異世界だとて共通のもの
「━━━━であるからして━━━━なので、伝統ある本校の生徒として━━━」
入学式の校長先生の話が長く感じるものは、どうやら異世界でも共通のようだ。
1学年200人、3学年合わせて総数600人程の学生が講堂に集まっていた。
一応前世では、高校大学と進学した身としては、「600人?それって小学校規模じゃん」と舐めていたのだ。入学式が行われる講堂も、小学校の体育館並だろうと。
そんなちょっと前までの私に言ってやりたい。「王立ってな、国立大学規模だぞ…!装飾品とか建築物とか、なんなら国立大学とかとも比べられないほど豪華だぞ!この講堂だって、どこぞのホテルのパーティー会場かなんかだぞ!!」と。
実は私は、在籍クラスこそ貴族ではあるものの、一応平民として登録した。なので私の席は平民側の席。後部の後部だ。新入生貴族席、在校生貴族席、からの平民席という席順の為、貴族席から大きく隔たりがある。壇上をよくよく眺めても、校長先生の姿が確認できる程度の距離がある。入学式って新入学生が主役だと思っていたから、こんな後部に追いやられてしまうのは少しどうかと思う。
我、悪役令嬢サマぞ?と言いたいけれど、平民コースを選んだのは私だ。とてもとても『令嬢』とはいいづらい。
なんてブツブツいいながら、昔を思い出す。前世では眼鏡無しでは何も見えなかったのだけど、今世での視力が良いため、視界は良好でありがたい。もっとも、目が悪くなっても眼鏡は高額のため、我が家では買って貰えないかもしれない。なんとか今の視力をキープしたいところだ。
やっと長い長い校長先生のありがたーいお話が終わり、次に新入生代表の挨拶がはじまる。その途端に、黄色い声があちこちからあがる。
あまりの声におどろき、壇上をじっと見つめるも、金髪の男子であることしか分からない。
いや、よく見るとどこかでみた覚えが……?と思ったけど、新入生代表になるほどの優秀な人、知り合いなわけが無い。
というか、そもそも我が領地から遠く離れた王都に知り合いなど誰1人として居ないのだ。こ、心細い……。
そう。誰も知り合いなど居ないの。
学校運営の寮代をケチり、ランクの低い庶民用2人部屋を選んだ私。同室のコと仲良く乗れるよう、入学式の1週間も前に前乗りしたというのに、同室のコがいまだに部屋に来ないのだ。
自分の荷物はとうにバラシ、洋服タンスや勉強机に自宅から持ってきたお気に入りの小物まで配置し、新しいベッドにもすっかり慣れてしまったのに、隣を見れば布団さえひかれていないガランとした空間なのだ。さ、寂しい。
かと言って一人部屋という訳ではない。念の為寮母に確認をしてみたけど、純粋に到着していないのだという。
なんて呑気なのだろう。小心者の私とは、どうもタイプが違うようだと不安になる。3年間、ちゃんと仲良く…まではいかずとも、トラブル無くやっていけるだろうか……。
そんなことばかり考えていたからか、あっという間に入学式が終わり、クラス分けされた教室へと戻る。
1学年200人程度ではあるが、大まかに3クラスに別れている。
王侯専用クラス、貴族クラス、庶民クラスだ。
私は一応貴族子女の為、貴族クラスに席がある。当然だ。なにせ私は『悪役令嬢』なのだから。きっと、可愛い主人公が2年生か3年生の時に編入してくるから、主人公を虐める。それが私の役割なはず。そのために、なんとかクラスに馴染む…いやいや、クラスを牛耳らなくてはならない……。んだろうけど、小心者で男爵令嬢ごときの私に、まるでカーストのトップ、一軍女子になることなんて出来るのだろうか。
「無理無理無理!!」
と、ブンブンと頭をふり、大きくため息を漏らした。
そう、そんなの絶対無理なのだ。私のような地味でぱっとしない人間は、大人しく周りに流されるくらいがちょうどよいのだ。
そのタイミングで、担任の先生が教室に入ってきて、初日定番の手紙配布、1週間、月間、年間の予定の確認、自己紹介、オリエンテーションとすすみ、なんとか一日を終えたのだ。
もちろん、自己紹介で緊張のあまり自分の名前ですら噛み、オリエンテーションでも鈍臭いことをして、悪目立ちしたことは言うまでもない……。
だって、自己紹介しようとした途端、ものすごく注目を浴びてしまったのだもの。本日二度目の視線の集中砲火に、緊張しないわけがないよー!
う。うっすら涙が出てきた。
失意のどん底のまま、あの寂しい寮に戻りたくない。帰宅する足取りが重い。というか動かない。高校デビュー失敗の辛さよ……。
あ、泣けてきた。
ダメダメ初日からこんな気持ちじゃ!
気持ち切り替えてこ!!
そうだ、初めての学校なんだし、地図片手に探索して帰ろう。正門から見ただけでも、あれほど綺麗な学校なんだもん。前世だったらお金払わないと見れないような、きっとワクワクするような場所が沢山あるに違いない。
私は少しだけ浮上した気持ちに無理やり希望を詰め込んで、カバンと共に教室を後にしたのだった。