第4話(累計 75話) 家族。
「た、ただいま帰りました、母上」
「お帰りなさいませ、三人とも。ああ、こんな姿になるなんて。大丈夫なの!?」
老執事に手配してもらった馬車にて実家に帰ったフィン達。
既に瓦礫は除去されていた前庭。
そこに両親が出迎えに来ていたのにフィンは驚くも、数年ぶりに帰宅の挨拶をした。
「ええ、母上。これは返り血です。ただ、このままでは感染症の危険性もあるので、早く汚染された衣服を脱いで身体を洗浄せねば……」
「お母様。ミアちゃんもお兄様も奮闘なさりましたわ。我が家の者として実に誇らしいものでしたの。是非、二人の関係を認めてあげてくださいませ。
「お義母様。ボク、お義母様が止めるのを聞かず、勝手に飛び出してごめんなさい。それに仕立ててもらったドレスを台無しに……」
震え、無言で立ち尽くす前宮中伯婦人にフィン、マリー、ミアは言葉を掛ける。
酷く心配をかけた事を思い。
「貴方たち……」
「母上? 先程も言いました通り、私共は汚染されています。近づくのは……」
震えながら近づく母にフィンは、汚れるからと静止を願うが。
「ああ、貴方たち。よくぞ、無事で。無事で帰ってきてくれました」
そういい、ドレスが血で汚れるにも関わらずフィンを抱きしめた。
「母上……」
「お兄様。お母様は、これまでも随分とお兄様の事を心配なさっていましたの。また、お兄様に謝りたいとも言ってましたわ」
「マルグレット! 貴方は口が過ぎますわよ。こんな時に読心を使わないでほしいですわ。で、でも、貴方もここまで血に汚れるなんて……」
娘に隠していた内心をばらされ、母は青かった顔色を赤くするも娘の姿を見て、更に心配そうな声を出した。
「アタクシ、宮中伯としての仕事をしたまでですの。今回、一番の功労者はミアちゃんですわ。現場に即時赴き、多くの人命を救いました。ミアちゃんが行かなければ死者は三桁を越えていたと思いますわ。アタクシ、自分の力不足を思いましたの」
「でも、お姉さま。ボクじゃ救えなかった命も多かったの。建物に潰されちゃった女の子。頭が無かった男の人。もっと! もっとボクに力があれば……。先生みたいに的確に行動していたら、助けられた命もあったかも……」
「それをいうなら私もだよ。ミアくんにマリーはよくやった。ダメだったのは私だ。最近、医学をサボっていたのが悪かった。患者の死が怖いからって臨床をしなかったのが、ここにきて……」
三人ともお互いを褒めるが、自分はダメだったと言い合う。
そんな息子たちを見た婦人は、声を上げる。
「マルグレット、そしてミアさん。こちらにいらっしゃい」
「え? お母様」
「お義母様? よ、汚れますよ?」
フィンを抱きしめたままの婦人は、薄く笑みを浮かべながら二人の乙女に手招きをする。
その様子に思わず顔を見合わせたミアとマリーは、おずおずと婦人に近づいた。
「さあ、もっと近づいて」
「は、はい」
「えっとぉ」
もっと近づけというので、間近まで婦人に近づいた二人。
「さあ、捕まえましたわ。ああ、三人ともよく頑張りました。そして無事に帰ってきてくれて、ありがとう」
ぎゅっと婦人に抱きつかれ、一瞬驚くも愛ある抱擁に自らも抱きしめ返した。
「フィンエル、ごめんなさい。幼い頃、貴方を気持ち悪がってしまったのは、わたくしの間違いでした。己が腹を痛めて生んだ息子を疑い忌み嫌うなど、ダメな母でした」
「母上、既に過ぎ去った事ですし、あれはしょうがないです。私が取り換え子。先祖返りして生まれた上に、前世記憶など持っていたら気味悪がって当たり前。父上の子で無いと不倫まで疑われていたと聴き、私も母上の境遇に同情しましたから。もう、今は気になどしていませんよ、母上」
己に謝る母に抱きしめ返し、過去の事だから気にしないと言うフィン。
「マルグレット。心が読める貴方には多くは語りません。ですが、この華奢な身に当家の重荷を背負わせてごめんなさい」
「お母様。アタクシは好きで家を継ぎました。これはお兄様にも言ってますが、アタクシは己が力で皆さまの平和を守りたいんです。それをお兄様やミアちゃんは助けてくださっていますから、御安心を。お父様もご無理なさらず、孫、いや、曾孫を抱く日までご健勝であってくださいませ」
「ああ、分かったよ。マルグレット。私も老いてはいられんな」
マリーは笑顔で両親に自分は好きで宮中伯を継ぎ、平和を三人で守ると宣言する。
そして曾孫を抱くまで元気でいてくれと両親に懇願した。
「ミアさん。きつく当たってごめんなさい。もうご存じかと思いますが、当家の役目は非常に重く、周囲からの眼も厳しいです。そんな魔境に貴方のような素直な子を巻き込むのは正直嫌でしたの。また、わたくしから息子や娘を奪っていくような気もして、嫉妬していましたわ」
「そうだったんですね、お義母様。ボク、大丈夫です。先生を助けて、みんなの笑顔を守りたいの。そこにはお義母様やお義父様も入ってます。あ、あとボク、お義母様たちから先生を取りませんのでご安心を。ボクも先生で嫉妬したことあるので、お義母様の気持ちもわかります。うふふ」
婦人はミアにも謝る。
嫉妬も含む複雑な心境で、ミアを拒絶していたと。
だが、そんな事など気にしないと、ミアは笑顔で返した。
「本当にあなたは良い子ね。複雑な身の上なのにマルグレットの報告通り。こんな良い子に育ててくださったご両親に感謝ですわ。ミアさん、いえミアちゃん。あなたはもうウチの娘よ。フィンエルやマルグレットを頼みますわ」
「ああ、私からも頼む。ウチの子らは力も記憶もあって捻くれているからな。そういう意味ではキミのような『太陽』はとても眩しい」
「はい。お義母様、お義父様。これで、ボク、お父さんとお母さんが三人になりました。嬉しいなぁ」
フィンの両親に認められたミア。
最高の笑顔で自分を抱きしめてくれていた婦人を抱きしめ返した。
「ミアちゃん。少し痛いですわ。うふふ。わたくしよりも小柄で華奢ですのに、すっごい力。マリーから聞きましたが、オーガも一発ですって?」
「あ! ごめんなさい、お義母様。はい、ボク。オーガロードを一発で倒しちゃいました。他にもいっぱいモンスターを倒しましたし、こないだはゾンビの群れを一発浄化しましたぁ」
聞かれて、自分の武勇伝を話し出したミア。
その様子に同じく母に抱かれているフィン、マリーは顔を見合わせて苦笑した。
「おっほん! 奥方様。それに皆さま。そろそろ日が落ちます。それに御衣裳も汚れます。一時、皆さまは屋敷に入り、お着替え、お風呂に入られてくださいませ。その後、夕食といたしませんか?」
仲良く話し込む婦人とミアに対し、咳ばらいをして庭から屋敷に入るよう促す老執事。
その言葉を受けて前宮中伯も話す。
「だな。私も寒くなって来たし、立っているのも少々つらい。後は今宵当家に逗留して頂き、話してもらう事にしよう」
「そうですわね、貴方。ミアちゃん、では、後でゆっくりお話ししましょう。お風呂、いっしょに入りますか?」
「はい! お義母様。お姉さまもご一緒にどーぞ」
「ええ。では、お兄様。良かったですわね。こういうの、お兄様の言葉でいうところの『雨降って地固まる』でしたっけ?」
「そうだな、マリー。では、皆。家に入ろう」
新しくミアを加えた家族は、にこやかに談笑しながら家に入った。




