第27話(累計 71話) 解剖結果を説明したがるフィン。
「司書らの身体であったが、我らと戦う前に既に死者であった。脳に取りついた端末らしき生物により操られていたものだったのだよ」
フィンは老執事から茶を貰いながら、ミアとマリーに「星振の精」に寄生されていた者達の解剖結果を話し出した。
「表面の皮膚はそうでもなかったが、内臓はかなり腐敗が進行しており、腹部には緑色の死斑が発生していた。腐臭も出始めていたので、匂い消しに沈香木の香を焚きこんでいたようだ。だが死者であったが、脳のリミッターが無い。身体機能を自己破壊を考慮せず全力で使えるからこそ、あの逃げ足であり戦闘能力であったと思われる」
寄生された彼らは歩く死者。
ゾンビと同じ存在だったとフィンは語る。
「それで、学長さんがボクと追っかけっこしている時に息も切らさなかったんだね」
「ミアちゃんの身体強化下での全速力といい勝負をする段階で普通では無いですわ。まあ、ウチのセバスなら負けませんが」
「お嬢様。あまり私を持ち上げないでくださいませ。老齢の身にて、これでも若い頃程はスピードも出せなくなりました。おそらくミア様が何も考えないで本気を出されたら、私では追いつくのは無理です」
「セバスのおじちゃん、謙遜はしないでいーよ。ボク、おじちゃんにはまだまだ教えてもらいたいことがあるし」
枯れた老人であった学長の逃げ足が異常であったことを話し合い、その陰には、脳が無いからこその全力活動があったのではと四人は仮説を話し合う。
「内部を解剖した結果だが、筋繊維は劣化はあるものの腐敗度は低かった。それゆえの動きだったのだろうね。内臓は消化器官は消化酵素による自己融解が開始、腹膜内は腐敗液でいっぱいだったよ。あれは、ミアくんは見なくて正解だった。私ですら、後から吐き戻したからね」
「うげぇなのぉ。ボク、無理言って見なくて正解だったんだ。クロエちゃんは大丈夫だったの?」
フィンからの報告を聞き、安堵するも友人の心配をするミア。
先程までクロエに対しては嫉妬を覚えていたものの、誤解からの嫉妬であったのを納得している上に、ミアは負の感情を引きずらない。
「かなり不味かったみたいだよ。終わったらすぐにシャワー室に走っていたから、クロエくんでも限界じゃなかったかな? で、問題は脳組織。戦闘中に頭蓋骨を粉砕していたから、マリーは見たはずだよな」
「ええ、お兄様。あまり気持ちの良いものでは無かったですの。何か糸状のモノが脳表面に張り付いていましたわ」
「アレは気持ち悪かったもんね、お姉さま。ボクが<解呪浄化>したら、動かなくなったけど」
取りつかれていた物の脳組織を見た彼ら。
そこへ寄生したモノがあまりに不気味であったため、顔をしかめた。
「あれこそが、『星振の精』が宿った寄生虫。元々は『組織』が人を操るために開発していた生物だったらしいんだ。ショゴスの居た別荘で開発されていたのがアレだよ」
「アタクシが調査した結果ですが、脳に寄生する生物の開発までは成功したものの、そこから先。自由に操るまでは無理だったようですの」
「うげげぇ。あそこで人体実験して終わったサンプルはショゴスで処分。酷い話なの。もー聞きたくないよー」
フィンやマリーは別荘に残っていた資料、そして解剖した遺体から分かった事を話すが、ミアは気持ち悪がって話を聞くのを拒否しだした。
「聴きたいと言ってたのはミアくんだが? さて、被害者の脳であるが、完全に軟化、自己融解を起こしていて、頭蓋より取り出した途端、形が崩れてしまった。この事例は私の前世では、『脳死』患者を長期間人工呼吸器で生かした場合の脳、レスピレーター脳と同じ状況だ」
ノッてきたフィン、朗々と説明を始めだす。
その様子に話を聞き出したかったミアやマリーは、彼女らにとって意味不明な説明にうんざりとした顔をし始めた。
「遺体の自己融解、腐敗状況から見るに、以下の順で死んでいったのだろう。寄生虫が寄生した初期段階で脳が死に始め、次に脳からのホルモンが断たれた事から腎臓や肝臓が機能を暴走、各臓器が壊死したのだろう。筋組織や心臓、表皮は独自で活動可能なため、最後まで生き残り、見ての通りの動く死体になったと推測される。以上が解剖で分かった事だ……。ん? どうしたのかな、ミアくん、マリー。私はちゃんと説明したぞ?」
「お兄様。医学的知識がないアタクシ共に、気持ちが悪い状況を猶更説明しなくてもいいですわ。簡潔に死体を操っていたと話せば良いだけですの」
「そーだよ、せんせー。ボク、しばらくお肉食べるの嫌になるかもぉ」
「あ、すまん。久しぶりに医学的な説明ができるとミアくんみたいに調子に乗ってしまったよ」
二人の様子を見て、フィンは説明を止める。
そして、やり過ぎたと頭を下げた。
「もー、せんせーのばかぁ。ボク、そんなに調子に乗らないもん!」
「まあ、そのあたりは後の話にしましょうかしら。で、お兄様。医学的な事は理解しましたが、学長の残した手記には何が書いてありましたの? 侯爵を追い詰める証拠にはなりませんかしら?」
「さて、学長の手記だが……。ミアくん、後でゆっくり頭を撫でてあげるから、今は機嫌を直しなさい。お、おほん。手記の内容だが、彼らがこちらの世界に来てからの話、そして元の世界での話が大半だよ。幸い、この国の公用語で記載されていたから、解読は楽だよ。大体、読み終えているから今日にでもマリーに貸すよ。例の寄生虫が学長ら、『星振の精』が宿る受信機代わりになっていたことは書いてあった。後悔と苦悩も沢山書いてあったよ。寄生虫に頼らねば存在できない、そして『組織』の先兵になりさがった自らをね」
ぷっくり頬を膨らましたミアの頭を撫でながら、マリーに手記の内容を説明したフィン。
彼らが寄生虫にならねば、この世界に存在できなかった後悔を思い、フィンは悲し気な笑みを浮かべた。
「もっと頭ナデナデするのぉ。そして今晩も添い寝を要求します! せんせー、わたしの胸を揉んでも良いんだよ。男の人に揉んでもらったら大きくなるって神官のお姉さまたちが噂してて……。きゃん!」
「だから、調子に乗らない! はぁ。ミアくんが淑女になるのは何時の話やら」
フィンは落ち込んだ心を癒してくれるミアに、静電気ツッコミを入れながら、天に帰った者達の事を思い、呟いた
「今は安らかにおやすみください」




