41.ドラゴンダンジョン調査 追憶
今回の話は、いつもより短めです。
(早水 勇雄視点)
頭が……ぼ~っとする……
確か、俺は宝実さんを庇って……
死ん……だのか?
『……先輩、早く出るっすよ!』
ん?
何だ……この声……
火毘輝っぽいが……火毘輝の声じゃない……
だが……聞き覚えがある……
『……ったく、何で俺が響香と一緒に帰らなきゃいけないんだよ……』
っ!?
俺の声だと!?
……いや……違う……
この声は……前世の俺の声だ!
……ただ俺は……前世の記憶が曖昧なんだよなぁ……
一応……若くして……死んだのは……覚えているが……どうして……死んだかは……覚えてない……
今までは……それで問題なかったが……こんな記憶……知らないぞ?
『……にしても、冬場のコンビニバイトって大変っすよね~。……しかも、こんなに遅くなるなんて思わなかったっす!』
『全くだな。……ま、自分から望んで入っといてこんな事を言うのもアレなんだがな』
確か……話している相手は……前世でコンビニバイトの後輩だった……響香か?
そういや……今頃あいつは何して……
『ハァ……どうせ男の先輩に当たるんなら、もっとイケメンが良かったっすよ……』
『悪かったな、イケメンじゃない平凡顔で!』
『ま、それでも割と付き合いやすいから良いんすけどね。……とはいえ、まだアタイと付き合える程じゃないっすけどもね!』
『自意識過剰だろ……』
響香とは……こんな軽口を……何度も交わしたっけか……
多分……これは走馬灯……だな……
死にかけの……俺が見てる……追憶って事か……
『むぅ~……アタイだって、こう見えて高校では結構モテるんすよ?』
『だとしても、俺が靡く理由にはならないな』
『じゃあ、アタイの事は何とも思ってないんすか?』
『いや、一応大切なバイトの後輩兼友人程度には思ってるぞ?』
思えば……俺は響香を……好きだったのかもな……
前世では……気付けなかったが……
ーズキッ!
ん?
頭が……痛い……
何だ?
この先の……記憶を思い出すのを……拒絶している?
何故?
いったい……何が……
『ん?……あれ、あのトラッ……』
その記憶は……俺と響香が……歩く歩道に向かって……トラックが……突進して来る……場面だった……
直後……
ードシィィィィン!
……俺と響香は……避けきれず……トラックに……轢かれる事に……なった……
一瞬だけ……見えた運転席の男は……居眠りを……していた……
そして……次に俺が聞いたのは……
『痛い……全身が……痛い……響香……大丈夫か!?』
声から……全身の痛みが………滲み出ている……前世の俺の声……
『…………』
しかし……響香の反応は……ない……
『おい……聞いてんだぞ!……反応しろって……って……嘘だろ……』
前世の俺が見たのは……目の前で……無惨な轢死体となった……響香の姿だった……
一目で……死んでいると……分かるレベルで……酷い有り様だった……
しかも……それを見た俺も……死ぬのは……時間の問題だった……
『何で……俺だけ生かした……しかも……すぐに死ぬって分かる怪我で……』
思い出した……
これが……前世の俺の……最期……
ここで……生き残れたら……まだ即死しなかった事も……意味があったかもしれない……
響香の分も……生きれたかも……しれない……
でも……即死しなかった……だけ……
この後……俺はすぐに……
『……ああ……俺も死ぬのか……何でだ……何で……こうなるんだよ……』
そう言い残し……前世の俺の人生は……幕を閉じた……
それからしばらくし……気付けば……
『あんた、転生しな』
『ハァ?』
俺の前には……某デラックスな人を……彷彿とさせる見た目の……太った中年女性が……居た……
『あたしゃ、この国の神の一柱さ。……で、最近じゃ神の間で異世界に適当な魂を転生させるのが流行っててねぇ~。……ま、漏れなく全員イザナミ様や閻魔の野郎に怒られちまうんだが……』
『異世界に……転生?』
この時の俺は……何が何だか……分からなかった……
『そうさ。……この世界で必死に頑張って生きた魂からランダムで選んで転生させてやってる訳だ。……とは言ってもこの国は八百万も神が居るから、その中の半数が転生させるだけで結構な数になってるがね』
『……そうか……それで俺を転生させるのか……』
この時の俺は……半ば自暴自棄だったのかも……しれないな……
『ま、適当な世界に転生させとくから頑張りな。……ちなみに、あたしゃチートとか授けないタイプだから自力で良い能力引き当てるんだよ!』
『ちょっ、待っ……』
俺が……転生前に……神と会ったのは……これだけだ……
気付いた時には……俺は赤子に……なっていた……
走馬灯ってのは……死ぬ前に……打開策を探す……ためだって聞いた事があるが……何の役にも立たなかった……
強いて言えば……ずっと蓋をしていた……記憶を……見ちまっただけだ……
それも……自分が……響香を守れなかったって……惨めになる……だけだし……
何でこのタイミングで……こんな記憶を見せた……
俺は……俺は……俺は……
……………………
……………
……
…
ーパチリ
「んっ……ん?」
「勇雄はん、目ぇ覚めたか!?」
お、俺は……
「……小生に……マトモに切り裂かれ……生きているとは……」
「ふん!……銭羽商会謹製の高級ハイポーションを傷口にぶっかけたから当然や!……勇雄はん、この代金は体で支払って貰うさかいな!」
「わ、分かった……」
どうも、俺が助かったのは宝実さんが傷口に高級ハイポーションをかけてくれたかららしい。
心なしか、思考も先程までよりスムーズになっている。
「……フライウルっちゅうたか?……よくもまあ、ここまでウチを怒らせたもんやわ……」
「折角……庇われたというのに……また……無謀な戦いを……小生相手に……挑むグルか……」
未だにフライウルは余裕たっぷりであり、確実に宝実さんの方が劣性なのは変わっていなかった。
「宝実さん……ここは逃げた方が……」
「逃げ切れへんやろ。……平気や、勝ち筋はあるで」
そう言った宝実さんの声は怒気が込められていた。
……この戦いも最終局面、出来る事なら宝実さんに勝って欲しいが……俺が出来る事は何もなかった……
ご読了ありがとうございます。
勇雄の前世を少しだけ公開です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




