12.マッドフラワーの過去
早く山場に行きたい……
(大豪寺 泥花視点)
あれは10年前……
「てやんでい、べらぼうめ!……おめぇ、世界征服なんて本気で言ってんのか!?」
「言ってるのである!……吾輩は、この世界を誰もが笑って暮らせる世界にしたいのである!」
……今思えば、この頃から吾輩に中二病の気はあったのである。
そして当然の如く、親父からは本気かと疑われたのである。
「あのなぁ……世の中、そんな理想論が上手く行く程甘くはねぇんだ!……ば~ろちくしょう!」
「で、でも……」
「それに何でい!……まるで自分の力で世界を征服出来るって言い草は!……傲慢なだけじゃ、人はついて来ないぜ?」
「う、うぅ……」
親父は標準語の混じった江戸っ子口調だったが、吾輩は何故かその口調に安心感すら覚えていたのである。
「……オイラとしては、泥花の夢を壊すつもりはねぇし、傲慢になるなと言うつもりもねぇ。……ただ、傲慢な理想論を叶えるには、2つの忘れちゃなんねぇ事があるんでい!」
「忘れてはいけない事、であるか?」
「ああ。……それは、"力"と"信念"でい!」
「"力"と"信念"、であるか……」
「そうでい!……"力"がなきゃ、理想論は実現出来ねぇ……"信念"を貫かない、或いは自分の都合の良い様に曲解しちまったら、道を踏み外す……この2つだけはちゃんとしなきゃなんねぇもんでい!」
「ん~……難しいのである……」
この時は、親父が言った事をよく分かっていなかったのである。
でも、今なら分かるのである。
理想論を実現するには、他を圧倒する力が必要。
理想論を実現するには、信念を貫き続ける事が必要。
……本当に、親父らしいのである。
「じゃ、オイラは仕事に行くでい!」
「……確か、オークダンジョンで初心者講習をするんであったな?……いつか吾輩も親父の講習を受けてみたいのである!」
「はは、いつになるだろうな~?」
そうして、親父はいつも通り家を出発したのである。
……それが永遠の別れになるなんて知らないで……
そして、その日の夕方……
「たっだいま~である!……親父~、戻ってるであるか~?……って、ん?」
夕方、学校から家に帰ると、そこには知らない大人が何人も居たのである。
「えっと、君が泥花ちゃんかな?」
「……そうであるが……」
「こ、この後全国のニュースで流れ始める事なんだけど、実は君のお父さんが……」
そうして、吾輩は親父の訃報を知ったのである。
不幸中の幸いは、親父のお陰でモンスターがダンジョン外に溢れ出す事なく、死者も親父だけであった事。
……親父が受け持っていた素人探検者達もしっかり親父の手で避難されていて、本当に親父は自分以外の全員を守り抜いたというのを吾輩は実感したのである。
その日から、吾輩にとっての親父は誇り高い自慢の親父になったのである!
でも、同時に……追い付けない憧れの存在にもなったのである……
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(早水 勇雄視点)
「……ってな感じで、吾輩は親父と死に別れたのである!」
「……お、重い……」
あれから目的地もなく、ぶらぶらと町を散策しながら泥は……マッドフラワーの話を聞いていたのだが、とにかく重過ぎた。
彼女にとって、父親との記憶は大切な宝物なんだろうが……本当に、日常が崩れ去るのは一瞬なんだな。
「……ただ、吾輩はそれでダンジョンを恨みはしなかったのである。……親父は死ぬ事も承知でダンジョンに潜っていたのであるから……」
「いやでも、そこは初心者用ダンジョンだったってニュースで言ってなかったか?」
「……そうであるが、親父は普段から難易度の高いダンジョンに潜っていたであるからな。……今更であるよ」
「な、なるほどな……」
普段から死地とも言える高難易度のダンジョンへ赴いていた彼女の父親がダンジョンで死んだとしても、マッドフラワーがダンジョンを恨む事はない、か……
「それでまあ、吾輩は高校卒業と共に夢であった世界征服を実現するために秘密結社を立ち上げたのである!」
「そ、それがマッドフラワーの"信念"って事か?」
「そうなのである!」
「……そ、そうか……」
……多分、親父さんはあの世で泣いてるぞ……
いやでも、さっきの話を聞くと寧ろ豪快に笑っていそうでもあるな……
「……それにしても、まさか吾輩を知らぬ者が居るとは思わなかったな……ちょっとネットで調べれば出て来る筈であるよ?」
「……何やらかしたんだ?……ってか、生憎俺の故郷はド田舎でな。……あんまり他の町の情報には疎いんだよ。……後、お前には関係ないかもしれないが、俺はS級探検者ですら、よくニュースで見かけるハーレム野郎と先日会った胡散臭い商人以外は知らないしな?」
「え、えぇ……何でダンジョンに関わる仕事なのに知らないんであるか?」
「いや、直接会うまでは間接的にも関わりたくないっていうか……何か調べたら縁が出来ちまいそうな気がしてな……」
ダンジョンに関わる仕事をしている以上、S級探検者も知っとくべきなんだが……人外レベルの化け物揃いと噂される奴等と、間接的にも縁を結びたくないんだよな……
「調べたら縁が結ばれるって、どんな馬鹿らしい迷信であるか……」
「そうは言うが、関わりたくないんだよ……現に、俺が知ってる2人とは絶対に会いたくないし……」
ハーレム野郎は性格こそ良いらしいが、近くに居ると絶対にウザく感じそうだ。
胡散臭い商人は論外だな。
「き、厳しいであるな……まあ、吾輩も同感ではあるが……」
「だから、今回の仕事でS級探検者と共同でダンジョンに潜るのも実は結構嫌だったり……って、あんまり無関係な奴に業務内容教えるのは駄目だな……」
「……い、嫌であるか……」
ん?
何故かマッドフラワーが精神的ダメージを受けてそうだな。
と、そう思った瞬間だった。
ーピロン♪
「……メールか……」
俺のスマホに、1件の通知が入った。
「ん?……どうしたであるか?」
「いや、仕事のメールが入っただけだ。……何々、大江山のオーガダンジョン、か……」
確か、千年以上前に酒呑童子一派が誕生したダンジョンだったか……
でも、どうして今更……
「……ああ、そういう事であるか……」
「ん?……何か知ってるのか?」
「いや、まだ一部の者にしか教えられていないのであるが……一昨日はキマイラダンジョンで特異個体の鵺が、昨日はスパイダーダンジョンで特異個体の土蜘蛛が誕生しているのである。……いずれも誕生した時間帯には探検者は潜っていなかったため、そのままダンジョン外へと出て居所不明になったのである!」
「……ハァ?」
そ、そんなニュースは見ていないが?
寧ろ、そんな事があった翌日とは思えない程人で賑わってるし……
「この平穏は箝口令が敷かれた結果である。……何せ、監視カメラの映像では2体とも謎の舞妓に先導されていたらしいであるからな……当然、裏に例の組織が関わっている可能性が考えられたのである……」
「ま、まさか……」
いくら千年以上前とはいえ、既に特異個体が誕生している筈のダンジョンから相次いで誕生した特異個体。
その特異個体2体を先導してダンジョン外に出たという、謎の舞妓……
どう考えても、思い付く組織は1つしかなかった。
「そう、今回の件に関わっていると予測されている組織は迷宮至上教である。……特に、その舞妓は七天美の可能性すら……」
「いや、ちょっと待て!……どうしてお前がそんな機密情報を握ってんだよ!?」
危うく信じかけそうになったが、そもそも何でマッドフラワーがそんな機密情報を知ってるんだよ!?
「ハァ……お前、今すぐマッドフラワーで検索してみるのである!」
「え、ああ……」
俺は急いで、マッドフラワーを検索にかけてみた。
すると……
「……どうであるか?」
「マッドフラワー、秘密結社グランドノワールの総帥にして、S級探検者の1人……って、マジか……」
「本当に世間知らずであるな……」
こ、この中二病患者がS級探検者!?
俺はその事実を信じられず、しばらく放心したのだった……
まあ、調べてなかった俺が悪いんだが……ハァ……
ご読了ありがとうございます。
……という訳で、マッドフラワーはS級探検者の1人でした。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




