついているグラスに向かって歩み寄ってきた。グラスはアインの能力に手も足も出なかった…そしてアインに恐怖した。
そしてその場の状況に圧倒され、冷静さを失った彼は、そのまま背を向け、逃げ出した。
どれほど走り続けたのか分からない。走り続けて走り続けて…気がつけば、グラスはゲヘナの森にいた。ゲヘナの森だと気づいてから冷静呼吸を整えながら、自分が逃げたという事実に対する悔恨と怒りが湧き上がってきた。
「俺は…アイツを絶対に許さねぇ…!」
二人の仲間を殺され、無力感と怒りに打ちひしがれながら、グラスは決意を新たにした。彼は剣を握りしめ、西へと向かって歩き出した。復讐のために、そして自分の無念を晴らすために――。




