第7話(累計 第29話) 毒は何処から。
「ぼ、ボク。もーお嫁さんに行けないよぉ!」
「はぁ、すっかり堪能してしまいました。ミアちゃん、全然問題無しですのよ。女の子同士なら、キスまではノーカウントですの。お互い触りっこもありですわ。それに、アタクシ達は姉妹ですし。おほほ」
小さな身体を両腕で抱きしめ、顔を真っ赤にしたミア。
そして、これまた上気して薔薇色の頬をしたマリー。
ミアの全身至る所をまさぐれて満足したマリーは、恍惚の表情だ。
「そんな訳あるかぁ! まったく、この痴女な妹め。執事殿、笑っていないでマリーを止めなさい」
「ははは。まあ、いいではないですか。ここは私を除けば身内だけですし。それに姉妹の遊びの範疇ですよ、まだ」
妹の痴女行為に思わず突っ込むフィンであるが、老執事は自分が仕える若者たちがふざけ合っているのを楽しそうに眺めていた。
「ふぅ。さて、『お遊び』はここまでにしますの。ミアちゃんを抱っこできましたので、すっかり吐き気も止まり、頭脳もすっきりですわ。おほほ」
「ボク、お姉さまの清涼剤なのぉぉ?」
ミアの着崩れた服を直しながら、すっきり顔のマリー。
涙をこぼしていたミアの顔を優しくハンカチで拭い、少女から仕事ができる貴族令嬢の顔になる。
「ミアくん。こうなればしょうがない。今後とも妹、マリーとは遊んでやってほしい。この子も貴族社会でのストレスが大変だからな」
「えー! ボク、恥ずかしいよぉ」
「そんな事をおっしゃるのなら、早くお兄様が家に帰ってきてください。長命種が貴族になれない案件、定年制度を定義すれば何も問題無いですわよ。政治改革、アタクシ頑張りますので」
フィンはミアをマリーへの貢物、人身御供にするように話す。
だが、当のミアは文句を言い、マリーもフィンが家に帰るのが一番と苦言を呈した。
「せんせー。ボク、どーなるのぉ」
「安心しなさい、ミアくん。マリーは最後の一線『だけ』は必ず守るから。では、仕事。解剖結果を二人に説明しよう」
「お願いしますわ、お兄様。いえ、教授」
「は、はい。先生」
フィンは真面目な顔で、ウィエンネンシス子爵家を襲った悲劇について語りだした。
◆ ◇ ◆ ◇
「子爵さまは肝臓、腎臓が壊死したことが原因で亡くなっていた。おそらくだが、他の家族も報告があった症状から同じ病変で亡くなっていると思われる」
「全員が同じだとしたら、病気か毒ですわね、お兄様」
「ボク、そんな病気は聞いたことないよ。複数の臓器が同時におかしくなるなんて?」
フィンの説明に驚く二人。
こと、ミアは想像もできない様だ。
「ミアくん。病気によれば多臓器不全は良くある話だ。例えばガン、悪性新生物による病気なら原発部位から転移して多くの臓器を等しく侵していくからね。ただ今回の事例では、同じ食事をした家族及び毒味役が全員同じ症状で亡くなっている。であれば、毒もしくは感染症による死亡だと考えてもよかろう」
「そうなりますと、シェフが既にこの世にいらっしゃらないのが困りますわね。問題の食材が何か分かりませんですの」
フィンの説明に、マリーは顔をしかめる。
今回の事件を解決する為に無理を通して解剖まで行ったのに、何もわからなかったでは無理をお願いした先代子爵や王家に対して説明が出来ないからだ。
「そこは大丈夫。問題の食材は症状から粗方分かっているからね。解剖中に尋ねたけれど、キノコ類を亡くなった人たちが食べていなかったのかな?」
「おそらくですが子爵家に食材の仕入れ台帳などが残っています。そこを調査してみますわ。で、キノコの毒とは? 今のような秋ですと、多くのキノコがご家庭で食されていますが?」
「ボクもキノコ。マッシュルームは大好きだよ」
フィンは毒キノコが死亡した原因ではないかと尋ねる。
晩秋の今、貴族や平民の間でも珍味、そして滋味溢れるキノコは良く食されている。
「マッシュルームに関しては発酵堆肥によって人工栽培がなされているから安心だね。ただ、他のモノ。こと自然から採取されたものが有毒かどうかは、素人に判断は難しい。通常はプロによる採取がなされるが、そこに落とし穴があった事による事故死か、もしくは……」
「意図的に毒キノコを紛れ込ませての毒殺でしょうか、お兄様?」
「そのどちらかだろうね。詳細は食材の仕入れ先情報を調べてからにしよう。事故の可能性もまだゼロじゃない」
フィンは解剖から分かった事から推理を広げる。
マリーも兄の推理を聞き、事件の可能性を考えた。
「怖いなぁ。ボクも山で採取するときは気を付けないと」
「そうだね、ミアくん。サバイバル、山にて食料を採取する場合、キノコには炭水化物や脂質などの活力源が殆どないので、採取に要するカロリーとは割に合わない。あくまで通常の食材に味を加える以上の意味はないから、気を付けるように。なお、キノコ類の『アミノ酸』は植物や動物のアミノ酸、うまみ成分とは違うからそれぞれを混ぜると、相乗効果でより料理の味が良くなるぞ!」
「お兄様。どうして毒キノコ話がグルメ話になるのでしょうか? 昔からお兄様は知識をお話しだしたら、どんどん脱線していましたものね。確かにキノコがスープに加わりますと美味しくなりますが? で、問題の毒キノコは何ですの?」
思わずウンチク話をしだすフィンに突っ込むマリー。
幼い頃から兄が出どころ不明の知識を話し出すと止まらないことを思い出しながらも、彼女もその知識自体は否定しない。
「あ、すまん。私の悪い癖だな。おそらく、今回の子爵さま達一家を殺した毒はアマニチン。『ドクツルタケ』や『タマゴテングダケ』などの白いキノコが持つ毒で、キノコを一本、いや半分でも食べたら確実に死ぬほどの猛毒。この毒の恐ろしいところは時間差でくるところなんだ」
「あ、それで皆、だいぶ後から亡くなったんだ!」
「確かに時間差がありますわね。一番小さなお子様から、奥様、毒味、子爵様の順番で亡くなっていましたし」
「こと、奥様が精神障害を起こしたのも、『肝性脳症』。肝臓や腎臓で処理しきれなかった老廃物が脳に回った症状に一致する」
フィンの口から、毒キノコとその毒性が語られる。
そのおぞましさに、ミアとマリーは顔を青くした。
「一旦症状が落ち着くが、その時は既に手遅れ。身体を回った毒が肝臓と腎臓を破壊し、確実な死を迎える。恨みがある相手に対して毒殺をするには時間差もあって、実に使いやすいモノだろう」
「となりますと、ますます食材の仕入れ先が気になりますの。アタクシ、早速調査をしてみます。セバス、帰宅用の馬車を準備お願いしますわ」
「はい、お嬢様」
「じゃあ、ボクはどうしよう? 市場のオバちゃん達に知り合いが多いから、キノコ類を子爵様の家に降ろした事があるか聞いてみようかな?」
フィンの見つけた事実と推理を受けて動き出す二人の乙女。
フィンは「敵」の正体を考え、心配になった。
「二人とも、その線で動いてみたら良いと私は思う。ただ、敵が暗殺者。旧帝国の手のモノなら、調べだした二人を襲う可能性もある。くれぐれも身辺に注意して無茶はしないように」
「はい、お兄様」
「うん、先生。ボクも気を付けるね。先生も無理しちゃだめだよ」
ミアはフィンの顔色があまりよくないのに気が付いた。
そして、彼女のカンは事件が大きくなることを感じていた。
……もし、おじちゃんを襲った事件と子爵様が亡くなった事件が重なっていたら、ものすごく大変な事になるのかも。嫌だなぁ。




