第14話(累計 85話) 悲しい狙撃手(シューター)
「天候、晴。風、微風。現在緯度より推定コリオリ力を入力。重力加速度も仮定。距離二千。ターゲットは、まだ見えず」
王都は平民街の真ん中に高くそびえる時計台。
まだ、この世界では機械式の時計が出来始めたばかり。
二時間ごとの鐘を鳴らす塔の最上層階。
フードを目深に被った男が城の方角を眺め、左側機械の目で距離を測る。
そして計測値を銃の上、レール部分に置かれたコンピューター補正付照準器に入力した。
「予定では、王の挨拶の後。ターゲット、小娘が城バルコニーに現れる。それを今度こそ撃ち抜く!」
男の左目、機械仕掛けの目には、王都上空を漂う二機のドローンからの俯瞰映像も写る。
城バルコニー前には貴族や騎士だけなく、多くの平民らが小旗を振り王やミアの登場を待っていた。
「あの小娘、二回も俺の狙撃を邪魔した。そんな奴は初めて。今度こそ、俺の誇りに賭けて撃ち抜く!」
多くの戦場、多くの『世界』を渡り、無数のターゲットを『結社』の命令のまま撃ち殺してきた男。
今まで二回と撃ち仕損じた相手はいなかった。
ミア、帝国皇帝の血を継ぐという小娘が、初めて男の狙撃を二回も防いだ。
「遠距離狙撃は、この遅れた中世『世界』では今までなかったはず。なのに、どうしてあのガキは防げたんだ!?」
最初の狙撃は偵察・攻撃ドローンから。
作戦失敗をし、用済みとなった扇動者の暗殺、口封じ。
男は道化となった扇動者を哀れと思うも、運が無かったと引き金を引いた。
7.62ミリの弾丸を空中ドローンから無音発射。
扇動者の胸を貫く筈だった弾丸は、何故かミアの武器と籠手により弾かれた。
「必殺の狙撃をどうして、あのガキは見抜いた!?」
見えないはずのドローンを、血を流しながらも金色の目でじっと睨むミア。
その鮮烈な視線は、レンズ越しに男の眼を射抜いた。
逆に心を狙撃されたのだった。
「二回目は、俺自身による1.5キロ距離からの狙撃。アレがどうして当たらない!?」
男は、『結社』の現地指揮官『能天使』カレエルから、邪魔なミアの暗殺を命令された。
今度は必殺を狙い、愛銃たる12.6ミリ口径の対物狙撃ライフルを持ち出し、自らの腕で狙った。
「ドローンからの支援もあったのに、どうして当たらん!? 直前に邪魔なババァを殺したからか? あんなタイミングで来られちゃ、殺すしかないじゃないかぁ!」
男は金を払い、平民街に狙撃地点を狙える部屋を借りた。
事前情報では、ミアはハーフエルフの師匠と共に、貴族街内の爆発現場で鑑識活動をするとあった。
実際、ミアは想定された狙撃地点に現れ、しゃがみ込んで地面に眼を向けていた。
「タイミングがずれなきゃ、絶対に撃ち殺せていた。ババァが全部悪い!」
銃を構え、しゃがみ込んだミアを狙って引き金を引こうとした時、何故か大家の女が現れてしまう。
悲鳴を上げそうになった彼女に、男は仕方なく銃から離れ、女を抑え込んだ。
声を出させないように口を塞いだまま、腎臓を狙って一刺し。
そしてグリっと捻り込んで、返り血を浴びない様にあえて得物を刺したままにした。
声も出せず、血を流して苦痛に歪む表情で死んでいく女の顔が脳裏に焼きついた。
だが、男は切り替えをし、ミアをもう一度狙った。
そして今度こそ必殺のタイミングで銃の引き金を引いた。
「どうして着弾直前にハーフエルフの男に抱きつくんだよぉ! 俺はなぁ、慣れない手で女殺しをしたのにぃぃ」
だが、ミアはハーフエルフに飛びつき、弾丸は地を貫くだけで終わった。
趣味ではない刺殺、更には女を殺してまで行った狙撃を躱されたのだ。
「あの耳長野郎。どうして遠距離狙撃だと見抜いた!? あいつが、例の異世界知識を持つ奴だったのか?」
着弾直後、ハーフエルフは少女を抱え込み、路地に隠れた。
空中の偵察ドローンからの俯瞰映像では、射撃位置からの射線は完全に切れている。
また、ドローンも屋並の中までは降下できず、攻撃は不可能。
「耳長め、狙撃から逃げる方法も知ってやがった。アイツのジャマだから、殺せと進言したが、殺すなと上は言いやがる!」
『結社』は多くの世界を渉り、ヒトや技術を盗む。
男自身も元の世界での居場所を失い、命からがら逃げる際に『結社』にスカウトされた。
そして『結社』のイヌとなり、多くの命を撃ち殺した。
「あのガキ! 今度こそ、殺す! 絶対にタイミング。必殺の弾丸。もう仕損じたりはしない!」
男は大型狙撃銃のボルトを引き、銃内に必殺の弾丸。
徹甲焼夷榴弾を給弾・装填する。
いかなバリアーや装甲を張ろうとも、貫く徹甲弾。
ターゲットの中で炸裂し、燃え上がる焼夷榴弾。
この二つの役目を併せ持つ必殺弾。
例え防弾仕様の大統領専用車であろうとも貫き、中の要人を確実に殺す弾。
男は、『結社』に依頼をして必殺の弾丸を入手。
今回の狙撃に使う事にした。
「王の挨拶が開始されたか」
ドローンからの左機械目に映る情報、及びスコープを除く男の右目には、バルコニーで王が演説を始めた様子が映る。
痩せ気味ではあるが、何処か威厳もある壮年の男。
豪華な衣装とマント、そして煌びやかな王冠を被った王が、平民や貴族らを前に朗々と演説をする。
「王など、ふんぞり返っているだけの愚か者と思っていたが、中々」
ミアを政治的に利用する賢さ、そして同時にミアを大事に扱う事で彼女自身からも信頼を受ける様子。
『結社』の情報からも、中々手ごわい相手と男も判断する。
「この王もいずれは俺が撃つのだろうよ」
ドローン越しに拍手と声援が響く。
そして王が背後に下がり、ターゲット。
憂国の姫らしく美しく着飾った娘がバルコニー前面に出てきた。
「娘よ。悪く思うな。これも運命だ」
ミアの恥ずかしそうな幼い表情を見て、男の心の中の棘がうずく。
「すまない。父さんはお前に会うために、女の子も殺すよ」
男は、異世界に残してきた娘に謝る。
おそらく、今はターゲットと近い年齢になっているであろう、病弱だった娘に。
「ふぅぅ。さあ、痛みを感じる前に殺す!」
ミアは一瞬天を見上げた後、金色の目を男に向けた気がした。
その瞬間、男は引き金を引いた。




