42.ドラゴンダンジョン調査 決着
(執筆期間が)予想より長くなってしまったドラゴンダンジョン編も、もう後数話です。
(銭羽 宝実視点)
……ウチは卑怯者や……
あの状況やと、ウチが勇雄はんに銭羽商会謹製の高級ハイポーションを使わへん選択肢はなかった筈や。
せやのに、ウチは勇雄はんに対して代金を体で支払う方向に話を持ってった。
……意識を取り戻してすぐの勇雄はんが、正常な判断を出来へんのは分かってたっちゅうのに……
「……フライウルっちゅうたな?……あんたはウチを殺そうとした挙げ句、勇雄はんに致命傷1歩手前の怪我を負わせた……」
「それが……どうしたグル?……所詮は……弱者の命に過ぎないグル……」
……フライウルは何か言っとったけど、怒り狂っとるウチはそれを無視した。
「っ……どうしたもこうしたもあらへんわ!」
「「っ!?」」
フライウルと勇雄はんが驚いた反応をする。
……せやけど、今のウチに体裁を気にする余裕なんてあらへんかった。
「確かに、勇雄はんはウチやマッドフラワーはんみたいなS級探検者と比べたら弱い……生涯を鍛練に費やしても、A級にすら上がれんやろうな……」
「何気に酷い事を言うんだな……」
「ならば……何故……そこまで……怒るグル?」
まあ、これだけやと分からんやろなぁ。
「そんなん……勇雄はんを好きになってもうたからに決まっとるやろ!」
「ハァ!?……ゴホッ!ゴホッ!」
あ~、言ってもうた……
しかも、よりによって勇雄はんの前で……
「理解……出来んグル……そんな弱者を……お前の様な強者が……」
「せやな。……勇雄はんは紛れもない弱者や。……ウチも最初はその程度にしか考えてへんかった……」
「宝実さん……」
「でも、今は違うで。……弱者やのにウチを過度に恐れへんし、マッドフラワーはんの様子を見るに性格も良いのは分かっとる。……ふふ、こんな好条件な男を逃す程、ウチは甘くないんよ!」
理由だけ並べたらチョロいと思われそうやけど、ウチなりに考えた結果や。
ウチを恐れず、しがらみもない……
そしてウチが付き合ってもええと思える男……
そんな条件に一致したんが、勇雄はんだったっちゅうだけなんやから。
「理解不能だグル……強者なら……強者との子孫を……残す方が……」
「そっちの持論はもうええ!……聞くだけで耳が腐りそうやわ!」
あ~もうイライラするわ~!
今すぐフライウルをぶっ殺してやりたい……
と、ウチが遂に怒りの限界を迎えた時やった。
ーガコン!
「「っ!?」」
「……お、やっと天秤も限界に達したんかいな……」
フライウルから攻撃を受ける度に傾いていた天秤の右の皿が、遂に限界まで傾き切ったんや。
……ウチとしても、ここまで天秤が傾いたんは初めてなんやけど……何が起こるかは理解しとる。
「これは……マズい……予感がするグル……」
「正解や。……よくもまあ、ウチを限界まで怒らせたもんやで」
「……先手必勝……死に晒せグルァ!」
あかん予感でもしたんやろなぁ。
フライウルはウチに向かって攻撃を仕掛けて来た。
もっとも……
ーカァァァァン!
その攻撃は、ウチの蹴りで相殺されてしもたけどな。
とはいえ……
「またやったなぁ。……ウチの怒り、受けてみぃ!」
「なっ!?……待っ……」
「スキル解放、【強制徴収】や!」
【強制徴収】……ウチの【報復の天秤】が傾き切った時にだけ発動出来る技で、ウチも実際に発動するんはこれが初めてや。
さてさて、どうなるかと様子見しとると……
『強制徴収、執行開始シマス。……対象:フライウルノ財産ハ0円……ヨッテ、差シ押サエヲ開始……』
突然、【報復の天秤】からそんな電子音声が流れて来たんや。
そんで、その直後やった。
「差し押さえ……何のつもりグ」
『対象:フライウルノ毛皮……差シ押サエ執行』
ーブチブチブチ!
「ギャァァァァァァァァァァァァ!」
突如としてフライウルの毛皮が、"透明な何か"の手で綺麗に剥ぎ取られ、【報復の天秤】に吸収されてしもた。
……なるほど、これが"差し押さえ"か……
「……やとしても、まだ足りへんな~」
『対象:フライウルノ眼球……差シ押サエ執行』
ーブチッ!
「グラァッ!?……な……何も見えないグル……」
今度は、フライウルの眼球が2つとも抜き取られ、【報復の天秤】に吸収された。
……そこまでしても、ウチの怒りは収まらへん。
「まだや……」
『対象:フライウルノ各種内臓……差シ押サエ執行』
ーブチュ!……ブチュブチュブチュブチュ!
「ぐはっ!?」
今度はフライウルのあらゆる内臓が、フライウルから抜き取られ、【報復の天秤】に吸収される。
……本来なら、ここまでされたフライウルは死んでてもおかしくあらへん状況や。
ま、本来なら、やけど……
「ほんで、次は……」
「グ……グルァ……何故……小生は……生きて……」
フライウルはまだ生きとった。
……勿論、これも【強制徴収】の効果の1つや。
「【強制徴収】の"差し押さえ"は、対象を生かさず殺さずの状態で維持する事が出来るんよ。……ウチの怒りが収まるまで、な?」
「なっ……」
「……宝実さん、えげつないな……」
毛皮を失い、眼球を失い、あらゆる内臓を失い……
全身が激しく痛いやろうし、生きてるんも苦痛に感じ始めた頃やろ。
それでも、ウチはフライウルを殺さへん。
その方が、罰になり得るのを知っとるからや。
「……っちゅう訳で、次は何を抜こか。……よし、まずは血液からや!」
『対象:フライウルノ血液……差シ押サエ執行』
ーブシャッ!
「グルァァァァァァ!?……こ……殺せグルァァァァァァ!」
フライウルから血液が抜き取られ、【報復の天秤】に吸収される。
「次は骨や」
『対象:フライウルノ骨……差シ押サエ執行』
ーぐちゃ!
「もう……一思いに……殺せ……グルァ……」
フライウルから骨が抜き取られ、【報復の天秤】に吸収される。
「殺さへん……フライウル、ウチが生きてる間は死ねんと思っときよし」
「何故……万人の……幸福を……望んだ……小生が……こんな目に……」
「その幸せが、弱者を蔑ろにしたもんやった……それだけの事や!」
「理解……出来ん……グル……」
……フライウル、最後までブレへんな~。
そういや、何でちゃんと喋れてるんや?
肺は内臓と一緒に、歯は骨と一緒に抜き取った筈やから、ちゃんと言葉を喋れるとは思えへんのやけど……
いや、そもそも狼の口で言葉を発せてる辺り、普通とは言葉の出し方が違うんかもしれへんな~。
「ほな、今度は筋肉を取っ払おか」
「ひぃっ……止めろ……止めるグルァ!」
動く事も出来ず、全身に痛みが走り続ける……
こうなったフライウルが助かる手段は、もうあらへんかった。
ウチが生きてる限り生き地獄、ウチが死んでも今の状態で【強制徴収】が切れたら即死真っしぐら……
フライウルの敗北は、完全に決定しとった。
『対象:フライウルノ筋肉……差シ押サエ執行』
ーブチッ!……ブチブチブチブチブチブチ!
「ギャァァァァ!………………………ッ!」
全身の"肉"すら失ったフライウルに残ったんは、苦痛を与えるために敢えて残しとった"脳"と"神経"だけやった。
動けず、言葉を発せず、視界も失い、痛みが常に走り続ける……
もし、フライウルが武人気質な大物やったら、ここまで追い込まへんかったけど……
フライウルが下衆な小物やったから、ここまでしても殺してやらんかった。
「さて……じゃ、最後の"脳"と"神経"も貰うで?」
『対象:フライウルノ神経……差シ押サエ執行』
ープツン……
「……ほんま、言葉も発さんくなったらつまらんわ」
『対象:フライウルノ脳……差シ押サエ執行』
ーフッ……
結局、最後の"脳"と"神経"も【報復の天秤】に吸収されて、フライウルは呆気なく敗北を喫する事になってしもた。
……その上、ウチが生きてる間は死ねんのやから、ほんまに文字通りの生き地獄を経験する事になる。
「……商人を怒らせたらこうなる……最後に知れて良かったなぁ」
ウチは【報復の天秤】に吸収されたフライウルに対し、そう呟いた。
……一流の商人は滅多に怒らへんけど、その分怒ったら怒らせた相手をとことん追い詰める。
結局、フライウルの敗因はウチを怒らせた事としか言えんのやった……
ご読了ありがとうございます。
宝実は滅多に怒りませんが、いざ怒ったらこうなります。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




