46.旅館での夜
ようやく、長かったドラゴンダンジョン編も終わりそうです。
(早水 勇雄視点)
俺と火毘輝が宴会場に戻ってから数時間後……
「ほな、そろそろ寝よか?」
宴は終わり、風呂も終えたタイミングで宝実さん……いや、宝実がそう告げた。
しかし、俺には1つ言いたい事があった。
「……俺が言うのもアレだが、本当にこの部屋割りで行くのか?」
「何や?……ウチ、ネリルはん、マッドフラワーはん、勇雄はんが大部屋、火毘輝はんと理穂はんが普通の部屋で寝て貰うっちゅうウチの案があかんって言いたいんか?」
「いや、そうじゃないが……」
「……まあ本音を言うと、今夜の内にウチの初めてを貰って欲しくてこの部屋割りにしたんやけどな?」
「ブフォ!……そ、そうか……」
宝実は今夜の内に初体験を済ませたいらしく、赤面してそれを伝えて来た。
なお、宝実の後ろではネリルとマッドフラワーがニヤニヤしながらその様子を眺めていた。
「ま、そういう訳であるから今夜は色々と頼んだであるよ?」
「頼みましたよ~?」
「……本当に勇雄君はモテモテっすね~」
「新人君、ファイトだ」
……火毘輝と理穂さんは他人事だからって楽しんでいる感じがするな……
まあ良いが。
「ふぅ……宝実、布団の上で分からせてやるから覚悟しておけよな!」
俺は負け惜しみの如く、そんな台詞を吐いた。
もっとも……
「……勇雄、吾輩達相手ですら主導権を握れた事はないであるよな?」
「ぎくっ!」
「私の記憶が正しければ~、いつも私達に分からされてたのは誰でしたっけ~?」
「ぐはっ!」
……マッドフラワーとネリルからすぐに訂正が入り、俺は余計なダメージを食らう羽目になったが。
「ふふ、ええよええよ♥️。……そんなに言うなら、分からせてみよし♥️」
「いや、それはその……」
無理だろうな。
可愛いと言って赤面させるのとは訳が違う。
ほぼ確実に、アレの主導権を女性陣に握られるのは間違いない。
「ほな、行こか~♥️」
「今夜は寝かせないのである♥️」
「楽しみましょ~♥️」
こうして、俺は俺の彼女3人によって大部屋へと運ばれ、一晩中弄ばれる事になるのであった。
……ただし、後悔はしていなかった辺り、俺も大概だなと思わざるを得なかった……
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(無限原 火毘輝視点)
勇雄君が3人に運ばれて行った数分後……
「ハァ~……今頃、勇雄君達は楽しんでる最中っすかね~?」
アタイは割り振られた部屋で布団に横たわりながらそう呟いたっす。
すると……
「……なあ、火毘輝君。……私が言うのも何だが、本当に新人君とは何もなかったのか?」
……別の布団の上に座っていた理穂さんが、そう聞いて来たっす。
「本当に何もなかったっすよ」
「本当、か。……ところで、火毘輝君は新人君の事をどう思っているのだ?」
やっぱり聞いて来たっす。
……どうせ、アタイも勇雄君に惚れてるんじゃないかと疑ってるってところっすか。
「同郷の知り合いっすね。……とは言っても、惚れる寸前までは来てるっすけど」
「なっ!?……ほ、惚れる寸前!?」
「それ、流石にオーバーリアクションっすよ。……まあ、後2人ぐらい彼女が増えたら考えるっす」
「……き、基準が分からないな……」
……何かドン引かれたっす。
そんなにおかしいっすかね?
少なくとも、この世界じゃ一夫多妻は認められてる筈っすけど?
「何で皆、そんなにドン引くんすか?……彼女が多ければ多い程、魅力的な男って考えにはならないんすか?」
「……そう言われたらそうかもしれんが、わざわざ後2人増えるのを待つ者はそうそう居ないだろう……」
「そういうもんっすか?」
「そもそも、新人君にその気があるかも分からない以上、下手に増やそうとするのは悪手としか……」
……そうっすよね~。
こっちの価値観は置いておくとしても、普通は勇雄君がこれ以上は彼女を増やさないと言ったら終わりっすから。
でも……
「……勇雄君は、絶対にこれからも彼女を増やすっすよ。……これは確信に近いっす」
「何故、そう言い切れる?」
……あんまり下手な事をしてボロを出したくはないんすけど……
仕方ないっすね。
「アタイが断片的な未来を見れるって言ったら信じるっすか?」
「…………は?」
当然、理穂さんは鳩が豆鉄砲食らったかの様な反応をしたっす。
「……アタイのスキル、【魔弾の射手】にも"スキル解放"が存在するっす。……その名も【模倣の魔弾】っす!」
「こ、コピーの魔弾だと?」
マッドフラワーさんの【革命の旗手】における【最後の審判】の様に、スキルには一段階上の技……俗に言うところの"スキル解放"が存在するっす。
勿論、誰でも到達出来る訳じゃないっすけど……アタイはとっくに到達済みなんすよね~。
「……で、【模倣の魔弾】の効果っすけど……他者のスキルや魔法を真似た魔弾を作れるんすよ!」
「は、初耳だぞ……」
そりゃまあ、誰にも言ってないっすからね。
……あ、誰にも言ってないといえば。
「出来れば理穂さんも口外禁止で頼むっす。……下手な事をして、出し抜かれるのは嫌っすから」
「出し抜かれる?……恋敵にか?」
「違うっすよ!……迷宮至上教の奴等にっす!」
「っ!?」
アタイはずっと、この技を真面目な事にしか使ってないっす!
「……ちなみに、未来を見るスキル……正確には未来を予測するスキルっすけど、これは偶然銭羽商会で会った佐屋木原って人のスキルを模倣した結果っす」
「佐屋木原……確か泥花君や翔悟君、炎麗君とは幼馴染みの関係に当たる探検者だったか……」
佐屋木原って人はスキルを公表してないっすから、こっそり適当に模倣した魔弾が未来を予測する効果を持ってて驚いた記憶があるっす。
ま、それはさておき……
「とにかく、その魔弾を自分に撃つと効果を一部だけ使えるようになるんすけど……それでまあ、色々と嫌な未来の可能性を見ちゃったんすよね……」
間違っても、あのスキルは未来を確定させるスキルじゃないっす。
ちょっとした不確定要素が入るだけで未来が変わるタイプな上に、見れる未来も完全ランダムな使い勝手が悪いスキルっす。
「ど、どんな未来を見たんだ?」
「それは秘密っす。……人に言ったら、また未来が変わっちゃうっすから……」
「そ、そうなのか……」
そんなスキルで見た未来を覆すためにも、アタイは色々と暗躍をしてるんすけど……それは言わない方が良さそうっすね。
「1つ言えるのは、どれだけ未来が変わっても勇雄君は恋人を増やしたって事実だけっす。……ワンチャンあって良かったっすね」
「ブフォ!……べ、別に私は新人君の事が好きな訳では……」
「バレバレっすよ。……ま、成就するかは言わないっすけど」
「……火毘輝君も大変そうだな……」
そうっすよ?
少なくとも、今回の一件は予測した範囲に含まれてなかったから未知だらけだったっす……
「……どの未来も見れる訳じゃないっすから、今回みたいにヘマする事も多いっす。……でも、アタイは諦めないっすよ!」
「……この事は口外しないでおこう。……その方が良い未来になるなら……」
そんな会話の後、アタイ達は眠りについたっす。
……この先の未来で待ち受ける、血で血を洗う戦いなんて知らずに……
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(俯瞰視点)
マッドフラワーのドラゴンダンジョン攻略は、動画投稿サイトを通じて全国に配信された。
当然、その配信に写っていたミランダの姿もまた、電波の波に乗って拡散される事になった。
そして……それを見て複雑な反応をする者が3人居るのも、必然だった。
「ミランダ……その名、覚えましたわよ……」
復讐を誓う者は、ミランダへ殺意の炎を燃やした。
「こいつが、炎優チャンを……」
師に続き友すら守れなかった者は、どうにか冷静を保とうとしていた。
「どうせ、ぼかぁ無力ですよ~。……復讐を出来るだけの実力もないですし~……」
未来を予測出来る者は、何も出来ない無力感に苛まれていた。
各々が三者三様の反応をする中、確かに決着の日は近付いていたが……この時点では誰も知る由がなかったのだった……
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