第4話(累計 48話) 新たなる事件。ミア、いよいよ出陣!
「せんせー。もうすぐだよね、目的の村って」
「ああ、そうだね、ミアくん。くれぐれも油断しないようにしてくれ、みんな」
「任せておけ、フィンくん、ミア嬢ちゃん」
それぞれ馬上のミアとフィン、そして騎士団長ニコル。
そして騎士団や冒険者、学院の学者らからなる調査隊が馬車や騎馬で街道を進む。
あまり雪が降らない王国だが、人が好んで通行しない冬の街道。
石畳や砂利道は空から舞う雪で真っ白になっている。
そんな中、馬の蹄跡や馬車の轍が道に残っていく。
「さむぅい」
「ミアくん。風が入らないようにケープはきちんと前を閉じておきなさい」
馬上の戦士たちは防水加工をされたマント。
フィンの様な魔術師は同じく防水加工のフードを纏い、降り注ぐ雪から身体を守る。
皮や金属鎧の下には、厚手の羊毛ギャンベゾンを防寒に着込む。
オシャレ少女なミアは、マリーにコーディネートしてもらった淡いピンクのフード付き羊毛フェルト生地防水ケープ、更に革製ベストの下にもモコモコなセーターを着込んでいた。
「せんせー。新雪に足跡が全然残っていないってことは、最近この道を誰も通っていないの?」
「そういう事になるね、ミアくん。根雪部分には馬や人の足跡があったから、これは冒険者か学院の者だと思う。蹄や靴の形からして王都から村への方向のみ。だが、村から王都へ向かった人が誰もいない。やはり大変な事態になっているな。ニコルくんに支援を頼んで良かったよ」
「これは油断できない。報告にあった怪物とやら、本当だった可能性が高いな」
ミアは過去フィンから自然観察のコツ、そして野伏の事を聞いていたので、足跡の不自然さに気が付く。
雪の上の足跡で、街道を村から王都へ戻った人が最近いない事を見抜いていた。
「既に時間も夕刻前。いきなり問題の村に入るのは危険だから、直前の森前で野営をするぞ。騎士及び冒険者たちは警備を抜かるな。既に我々は戦場にいるものと考えよ!」
「御意」
「了解です」
調査隊は目的地である王都の北西、人の脚で二日ほど先に存在するティエレ村を目指す。
今日は村の近隣にある針葉樹林が多い森の入口で野営を開始した。
「せんせー。ボクらの行く先ってどんな村なの?」
野営準備も終わり、焚火の前に座ったミアは木の小切れを焚火に放り込みながら隣に座るフィンに質問する。
「一度説明したはずなのだが? では、再度説明しよう。この村は現在は天領。王による管理下にあるが、かつては『とある』貴族の別荘地だったのさ」
王都の側、そして比較的夏も涼しい場所だったので、かつては重宝されていたらしい。
だが貴族一族は、先だっての帝国戦役にて亡くなってしまった。
「あ! じゃあ、ボクも無関係じゃないんだ」
「いやいや。ミアくんには何の罪もない。戦争ならではの不幸だったのさ。で、問題だったのはその貴族が魔法、こと生物関係の錬金術に長けていて、別荘内でも研究をしていたらしいんだ」
王の管理下になった別荘。
そこには、まだ錬金術の研究施設や資料が残っていて、学院の研究者が定期的に利用していた。
「学院が研究施設を管理していたのだが、ある時から研究者からの連絡が途絶えた。学院側は念のために冒険者を雇って村に確認に行ったのだが……」
「それがボクの聞いた話。巨大なスライムに襲われて逃げてきたって事だよね」
「ああ。錬金術で生み出された特殊なスライム。開発名では『ショゴス』というのが、これまた皮肉だ。誰か、『異界の書物』でも読んだのか?」
ミアに説明しながらフィンは顔をしかめる。
「せんせー。どうしたの? 顔が怖いよ? 『異界』ってどういうこと?」
「あ! すまない。ミアくんは気にしなくてもいいよ。要は只のスライム相手じゃないって事だけ知っていたら良いからね」
「うん!」
ミアは元気に返事をしたものの、無理やり話題変更したフィンの事が気になる。
以前からフィンは「別世界」だの「異世界」だの。
「ここ」とは違う世界の事を話すときがある。
また、「もう訪れる事が出来ない場所」とも語ったことがあった。
……もしかして。もしかしてだけど、先生って別のところから来たのかな? その場所で色んな事を学んで来たから、誰も知らない事を知っていたり……。
ミアの中で変な考えが浮かぶが、首を振って打ち消した。
……何処から来たって先生は先生。優しくて賢くてボクが大好きな先生だもん。隠し事もあるみたいだけど、何時かはボクにも話してくれるよね?
「ん? ミアくんこそ、どうした? 妙に表情が暗いぞ? ミアくんは元気じゃなきゃ、私も調子が狂うのだが?」
「もー、せんせー。じゃあ、ぎゅーするのぉ」
ミアは不安を打ち消す様に、フィンに抱きつく。
そしてしばらくイチャコラを楽しんだ。
「こらぁ。周囲に他人もいる場所で抱きつくんじゃない! 子供じゃないんだからぁ」
「ボク、まだしばらく子供で居たいかもぉ」
周囲の人達から笑い声が響き、二人の関係を暖かく見守る眼があった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ミア嬢ちゃんは寝たか?」
寝つきが良くないフィンは、あてがわれていたテントを抜け出す。
そしてパチパチと音が鳴る焚火の前で座り夜空を見ていると、警備を終えた騎士団長ニコルが蒸留酒が入った金属容器を持って近づいてきた。
「ああ。先程まで私に抱きついてきたので困ってたよ。私が『その気』があるならどうなるのか、知らないはずないのに困った娘だよ」
「ははは。でも、寝ている嬢ちゃんを紳士なフィンくんは絶対に襲わないだろ? 他の連中もそれを信じているから、誰も何も言わんのさ」
フィンは苦笑しながら、ミアが寝ているテントの方に視線を向ける。
なお、本来はミアは女性用のテントで寝る筈だったのだが、ダダをコネてフィンのテントの中で眠っている。
「一杯付き合え」
「はいはい。では少しだけ」
ニコルはスキットルの栓を抜き、フィンが差し出したコップに少し酒を注いだ。
「お前、まだミア嬢ちゃんに秘密にしている事があるだろ? 話すのが怖いか?」
「そうですね。受け入れてもらえないかもと思えば怖いです。私が異世界からの転生者であることを話すのは」
フィンは、自分の中でずっと隠していた事。
自分が違う世界の記憶を持ったまま、生まれ変わった事を呟く。
「まあ、俺も初めて聞いた時は驚いたが、その後のフィンくんの発明やら知識の出どころを思えば納得したがな」
「ええ。妹には早いタイミングでバレて、ワクワク顔で前世の事を根掘り葉掘り聞かれました。我が家の血族に伝わるスキル、『心の覗き見』の前には少々の精神防御では効果なかったですね」
フィンは過去の事を思い出しながら、苦笑する。
自分は良き友と賢き妹に恵まれたから、異世界でも孤独にならなかった。
だが、幼い頃には両親からは気味悪いとも言われ、自分から遠ざかった人も多い。
「今になれば、ミアくんとの出会いや今の関係は運命だったとは思います。だからこそ、私はミアくんに変に思われるのが怖いです」
「フィンくん。ミア嬢ちゃんなら絶対に大丈夫さ。あの嬢ちゃんが差別とか恨みや妬みを持つのを見たことがあるか? あ、マリー嬢ちゃんには嫉妬してたか。ははは! 夫婦の間に隠し事はしない方がいいぞ。俺もかなり苦労しているからな。じゃあ、早く寝ろ。明日も早いぞ」
ニコルはスキットルから一口酒を呑むと、立ち上がりバンとフィンの背中を叩く。
そして大声で笑いながら自分のテントの方へ歩いて行った。
「痛いなぁ、ニコルくん。それに寝ている人に迷惑だぞ」
フィンはこんな中でも起きないミアの寝顔をテントの隙間から見て、笑みを浮かべる。
そしてコップの中の酒を一気に飲み干した。
「くぅ。これウォッカ並みに度数高いじゃないか。さて、私も寝よう」
フィンはミアの横に準備していた寝袋に入る。
そして乙女の幼い寝顔を見ながら眠りについた。




