5.エンペラー(以下略)との遭遇
ちなみに、主人公も低級の魔法は使えます。
(早水 勇雄視点)
ーガッ!……ガガッ!……ドサッ!
「う、うぅ……」
「……だ、大丈夫か?」
しばらく岩肌を滑り落ちた俺達は、ようやく地面へと着地……というか衝突した。
一応、俺が【完全防御】を発動させて庇いながら落ちたため、ネリルもギリギリ九死に一生を得たようだ。
とまあ、俺が安堵していると……
「……ぼん゛ど、ずびばぜん゛でじだぁぁぁぁぁ!」
「っ!?」
顔面を涙と鼻水と涎でベトベトにしたネリルが、突如として号泣しながら謝って来た。
「わ゛だじがあ゛ん゛な゛ごどじな゛ぎゃぁぁ~!」
「取り敢えず泣き止んでくれ!……そもそも、あれは俺だって予想出来なかった訳だから……」
まさか、あんな大量のオイルスライムが来てたとは思わなかったしな……
……というか、マジで何だったんだ?
「……ぐすん……すみませ~ん、急に取り乱しちゃったりして~……」
「いや、気にするな。……にしても、ここってスライムダンジョンの何階層だ?」
基本的に、スライムダンジョンは中規模なダンジョンだ。
確か10階層が最下層だった筈だし、自力で上がるのも無理って訳じゃない。
ただ……
「……いだっ!?……お、落ち着いたら急に痛みが出て来ちゃいました~……」
「……まあ、無事で済む訳ないよな……」
いくら俺が庇った所で、無傷で済む筈がない。
……というか、怪我の程度によってはマジでヤバいからな……
「ハァ……ハァ……でも、ちょっとした打ち身で済んでそうです~……」
「ちなみに、場所は?」
「主に足、ですね~……」
……う~ん、あの高さから滑り落ちて、この程度で済んだと喜ぶべきなのか……
まあ良い。
さっさと行くか。
「じゃあ、取り敢えず俺の背中に乗れ」
「え?……い、良いんですか~!?」
「ハァ……足を怪我してちゃ歩きづらいだろ?……俺の事は気にしなくて良いから、大人しく甘えとけ」
「は、はい~……」
そうして俺はネリルを背負い、歩みを進め始めた。
と、その時……
ーふわっ……ふわっ……
「……ん?……これって、ネリルの配信用カメラだったよな?」
「はい~。……どうも、さっきの爆発を上手く掻い潜ったみたいですね~……」
俺の周囲を浮かぶ、ネリルの配信用カメラ。
さっきの爆発を掻い潜るとか、地味に耐久力が凄いんだな……
「……って、それなら助け呼んで貰えるんじゃ!」
「可能性としては高いですね~。……でも、配信って繋がってますかね~?」
「えっと、スマホスマホ……うん、ちゃんと繋がってるな。……ってか、最悪このスマホで助けを求めるとするか……」
「まあ、自力で戻れなかったらそうしますか~」
一応、このスライムダンジョンの規模なら戻れる範囲だという考えだった俺とネリルは、結局その場で助けを呼ぶ事はなかった。
……この後に起こる事を知らぬまま。
数分後……
「……おかしい、何処を探しても上層に上がる階段が見当たらない!」
「……というか今更ですが、今私達が居るここって何階層ですか~?」
いくら周囲を探しても、上層に上がる階段が見つからないのだ。
……と、ここで俺は最悪な考えを思い浮かべる。
「……なぁ、可能性の話なんだが……俺達が着地したあの場所が、元々階段だったとかないか?」
「いや、流石にそれはないと思います~。……後、もう1つ気になったんですが……流石に人の気配なさ過ぎませんか~?」
人の気配?
そんなもんないに決まってるだろ。
「そりゃそうだ。……そもそも、ここは中規模ダンジョンだが難易度的には初心者向けダンジョンだ。……そんなダンジョンに朝っぱらから潜ってる奴なんて、そうそう居ないからな」
「な、なるほど~……」
確かに、俺やネリルみたいな初心者も来るっちゃ来るが、こんな朝っぱらから潜ったりはしない。
逆に、朝からダンジョンに潜る物好きは、こんな初心者向けダンジョンに来たりはしない。
「まあ、だからこそスライムがどんどん前から来たんだろうがな」
「確かに~。……前に人が居たら、あんなに来ませんもんね~」
「……にしても、マジでここ何階層だ?……流石に最下層までは落ちてない筈だが……」
どうやっても八方塞がりになった俺は、手に持っていたスマホで配信のコメント欄を覗いてみた。
すると……
・う~ん、この地形から考えるに第4階層かな?
・後、階段は勇雄さんの推測通り着地地点だね
・落下して来た諸々の破片で埋まってた感じかな
・勇雄、ネリルちゃんの事絶対守れよ!?
・さっき救助頼んだから、その内来る筈だよ
……あ、救助呼んだのか……
まあ、階段が埋まっちまったんならしょうがないな。
……なら、俺達はあの着地地点に戻っとくか。
「あ~……戻るんですか~?」
「そうだな。……ってか、それしかないだろ」
「そうですよね~。……ハァ、どうしてこうなっちゃったんでしょ~」
「……こ、今後は気をつければ良いと思うぞ?」
そうして俺達は、救助を待つために着地地点に戻ろうとした。
……その時だった。
ーザザッ……ザザッ……
「……勇雄さ~ん、何か変な音がするんですが……」
「確かに、大きな"何か"を引き摺ってる音にも聞こえるが……まさか、ダンジョンボスのキングスライムがここまで上がって来たとか言わないよな?」
どのダンジョンにも1体、ダンジョンボスと呼ばれる魔物が存在する。
ダンジョンボスはダンジョンの最下層の開けた部屋にて探検者を待ち受けており、迷宮核が破壊されない限りは倒されても一定時間で復活するという特性を持っている。
ただ、ダンジョンボスはダンジョンの最下層から離れられないし、ここのダンジョンボスであるキングスライムは最低でも2階建て建築と同じ大きさはあるモンスターだ。
……そんな奴が、いくらスライムだからってダンジョンを縦横無尽に動けるのだろうか?
そう、考えを巡らせていると……
ーシュ~……ゴポッ……ゴポゴポ……
「「っ!?」」
突然、近くの床から煙が上がりながら溶け始め、下から何かが上がって来た。
……突然だが、スライムは種類によって色が変わる。
通常種のスライムは水色、アシッドスライムは緑色、ポイズンスライムは紫色、パラライズスライムは黄色、フリージングスライムは白色、オイルスライムは茶色、そして見た事はないがピンク色のエストラススライムという種類のスライムも居るらしい。
……何故、こんな事を考えたのか。
答えは簡単だ。
「え~っと~……緑、紫、黄色、白、茶色、そしてピンクが混ざった巨大なスライム……の一部に見えるんですが~……」
「奇遇だな、俺も同じ様に見えてるぞ」
床を溶かして現れたのは、緑、紫、黄色、白、茶色、ピンクが混ざり合った様な色をした巨大なスライムの一部だった。
未だに見えるのは一部だけで全体像は見えないが、そこから推測出来るサイズはキングスライムよりも大きいものだった。
「……あれ、何ですか~!?」
「おい視聴者、何か知ってるか!?」
俺は藁にもすがる思いで、ネリルの視聴者に情報提供を求める。
その結果は……
・何あれ!?
・あんなの知らん!
・……ってか、新種じゃね?
・見た感じ、キングスライムよりデカいよな?
・仮に名付けるなら、エンペラーセクスタプルキメラスライムって感じ?
エンペラーセクスタプルキメラスライム、か……
キングスライムより大きな、6種類のスライムの複合体って意味じゃピッタリなネーミングだが……そのまんま過ぎてクソ雑じゃねぇか!
「エンペラーセクスタプルキメラスライム……勇雄さん、セクスタプルって何ですか~?」
「6つの何かだって思っとけ!」
ータッタッタ!
「……あ、エンペラーセクスタプルキメラスライムが触手みたいなの伸ばして来ました~!」
「ハァ!?」
ーニョロニョロニョロ……
自身の肉体を触手の様に伸ばし、俺達に迫って来たエンペラー(以下略)。
しかし、この時の俺達はこんな状況であっても、まだ奴の恐ろしさを完全には理解していなかったのだった……
ご読了ありがとうございます。
エンペラー(以下略)の本当の恐ろしさはここからです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




