第19話(累計 63話) 悪意の行動開始。
ジュール・ルフェーヴル2級教授の葬儀は、実家ドゥラス子爵家の主催で王都神殿において行われた。
なお、子爵家の意向により、暗殺されたジュールは急病死と公式発表され、学院側からも葬儀には多数参加した。
「先生に何がありましたのかしら?」
「まだお若かったのに、御病気とは」
「わたくし達、先生に教わる事はまだまだ多かったですわ」
「あたくし、先生にプロポーズしていましたわ。くすん」
彼の研究室や教え子、取り巻きの女性らも多数葬儀には参加し、神殿内の葬儀会場は満席。
葬儀は壮大なものとなった。
「せんせー。これからどうしますか? 警察にはボク、まだ真相を話してませんけど?」
「まだ動くときではないよ、ミアくん。学院上層部が必ず近日中に動く筈だ。そのタイミングを見て動こう」
葬儀に参加したフィン。
彼は実家より送ってもらった喪服に袖を通している。
彼の周囲には黒色な警察制服姿のミアが護衛役として必ず付き従い、周囲への警戒を切らさない。
「お兄様、学長ですわ」
同じく葬儀に参加していた黒き喪服ドレス姿のマリー。
扇の下で顔をしかめつつ、学長が葬儀に現れたのをフィンに知らせた。
「これはシンダール1級教授。長く研究室を休まれていますが、お身体大丈夫でしょうか? 貴方はルフェーブル2級教授が倒れた現場に居て、救命活動をなさったと聞きます。じつに残念でしたね。あの若い身で『病死』とは惜しい人材を学院は失ってしまいました」
「ええ、学長。私の力がもう少しあれば彼を助けられたのに……」
初老、白髪の学長。
フィンの記憶からすれば以前より老けてきた印象が高く、血色もすぐれない。
また彼から匂う香料のにおいが、以前よりもきつく感じる。
「くれぐれも1級教授においては、『健康』や『身辺』にお気をつけてくださいね」
「は、はい。ありがとう……ん?」
フィンが学長と話している時、ミアは彼の袖を引っ張る。
「せんせー。えっとね……」
「ミアくん、話は後にして……。あ」
普段はそんな不躾な事はしないはずなので、フィンは気になりつつもミアの方へ顔を向け、後で話を聞こうとした。
「そ、そうか。分かったよ、ミアくん。学長、申し訳ありませんが連れの体調が良くありません。すいませんが、これで退席させて頂きます」
が、あまりにもミアの顔色が悪く、フィンの妹程は強くない読心能力からも彼女の内心の乱れを感じた。
何か危険があるのではと思ったフィンは急遽、葬式から退席する事にした。
「申し訳ありませんですわ、学長さま。彼女の事は当家でも躾けてはいますが如何せん、まだまだ幼き身。かのような席での途中退場、ご容赦頂けたらと思いますわ」
「いえいえ。構いませんよ。あ、そうだ。教授のところにもティエレ村で発見した資料がありましたね。近日中に学院の者が回収に参りますので、宜しくお願い致します。では、また。お大事に、可愛い護衛さん」
マリーもミアの事をフォローしつつも、フィンの退場を支援する。
そんな若者たちの行動に対し、気にしないと発言する学院長。
だが、彼の一言はミアだけでなくフィンやマリーに危機を感じさせた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ミアくん。一体何を学長から感じたんだい? あ、別にキミを責める気はない。まったく心が読めず、更に釘を刺してきた学長に対し危険を感じたのは私も同じだからね」
「ええ、アタクシの読心能力でも学長の心は全く見えませんでしたわ。あそこまで強力な思念シールドは初めてですの」
一旦、神殿の奥。
モルグ近くにフィンが借りてある部屋の中まで帰ってきたフィン達。
着替えもせずにまだ顔色が悪いミアに対し、何があったのかと問う。
「ミアちゃん。お砂糖一杯入れたお茶を持ってきたから飲んでね」
神官仲間のクロエも真っ青な顔のミアを心配し、態々甘い飲み物を準備してくれた。
「ありがと、クロエちゃん。先生。ボク、とっても怖いものを見ちゃったんです」
ミアはクロエから貰ったカップを両手で貰い一口飲む。
そして、まだ青い顔で話し出した。
「学長のお爺ちゃん。あの人に魂が無かったんです」
「魂が無い? でも、彼は以前と変わらず行動をしているぞ? 確かにこのところ血色が良くはないが? ミアくんが学長を見たのはこれが初めてだったのかい?」
ミアが突然、とんでもない事。
学長には魂がないと告げると、部屋の中にいた他の四人は驚く。
こと、日頃から学長とはよく逢うフィンから見ても、学長が死んでいるとは決して見えない。
「せんせーの研究室が出来る時に会ったけど、あの時は普通のお爺ちゃんだったの。でもね、今日見たら全然違うの。何か怖いものがお爺ちゃんの身体を動かしているように何故か見えたんだ。怖くなって、こそっと魂感知の魔法を使ったけど、ボク何も感じないの」
ミアは飲み物が入ったカップを抱えたまま、青い顔で話す。
学長が既に死人で、何かによって操られていると。
「魂が無いなんて生きている人間ではありえないぞ。科学的には魂の概念は前世世界でも未確認だが、こちらの世界での蘇生魔法において魂が存在しないと死者蘇生出来ないから、存在するのは確かだ」
「そうですわね、先生。アタシも神聖魔法使いとして魂の存在は感じますし、魂がなくなってしまえば終わりですの」
フィンは科学的感知から、クロエは神聖魔法の感知から魂が生物には存在してると語る。
「でもでも。あのお爺ちゃんは空っぽだったの。あ! 同じ感じをお兄さんの、2級教授の事件の時にも思ったの。ボクが救命活動をしていた時にジャマして書類を集めてた司書のオジサンも魂を感じなかったの!」
更にミアは事件現場にいた学院司書も魂が無かったと話す。
「そんなバカな! 科学的に魂、ゴーストは肉体や物理的依り代と一緒でないと存在できない。魔法生物においても疑似魂と言えるものを宿して初めて動かして……。ん? まさか、フレッシュゴーレム化させて操っているのか!? それとも死霊魔法の使い手がゾンビを遠隔操作しているのか!?」
「そんな事があり得ますの、お兄様!? まさか、学院の上層部が文字通りの傀儡なんて……」
フィンは更に考えを進め、死体を動かす方法を思いつく。
だが、あまりに想定外の状況にマリーも混乱する。
「差し出がましいのですが、皆様。今は落ち着きましょう。まだ全ては状況証拠のみでございます」
そんな中、今まで黙っていた老執事。
セバスが話し出した。
「ミアお嬢様の直観はこれまでも正解を導きましたし、このような場において嘘など言う悪しき存在でもあり得ません。なので、おそらく魂の無いものが学院をあやつっているのでしょう。これ以降は罠を逆に仕掛けて、物的証拠。敵の身体を直接手に入れてフィン坊ちゃまが解剖をし、マリーお嬢様が摘発したら宜しいのではないでしょうか? 幸い、神殿側にはクロエ様や騎士団長様というお味方もいますし」
そしてセバスはにっこり笑みを浮かべつつ、今後の作戦方針を語りだした。




