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40.ドラゴンダンジョン調査 狼男

どうにか捻り出しました。

(早水 勇雄視点)


宝実さんとフライウルが戦い始めてから数分が経過しただろうか。


ーカン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


「むぅ……いい加減……小生に……殺られろグルァ……」


「嫌やわ!……そっちこそ、ええ加減ウチの攻撃を食らいよし!」


……数分が経ったにも関わらず、未だに宝実さんの下駄とフライウルの爪が何度も衝突を繰り返していた。


そして、俺はここを離れられずに居る。


何故なら……


「……そこの弱者よ……ダンジョンによる救済の……生け贄となれグルァ!」


ーフッ……


「させへんで!」


ーカァァァァン!


「チッ!」


「ハァ……ハァ……勇雄はん、こいつに隙を見せたらあかんで!」


……とまあ、こんな感じでフライウルに襲撃され、宝実さんに庇われるのを何度か繰り返してこの場から逃げるのは無理だと悟った訳だ。


しかし、俺達の状況とは裏腹にフライウルは首を傾げて……


「……何故だ?……何故……その弱者を……守り続けるグル?」


そう、問いかけて来た。


「何故やって?……"救恤"を冠しといてそれ言うんかいな?……っちゅうか、そもそもダンジョンによる救いって何や!」


当然、フライウルの言葉の真意が分からない宝実さんはそう返答した。


そうして返ってきた答えは……


「ダンジョンによる救い……それはダンジョンから取れる財宝や……モンスターから取れる素材で……民に恩恵がもたらされる事だグルァ……」


意外にも、パッと聞いただけならマトモな答えだった。


だが、そうでないのは俺達がよく知っている。


「ほな、大暴走(スタンピード)を発生させたり、特異個体を誕生させとるんは何でや!……それで一般人が何人死んでもおかしないんやで!?」


まだ、ダンジョンに潜っている探検者が犠牲になるのは分かる。


そういう職業だしな。


ただ、迷宮至上教が起こしてきた事件は、下手をすればダンジョンの外に居る一般人まで巻き込む可能性が高い事件ばかりだった。


その問いに対してフライウルが返したのは……


「……大多数の恩恵のためなら……一定の犠牲は容認するのが……世の常グルよ……そもそも……その程度で死ぬ弱者より……強者が生き残った方が……種の存続としては正しい筈グルが?」


……という、受け入れがたいものだった。


「ハァ?……おい、流石にそれは……」


「勇雄はん、下手に刺激せん方がええ!……せやけど、そっちがそう言うならこっちも言いたい事があるわ……」


「何だグル?」


「……あんたはもう、"救恤"なんて名乗るんやない!」


流石に宝実さんもフライウルの言葉は受け入れられなかったらしく、激昂してそう叫んだ。


……見た目と言動と初対面が最悪だったので勘違いしそうになるが、宝実さんも一般人が犠牲になるのは許容出来ないらしい。


「意味が分からんグル……ああ……そういえば……」


「まだ何かあるんか!」


「ミランダ様や……他の同志達も……同じ反応を……見せていたグルな……それでミランダ様からは……この任務が失敗すれば……切り捨てるとまで……言われたグルが……」


「まあ、荊鬼こと茨木童子の事も考えたらそうなりそうだが……」


言ってはアレだが、七天美の殆んどは自分が"悪"だと分かっているのだろう。


だからこそ、自分の行いが絶対に"善"だと思い込んでいるフライウルとは相容れなかったといったところか。


「分からない……分からないグルァ!……小生の考えは間違っていない筈……ダンジョンによる救いを……万人にもたらすという……小生の考えはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ーフッ……


「せやから間違っとるんや!」


ーカァァァァン!


再度フライウルは姿を消す程の高速で襲いかかるも、宝実さんの蹴りによって止められた。


「何が間違っていると言うグルァ!」


「弱者を切り捨てるんは、"救恤"を掲げる者の行いやない!……寧ろ、"救恤"は弱者を守る事の筈や!」


「……小生は信じない……信じないグルァァァァァァァァァァ!」


ーシュン!シュン!シュン!シュン!シュン!


「チッ!……やけくそかいな!」


宝実さんの言葉に激昂したフライウルは、先程までと同じ見えない速度で壁や天井を使って縦横無尽に暴れ始めた。


もっとも、俺が見えるのは破壊される床や壁、天井だけだったが。


「死ねグルァァァァァァァァァァ!」


「させへんわ!」


ーカァァァァン!


「グルァァァァァァァァァァ!」


ーシュッ!シュッ!シュッ!シュッ!


ここで宝実さんの下駄とフライウルの爪がぶつかるも、フライウルは何度も攻撃を繰り返す。


しかし、宝実さんは何かに気付いた様な笑みを浮かべて……


「……やっぱり、攻撃の直前だけ速度が遅くなっとるなぁ。……自分でもスピードを制御し切れとらん証拠や」


確かに、フライウルは見えない速度で移動している割に攻撃の直前に見える様になっていたが……まさか、あまりの速度に制御し切れずブレーキをかけていたからか……


「小生は……ダンジョンによる救いを万人にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


ーカン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


「その救いとやらで何人……いや、何十人何百人が死ぬんや?……それも、ダンジョンに潜っとる訳でもない一般人が!」


「煩い……煩い……煩い煩い煩い煩いうるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!……ダンジョンの恩恵を受けている癖に……ダンジョンで命をかけていない罰だグルァァァァァァァァァァ!」


ーカァァァァン!


分かり切っていたとはいえフライウルの考えは、到底受け入れられるものではなかった。


それは宝実さんも同じらしく……


「ダンジョンで命をかけるんは探検者の仕事で、それを一般人に売るんがウチ等商人の仕事や!……一般人は、ウチ等みたいな商人に金を落としてくれたらそれでええんや!」


ーカン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


「小生には……理解不能だグル……大暴走(スタンピード)や特異個体は……通常のモンスターよりも……多く素材が手に入ったり……希少な素材が手に入る機会だというのに……戦えぬ弱者のために……それを棒に振るなど……」


ーカン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


「そんな犠牲を出さんでも、この国の経済は上手く回っとる!……そんな状況であの下衆みたいな提案を受け入れる訳ないやろ!」


ーカン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


「……やはり……人間は愚かだグル……」


この論戦は、圧倒的に宝実さんの方が正しい。


……なのに、フライウルは折れる気配がない。


やはり、どう頑張っても話が通じない相手という事なのだろう。



そのまま、宝実さんの下駄とフライウルの爪による戦いは更に数分程度続いた。


……と、ここに来て戦局が変化した。


「ハァ……ハァ……何で……そんな高速で動いてピンピンしとるんや!……こっちは天秤のバフを全部スピードに回しとるっちゅうのに……」


「小生は……まだ余裕だグル……」


遂に、宝実さんのスタミナの底が見え始めたのだ。


対するフライウルはまだ余裕といった感じで、いかに七天美が桁違いの実力を有しているのかを実感せざるを得ない。


「……これ、俺が行くべきか?」


宝実さんは高速で動き続けた弊害で、普段の飄々とした胡散臭さも崩れる程に追い詰められていた。


とはいえ、俺が行って何になる?


マッドフラワーと茨木童子の時みたいに、静観しておいた方が宝実さんの邪魔にならないんじゃ……


「ハァ……ハァ……まだやられへんで!」


「ふむ……あの弱者よりも……お前を先に殺した方が良さそうだグルな……」


「……勇雄はん、早く逃げよし!」


マズい……


フライウルが完全に、宝実さんを仕留める方向へと舵を切ってしまった。


俺が眼中からなくなる程に……


「では……逝けグルァ!」


「くっ……」


「……俺はもう(・・・・)後悔した(・・・・)くない(・・・)……」


ふと口から漏れ出た言葉……


その時、俺は時間が遅く流れる様に感じた。


……別に時間系の能力が覚醒したとかじゃない。


よく事故に遭ったらなると言われているアレだ。


……でも、今の俺には充分だった。


ーザシュ!……ビチャッ!


「む?」


「へ?」


フライウルが振るった爪が肉を切り裂き、血が飛び散った。


「……ぐはっ!」


「い、勇雄はん!?」


……もっとも、切り裂かれたのは俺だったが。


「……死ねよ、狂信者の馬鹿狼!」


ーバンッ!


「チッ!」


ーフッ……


俺は手に握っていたハンドガンをフライウルに向けて撃つも、それは回避されて空を切る。


「……あ、これ駄目かもしれない……」


ジャストガードが間に合わず、腹を切り裂かれちまった。


しかも、かなり出血が酷い……


「勇雄はん!」


宝実さんの声が聞こえたが、俺は返事すら出来なかった。


そして、そのまま何も出来ずに俺の意識は混濁し始めたのだった……

ご読了ありがとうございます。


フライウルは善意で行動しているからこそ、より分かり合えないタイプの屑です。


気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。


後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。

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