第19話(累計 90話) 虎穴に飛び込むミア!
「『大天使』エドモンド。一体、どうしてくれるのだ!?」
「も、申し訳ございません、『能天使』、カレエル様。またしても、あの小娘どもが……」
「言い訳をまだするのか! オマエには期待していたのに、どうして失態ばかりをするのだ! 貸し与えた『魔弾の射手』を無駄使いしおって」
王国内の北方グラニス侯爵領。
領主館の領主居室
夕刻ながら鎧戸を締め切った部屋の中は魔法灯のみが室内を照らす。
「そ、それは狙撃手が失敗を……」
「ワレら、世界を渡りし結社。『天界の守護者』が生み出した最高の機械化狙撃兵をバカにするのか!? 大方、アヤツに渡す情報を渋った上に、王家にオマエの動きを察知されたからに違いあるまい!」
本来であれば部屋の主にして侯爵領の主。
エドモンドが座るべき、「玉座」。
豪華な椅子に座るプラチナブロンドの青年男性に向けて、エドモンドは床に這いくつばりながら、作戦失敗を報告している。
「そ、それは……。ですが、カレエル様。もしそうであるなら、今回の策がバレたのは例のハーフエルフ。異世界の知識を持つ者の仕業に違いありません。遠距離狙撃という異界の暗殺方法をこの世界で知る者は本来ならワレらのみ。『結社』が彼の暗殺を先にしておれば、このような失態は……」
「なにぃぃ! 己の失態をワレらが上層部の方針ミスが理由とでもいうのか! いかな|多くの世界を渡り支配する《ブレーン・ウォーカー》ワレらといえど、未知の異世界との接触可能性を潰すことは出来ぬ。高度な科学知識がある世界の出身者であれば、その価値はオマエよりも遥かに高い。この世界の魔法にも匹敵する可能性すらあるのだ!」
エドモンドは大きな腹を潰しながら平伏をするも、狙撃失敗は自分の責任ではないと言い訳をする。
その理由として高度な異界知識を操る邪魔なフィンを、どうして「結社」は先に消そうとしなかったと言い張った。
だが、結社上司にあたるカレエルはフィンの価値を高く判断しており、消すよりも自らの仲間に引き入れ、利用することを選んだ。
「わ。分かりました。ですが、今後もハーフエルフと小娘は、必ずワレらの元までやってきます。そんな状態で私を組織から排除して、この世界で結社がこれまで同様に可能なのでしょうか?」
頭を床に付けたままのエドモンドは、必死に自分の組織内での存在価値。
侯爵としてのバックアップ能力をカレエルにアピールする。
フィンを排除できず、自らが処分される可能性を鑑みたのだ。
「……。確かに勝手がわからぬワレでは、この世界での活動は厳しいものがある。そういう意味でオマエ。エドモンドの存在価値は十二分にあろう。分かった。これより作戦立案・行動セクションからオマエを外す。今後は組織維持、バックアップの責任者として活動するが良い」
「はぁ。御意。ありがたく役目頂戴いたします」
延命できたことで、安堵し大きく息を吐くエドモンド。
顔を上げ、カレエルにガマガエルじみた笑みを返した。
「さて、エドモンドよ、現状、王の動向はどうなっておる? オマエが黒幕であろうことは既にバレておろう。だが、王が侯爵と内戦ともなれば、国内は大きく揺れる。オマエの派閥が動くこともありうるであろうよ」
「カレエル様。城内に配置した『草』からの報告によれば、狙撃以降。王の周辺に動きは無し。ただ、宮中伯の小娘が城内でここしばらく見られないとの事です」
顔を上げたエドモンドに椅子に座る様に促し、王国内の情報を報告させるカレエル。
エドモンドは城内のスパイからの情報。
王に動きが無い事、宮中伯の所在が不明なことを報告した。
「王が動くのであれば近衛騎士団や直属の兵を動かす。それらに動きが無いのであれば、侯爵領を直接襲う事はしばらくないであろう。ただ、宮中伯の動きが読めないのが不安だ。ハーフエルフとミアの所在はどうなっておる?」
「そちらですが、神殿内に潜んだままとの事。神殿に『草』を仕込むことが不可能なため、周辺の家屋からの観察にはなりますが。ただ、神殿直属の神聖騎士団が国内演習と称して隣領まで来ております。神のお告げとやらで聖戦をぶちかまされても困る次第です」
王に動きが無い事には安心したカレエルであるが、マリーと|神聖騎士団の動きには眉を動かす。
マリーとフィン、ミアの関係を知る者なら、神聖騎士団が背後にいる事も理解している。
「神を信じるものか……。他の世界と違い、『神』たる存在が力を貸すのであれば、信心深いのもしょうがあるまい。神殿本山には多額の寄付金を送るのを忘れてはおらぬな、エドモンドよ?
「もちろんでございます。神殿を直接敵に回す程、私は愚かではありません」
王国政府とは直接関係がない神聖騎士団が、本山の神殿長からの『聖戦』命令で侯爵領に攻め込む危険性は全くない訳ではない。
侯爵が神の道に背いた「悪魔」認定されて、破門からの捕縛命令が出てしまえば、王と言えど口を挟む事は難しくなる。
「ならばよい。では……。ん?」
「何か外が騒々しいですな。この部屋には誰も通すなと言ってますが?」
暗躍する二人の耳に部屋の外の物音が飛び込んでくる。
何か言い争う声、そして怒号。
「何があったのか!? エドモンド、これは一体?」
「まさか、我が屋敷に乗り込む者がいる筈も無く……」
疑問の声を上げる二人。
だが、豪華な扉が蹴り飛ばされた瞬間。
誰が襲ってきたのか、ようやく理解した。
「悪いオジサン達! ボクが捕まえに来たよー!」
完全装備の栗毛少女は、ドヤ顔で叫んだ。




