第21話(累計 65話) 強行突破!
学院の奥深く。
学長室では、二人の男達が密談をしている。
「学長。口止めは成功しておるのか? ワシのところまで噂が流れてきているぞ?」
「申し訳ありません、侯爵閣下。いらぬ事を申しそうになった教授は口封じしましたが、それだけで不十分だったかもしれません。例のハーフエルフですが、異世界の知識を持っている可能性が非常に高く、消すにはもったいないので様子見中です。今、釘を刺したうえで異世界の書物を奪還しています。これで仲間にでもなってくれれば嬉しい限りで……」
枯れた木のような姿の老齢の学長は、もう一人の男性。
侯爵らしき豪華な衣装の身を包む壮年男性と怪しげな会話をする。
彼らの中では、自分達の活動を邪魔する者は全て殲滅すべきという考えがある。
ただフィンはこれまでの活動で、異世界の知識を持っているのではと怪しまれており、監視、そして仲間に誘うであろう対象になっていた。
「それは甘くないか? ハーフエルフごとき、消しておいた方が間違いないだろう。アヤツの背後には宮中伯もいる。油断できぬぞ」
机の上、ほのかな魔法灯以外は真っ暗な部屋の中。
濛々と香炉から煙が上がり、部屋の中は強い香の匂いが充満していた。
「はい。彼へ釘差しに差し向けた者がまもなく帰還してきます。そこで彼の動向を聞き、今後の対応を行いたいと思います」
「頼むぞ、学長。いや、星振の彼方より来たりし名もなき知性体よ。其方らがこの世界で活動できるのは、我ら『結社』の協力があっての事を忘れぬように」
「御意、閣下。我ら、元より住まいし世界が崩壊。電子生命体になって次元の海を漂いし内に閣下らの召喚に運よく応じ、この世界にて姿を得る事が出来ました。我らが主になりかわり、感謝致します」
学長に対し、知性体と呼びかける侯爵。
学長も自分たちが人類ではなく、異界よりやってきた存在。
侯爵らの活動で、こちらに舞い降りてきたと語った。
「うむ。では、今回の会合は……。ん? 妙に騒がしいぞ? 何かあったのか?」
「今、この部屋には誰も通すなと密命しております。こと、門番は我らが仲間。裏切ることなどあり得ぬはず……」
部屋の扉の向こう。
そこから声と激しい物音が聞こえてきた。
「ですから、今。学長様は大事な面会をこなしておりまして……」
「もんどーむよーなの。貴方もヒトじゃないのね。じゃあ、滅びよ。<解呪浄化>!」
「ぐわぁぁ!」
門番が少女らしき人物と言いあう声が、部屋の中にも響く。
少女がしびれを切らす。
そして、なんと門番に向けて幽霊系モンスターを浄化させる魔法を使い、彼を倒したらしき声と音が侯爵らの耳に聞こえた。
「あ、やっぱり効果あるの。普通の人ならなんともないのに、動かなくなるんだもん。実体あるけど、正体はワイトみたいな霊体なんだ」
「魔法を撃ってから確認するんじゃないよ、ミアくん。だが、私のところへ来た奴ら。身体を破壊しても血も流れないし、行動が止まらない。キレたミアくんが『おばけー!』ってディスペルしたら動きが止まった事だし。詳細は、後から死体を解剖して確かめよう」
元気な少女を窘める若い男性の声が学長にも聞こえた。
「これは例のハーフエルフと護衛の姫騎士。閣下、我らと閣下らの関係がバレては不味いです。あくまで偶然会談を行っていた形で……」
「あい、分かった。その様にしようぞ」
学長と侯爵が口裏合わせをした直後。
「がくちょー! 貴方を逮捕、いや退治にきましたー!」
「ミアちゃん、あまりに直接的なのはどうかと思いますわ。まあ、警察も管理下にある宮中伯名義の逮捕状は出しましたが。おほほ」
「マリー。ミアくんを止めなさい。ああ、また学院の校舎が破壊されてしまった……。ごほ! なんだ、この煙は? 香にしては量が……」
ドカンという音を立てて、内開きの豪華な両扉が吹き飛ぶ。
背後からドヤ顔のフル装備な少女。
扇で口元を隠す戦闘用ローブ・モンタントドレス姿の令嬢、そして慌てて彼女らの背後から出てくるハーフエルフが居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「シンダール1級教授。この狼藉はどういう事かな? 確か貴君の処には司書を書物回収に伺わせたはずだが?」
「学長。いや、貴方は学長ではない。学長に取りついた悪霊め。観念しなさい! ああ、学長や先程の司書から強い香のにおいがする理由が今やっと分かりました。貴方がたの身体は既に死人。死臭をごまかすためだったのですね」
「せんせー。かっこいい! そーなの。学長のおじいちゃんには、もう魂は無いの? あれ、横にいるオジサンは誰? こっちには魂があるよ?」
ミアはフィンがビシと学長に指差しするのを見て、更に惚れ直す。
そして学長室に居た二人を見、学長ではない太った貴族男性は学長の仲間、死人ではない事を見抜いた。
「ミアちゃん。上級貴族の顔くらいは覚えましょうね。さて、グラニス侯爵エドモンド・デ・マルゴワール様。どうして貴方が学長殿とご一緒に従者もつけずに極秘会談をなさっていらっしゃるのでしょうか? 後で詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」
「これはこれは、ベルエ宮中伯。レディともあろうものが、何を行っていらっしゃるのですか? 私は学長殿と研究への投資を話していただけですが? 何分にもワイロと思われてはイヤでしたので、極秘会談にさせて頂いた次第です」
マリーに睨みつけられた侯爵。
だが、彼はいけしゃあしゃあと会談理由を話す。
「マルグレットお嬢様。学院の包囲、既に完了との事です。一旦、侯爵閣下におかれましては、神聖騎士団に『保護』していただくという形に致しましょう」
「そうですわね、セバス。では、閣下。こちらにどうぞ」
マリーは背後に控えし老執事から、騎士団による学院包囲が終わっている報告を受け、後から来た騎士団員に侯爵の身柄を渡した。
「レディがそういうのなら仕方がないですな。では、学長。何もない事を願うぞ」
「はい、閣下」
侯爵は一旦後ろを振り返り、学長に挨拶をする。
そして優雅な足取りで完全武装の騎士団員に連れられて学長室を去っていった。
「では、学長。貴方は何者ですか? 倒す前に教えて頂けると私の調査が楽になります。まあ、倒した後に解剖してもいいんですけどね」
「私は学長以外の何物でもないぞ。小娘の戯言に騙されるとは宮中伯共々、愚かな兄妹よ」
「せんせーやお姉さまをバカにするな―! このバケモノ! アンタがお爺ちゃんを殺して乗っ取っているのは、ボク分かるんだ。せんせー、ボク我慢できないよ! <解呪浄化>!」
フィンやマリーをバカにされたミアは怒りのまま魔法を撃ち放った。




