22.フライウルの失敗
次のヒロインに行く前に、敵の内情を書きます。
(数日前、俯瞰視点)
「……フライウル、少し良いですか?」
「ミランダ様?……小生に……何用が……」
その日、ミランダはフライウルを呼び出していた。
「ハァ……最近の貴方の言動は目に余るものがあります。……特に、荊鬼の葬式で発したあの言葉は私としても無視出来ない程には……」
「む?……何の……事だ?……小生は……至極真っ当な事しか……言ってないが?」
「そうですか……反省の色、無しですね?」
ーブスリ
「……は?」
フライウルが、荊鬼の葬式時に発した言葉を反省していないと知った瞬間、ミランダはフライウルの首筋に爪を針状にして突き刺した。
「安心してください、殺しはしません。……ただし、これでもかと言う程には苦しんで貰いますが……」
ーグジュグジュグジュ……
「おい……何を……言っ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
爪を突き刺されたフライウルの首筋には、まるで鎖を思わせるかの様な呪印が広がっていた。
「……私だって、あの時に言うのは流石に我慢したんですよ?……まあ、あの時は堕骨丸が代わりに怒ってくれたので手を出さなかっただけですが……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ですが、フライウルは以前から独断専行が見られた上、今もまた碌でもない事を計画してますよね?……それに加えて、私達は"悪"であって"善"ではないというのに、貴方はそれすら理解していないと来ました……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ミランダは淡々と話すも、フライウルはそれを聞く余裕がなかった。
「……仕方ありませんね。……1度解いてあげましょうか……」
ーパチン!
「あぁぁ……ハァ……ハァ……何だ……小生の……何が……いけなかった?……」
ミランダが指パッチンをした直後、鎖の呪印は広がるのを止め、フライウルも持ち直した。
「何がいけなかったか、ですか?……まず1つ、フライウルは迷宮至上教を正義か何かだと勘違いしている点です。……こういった"悪"が自身を"善"だと勘違いする流れは、間違いなく組織の悪化に繋がります」
「なっ……そんな……馬鹿な……」
「そして2つ目……私の親友兼盟友たる荊鬼の死に、フライウルが何と言ったか……荊鬼は貴方の様な思想を持ち合わせていないのに、まるでそのために犠牲になったかの様な言い回し……それを笑って許せる程、私は甘くないんです……」
「あ……あああ……」
フライウルには、幾つかの失敗と呼べる選択があった。
まず、狂信者となって迷宮至上教を"善"、その他全てを"悪"だと考えてしまった事。
そしてもう1つ……見た目以上に荊鬼への親愛が重かったミランダの前で、荊鬼の死を自身の信仰理由と結び付けてしまった事。
ミランダの話しぶりから、前者の理由は以前より問題視されていたが……今回こういう目に遭った理由は明らかに後者の理由が原因だった。
「……かつての戦乱の時代、私は復讐のために人間を殺し回っていた荊鬼と出会って用心棒として勧誘し、迷宮至上教を立ち上げました。……私は邪神たる迷宮の神を信仰し、荊鬼には人間へ復讐する機会を提供し……って、聞いてますか?」
「……あああ……では……荊鬼様は……」
「堕骨丸の言っていた通りです。……私にとって迷宮至上教旗揚げ当初の思い出は本当にかけがえのない宝物で……そんな時代で苦楽を共にした荊鬼の死にフライウルが放った言葉は、私の逆鱗に触れた訳です」
「そんなの……背信だ!……ミランダ様は……それを容認して……」
そんなフライウルの様子を見て、ミランダも遂に諦めの表情を浮かべた。
そして……
「……正直、ここまで狂信しているとは……もう、駄目みたいですね……」
ーパチン!
「うぐっ!?……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
再度ミランダが指パッチンをすると、フライウルの首に刻まれた鎖の呪印が再び広がり始めた。
「これは最終警告です。……この次の作戦で結果を残せなければ、いよいよ七天美の交代だって……」
ーパチン!
「あぁぁ……ゲホッ!……ゲホッ!……ハァ……ハァ……わっ……分かった!」
ミランダの最終警告と脅しを受け、渋々フライウルは了承した。
「それではお願いしますね?……私だって、仲間を手にかけたい訳じゃないので……」
ーコッ……コッ……コッ……
「小生には……まだ……為すべき事が……ある……」
立ち去るミランダを見ながら、フライウルはそう呟きながら決意した。
どうにかして、次の作戦を成功させると……
そして数日後の現在……
「……次の作戦は……この地で行う……この地の……ドラゴンダンジョンで……」
とある地に到着したフライウルは、静かにそう呟きながら行動を開始した。
「……とはいえ……このレベルで……特異個体を……作るとなると……時間が……かかるな……ここは1つ……1ヶ月は時間をかけて……5月下旬に……最高傑作を……完成させる……」
強い特異個体を作るには、それ相応の時間がかかる。
そういう意味では、荊鬼は死に急いだが故に強い特異個体を作れなかったとも言えるが。
「小生は……まだ死なん……ダンジョンによる救いを……万人に……もたらすまで……」
そう呟きながら、フライウルはドラゴンダンジョンへと入って行った。
味方からも切り捨てられかけている狂信者は、果たして目的を達成する事が出来るのか、それは神のみぞ知るといったところだった……
一方その頃……
「堕骨丸、ゼバッティ、アゼトリーチェ、レマ……フライウルの処遇について、最終的な意見が聞きたいのですが……」
その場には、ミランダを筆頭とした七天美の内の5人が勢揃いしていた。
「……ミランダお姉ちゃんはどうしたいの?」
「私は……フライウルはもう駄目だと判断していますね」
ミランダは無表情でそう答えた。
「……儂も同感だな。……あの手の輩は最終的に暴走して、組織に不利益を与えるものだ」
「某も堕骨丸の意見に賛成です。……あれはもう、矯正が不可能な程に狂っています」
「私も賛成ザマス!……フライウルは金こそ使わないザマスが、あれはいつか組織に大損を与えるタイプザマスから!」
「あたしは……うん、仕方ないよね……フライウルお兄ちゃんはもう、どうしようもないし……」
七天美の面々の意見は一致していた。
あれはもう、駄目だと……
「……では、早速準備をしましょう。……あ、信者数人に頼んで、世界ダンジョン管理協会に通報するのも忘れずに。……内容はそうですね……『福井のドラゴンダンジョンで、怪しげな男を見た。……例の七天美とやらかもしれない』とでもしておけば誰かしらは派遣されるでしょう……あ、勿論通報のタイミングは特異個体が完成したタイミングですよ?……その辺は抜かりなく」
「某がそう命じておきます」
七天美は、決して足の引っ張り合いはしない。
だが、試練は課す。
「ふふふ……このぐらいの試練、どうにかしてみなさい」
例え試練を乗り越えられなかったとしても、それは弱かったという自己責任にしかなり得ない。
……こうして、七天美の中でフライウルの切り捨てはほぼ決定事項となっていたのであった……
ご読了ありがとうございます。
ミランダは表にこそ出しませんが、実は荊鬼への親愛がかなり重いです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




