13.荊鬼の覚悟
S級探検者、大豪寺 泥花ことマッドフラワーは私がこの作品で1番に思いついたキャラです。
(前話の1時間前、俯瞰視点)
「……荊鬼の姐さん、本気で今回の作戦を実行するつもりか?」
「今更何どす?……今回堕骨丸さんの同行を認めたのは、あんさんが司ってはるんが"忍耐"だからどすよ?」
「……つまり、黙って耐え忍べと申すか……」
「そうどすな」
そこに居たのは2人の人外だった。
1人は見た目こそ舞妓だが、明らかに人間離れした威圧感を放つ女性。
そしてもう1人は、侍らしき和服を着用して日本刀を腰に携えたスケルトンだった。
「そうは申すが……自身を犠牲にしてどうする!」
「……わてはもう、千年以上生きてきたんどす。……つまり、もう寿命も僅かなんどすよ……」
いくらダンジョンのモンスターといえど、永遠に生きられる訳ではない。
特にオーガは、千年も生きれば大往生だった。
「……少なくとも、レマはギャン泣きするぞ……」
「まあ、あの子は七天美の中でも最年少で最新参どすから……最年長かつ最古参の1人なわてが死んだら悲しむのは分かってはりますよ……」
「いや、あいつは誰が死んでも泣くぞ?」
「……そうどすなぁ……」
レマは七天美の中でも新参者であり、長く七天美に居た荊鬼が死んだら悲しむというのは誰からも予想される程甘い性格をしていた。
「……荊鬼の姐さん、事件を起こしたとして1番に駆けつけるのは、かつて姐さんが大暴走を起こしたオークダンジョンで死んだ男の……」
「分かってはるよ。……そやけど、"憤怒"って称されるS級探検者に恨まれてはるミランダさんは今も元気どすよ?」
「あれは尻尾を出していないからだ!……あいつだって、いつ捕捉されてもおかしくは……」
「でも、死ぬ事はないどすよね?」
「うぐぐ……だが、荊鬼の姐さんは寿命も僅かで全盛期程の力すら……」
最早、全盛期程の力すら残っていない荊鬼に対し、忠告をする堕骨丸。
だが……
「……だからこそ、最期に大きな花火を打ち上げて死にたいんどす」
「……くっ……」
もう説得は無理だと察した堕骨丸は、それ以上何も言う事はなかった。
そして、堕骨丸から離れた荊鬼は、目的地のダンジョンへと足を進めたのだった……
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(早水 勇雄視点)
「……お前がS級探検者なのは……いや、貴女がS級探検者なのは分かりました……」
「いや、別にタメ口で良いのである!……寧ろ、吾輩としては敬語とか嫌なのである!」
「わ、分かった……にしても、何でその2つのダンジョンから特異個体が出たからって大江山のオーガダンジョンに行く羽目に……」
「それは勿論……特異個体に誕生されたらマズいダンジョンだからであるよ!」
「な、なるほど……」
確かに、また酒呑童子クラスの特異個体に出現されたら困るよな……
「じゃあ、さっさと向かうのである!」
「そ、そうだな!」
そうして俺達は、大江山のオーガダンジョンへと向かった。
そして数十分後……
「と、到着したな……」
「よし、早速受付に向かうのである!」
オーガダンジョンに到着した俺達は、すぐにダンジョンの受付に向かった。
すると……
ーガクブルガクブルガクブルガクブル……
「っ!?……ど、どうしたんだ!?」
「何があったのであるか!?」
受付の男性が部屋の隅で失禁しながら、震えているのが見えた。
俺達は急いで男性を落ち着かせようとするも……
「ヒィッ!?……へ、変な舞妓がダンジョンに!……あ、あの威圧感は人間が出せるものじゃ……」
「……先回りされたか……」
「これは本気でマズいであるぞ……」
例の舞妓は、既にダンジョンに入っていた。
しかも、話を聞く限りでは人間離れした威圧感を放っていたらしいし……
「あ、後……鵺と土蜘蛛も連れてやがった!」
「……完全に同一人物だな」
「急いで吾輩達も行くのである!」
俺達は急いでダンジョンへと走る。
例の舞妓の企みを阻止するために……
「あ、念のため配信は始めておくのである!」
「雰囲気台無しだが!?」
……マッドフラワーのせいで、雰囲気は台無しになったのだった……
そして数分後……
「……なぁ、ここって確か初心者向けダンジョン……じゃないよな?」
「そうであるな。……ゴブリンやスライム、オークなんかと違って知能も高いであるから、少なく見積もっても中級者から上級者向けのダンジョンである!」
オーガは基本的に、強い上に賢い。
通常種ですら人語を解し、他の魔物と同じく徒党を組んで武器も使う。
そんなオーガの特異個体たる酒呑童子や茨木童子がどれだけ強かったかは……想像すら出来ない程だ。
ちなみに、ダンジョンに入った直後にマッドフラワーの視聴者へ簡単な説明はしたのだが……
・まさか、こんな大事件を直接見れるとは……
・やっぱり、マッドフラワーの配信は面白いな!
・まあ、構成員になろうとは思わんが……
と、割とコメント欄は好き勝手に言っていた。
と、その時……
「ウガガ……テキ……シンニュウシャ……」
「コロセ!」
「チマツリニアゲロ!」
目の前に3体のオーガが現れた。
「っ!?……武器は3体とも金棒、俺のスキルでどうにか防ぐか……」
「いや、その必要はないのである!」
マッドフラワーはそう言うと、手に持ち続けていた大きな旗を横に思いっきり薙いだ。
その次の瞬間……
ースパッ!
「ウガ!?」
「ナニガ……」
「コ、コノ……」
ードサッ!
……オーガが腹から上下に両断され、地面に倒れたのだ。
「え、今のは……」
「……吾輩のスキル、【革命の旗手】である。……これは吾輩を信奉する者が居れば居る程に旗の攻撃力が増加され、こうして横薙ぎしただけで並のモンスターなら倒せる程の凶器へと化すのである!」
「えぇ……」
まず、旗を横薙ぎしただけで斬れるのがおかしいし、直接当たってないのに斬れてるのもおかしいし、もう何からツッコめば良いか分からなかった。
なお、コメント欄は……
・やっぱ困惑するよな……
・S級探検者の中でも1番訳分からないしな……
・一見ネタ枠に見えて、実力は本物なんだよな……
……との反応だった。
「……皆、褒めるのは勝手であるが、吾輩のスキルは吾輩自身の力で戦っている訳ではないのである……」
「マッドフラワー……」
「親父は自分自身の力だけでオークの軍勢を止めてみせたのである!……例え吾輩が探検者のランクで親父を上回っている今でも、親父に追い付けた気はしないのである……」
どうも、マッドフラワーはS級探検者となった今でも父親に追い付けたとは思えてないらしい。
「……行くぞ……」
「そうであるな……」
その後、俺達は何度かオーガに出くわしたが、マッドフラワーのスキルのお陰で危機に陥る事はなかった。
……改めて、S級探検者ってのはモンスター側から見たら理不尽の権化だろうな、と感じる羽目になったが。
とまあ、そうして最深部に到着すると……
「あらまぁ、早かったどすなぁ……」
「……やっぱり、どう見ても舞妓だな……」
「でも、物凄い威圧感を放っているのである!」
その舞妓は番傘と呼ばれるタイプの和傘を閉じた状態で手に持っており、何処か不気味な雰囲気もあった。
「生憎やけど、今は手持ちのぶぶ漬けないんどす~」
「……つまり、帰れって事か……」
「お断りなのである!」
京都といえばぶぶ漬けと言わんばかりに、相手の舞妓は俺達に帰れと暗に言って来やがった。
とはいえ、俺達は帰らないが。
「……ここで帰っておけば死なずに済みはったのに……わては迷宮至上教の七天美が1人、"謙譲"の荊鬼って名前どす。……あんさん等の面子は精一杯立てさせて貰いますから……ここで死んでくれます?」
こうして、相手との勝負は始まった。
……にしても、荊鬼ってまさか……
ご読了ありがとうございます。
寿命による死を前にした荊鬼は本格的に戦います。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。
 




