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遠足12

「あぁ、やっぱりお前は聖女なのだな」


 赤ちゃんウルフを必死に治療を施す私に、マックがそう呟いた。




 ━━━━━━━━━━━━━━━


「で、こうなったと」


 青髪の美少年が、呆れたように鼻から息を吐いた。


「なんかもう、いつもすみません…」


 ここは城下町から出た、あの兄弟たちの家のすぐそばの平地だ。一報を耳にしたシャルルは、遠足の帰路から外れて駆けつけてくれたのだ。


 あの後、蘇生に成功し息を吹き返した赤ちゃんウルフを母グレートウルフに返そうとした。暴れ狂っていた彼女だったが、私の命を削るような治療魔法の一部始終をちゃんとみていて、すっかり大人しくなっていた。そして嬉しそうに我が子を舐めていた。このまま結界の外に放逐したいところだけど、再び弱ってしまうかもしれない。きっと母ウルフもそう思ったのだろう。彼女は優しく子を咥えると、私に預けてきたのだ。私達も怪我人を抱えていた為いつまでもここに居る訳には行かないし。困った末にマックと相談した。「じゃあ連れて帰るか」となった。そしたらまぁ…母ウフルは走って着いてきたわけで……。上空を飛ぶペガサスと同じ速さで走るとか、凄いスピードだ、とかそれもあるけど、鍵魔法がかかっていても場所移動出来るんかいって驚いた。どっちにしろ彼女を結界内に放置する訳にもいかないし、でも、彼女を城下町や学園内まで連れ込めないし。かといって、学園に戻らなければ遠足も終わらない。報告もできない。ので、私だけこの場所に残り、皆には学園に戻ってもらった。きっと報告もしてくれるだろう。もしかしたら、学園や王国から追って沙汰がくるかもしれない。…なにか罰されるかもしれない。


「凄いねぇ。遠くまでよく見えるよぉ」

「ずるいぞラミ!俺も乗るー!」


 さっきまで赤ちゃんをなでていたジャックも「自分も自分も」と、母ウルフの背中をよじ登った。

 兄弟は、母グレートウルフとすっかり仲良しだ。これが先程まで狂気と瘴気を纏って暴れていたとはとても思えないほど穏やかだ。その目は優しく、私を見つめている。信頼すら感じる眼差しだ。その信頼に答えようと、私も微笑み返した。罰があるなら罰されるよ。こーなったらドンとこいだ!…なるべくあんまり痛くなくいといいな…。罰金とかなら…そんな高くないといいけど。と、キュッと目を閉じた。


「これだけ懐いているのなら、従魔契約が出来るかもしれませんね、サラ」

「その手があった!さすがルル!天才!!」

「…///。サラに言われると、悪い気がしませんね…」

「従魔契約を結んだら、母子を王都に入れられる?」

「手続きを踏めば。だけどおすすめはしません」

「そっか」

「居住、餌、周りからの苦情、散歩なんて一苦労ですよ」

「確かに…」


 無責任に捨て猫を拾ってしまい、「元の場所に返してきなさい!」と母親に怒られる図が浮かぶ。いや、猫くらいなら今の私でも飼える甲斐はある。でもグレートウルフとなると話は別だ。私はチラリと彼女を見上げた。彼女は嬉しそうに私を舐めた。


「ふふ」

「もぅ。笑わないでよルル」

「ごめんなさい。可愛すぎてつい」

「うぅ…」


 美少年の笑顔の破壊力よ…。なにも言い返せない。


「お詫びに提案です」

「?」

「このまま、ここで飼いましょう」

「え、えぇ!?『捨ててこい』って言わないの?」

「言って欲しかったですか?」

「欲しくない!提案ください!採用です!!」

「気が早いです。何にもまだ言ってません」


 苦笑いをするルルに、詰め寄る私。あぁ、本当に頼りになるなぁ。


「鍵魔法を3回できますか?1つはジャック達の家に。2つはウルフに二重に掛けましょう。1つはウルフをかこう程度の小さいもの。もうひとつはできるだけ広範囲で」

「わかった!」

「これで餌問題解決です。自分で狩ってくるでしょう。場所もここにすることで居住問題解決です。苦情を言うのはジャックの家族だけなので早々に解決してしまいましょう」

「俺たちは文句なんて言わないよー!」

「いわないよー!」

「きみたちはそうかもだね」


 母ウルフの背中がよっぽど気に入ったのか、兄弟はウルフの背中の上で大はしゃぎしていたが、話を聞いていたらしくぶーぶーと怒った。かわいい。

 シャルルは兄弟の家に入ると、直ぐに出てきて親指と人差し指で丸を作って微笑んだ。こ、行動が早い。上に交渉もはやい。兄弟の母は私たちのおもてなしの用意をしていたが、ニコニコした顔でシャルルに続いて家から出てきた。どんなことを話したのかと聞けば「安全面、場所代、飼育費の提示だけですね」との事。ある意味世の中金だとあんぐりと口が開いた。「グレートウルフはね、仲間意識が強いんですよ。この家族を『仲間』と認識しているようなので出来た提案です。グレートウルフが護衛してくれるし、ご家族が定期的に資金を受けられる。みんな平和でしょう?」とルルが続けた。金だけじゃなかったって、生唾を飲むために口が閉じた。「サラの鍵魔法の範囲が決まったら、『牧場地』として申請しておきますね。土地の有効活用かつ領地開拓です。誰にも文句は言わせません」閉じた口はへの字型になり、気がつけば腰は90度に曲がっていた。ありがとう!ありがとうシャルル!!


「従魔契約はちゃんと調べてからまた考えましょう。犬小屋も必要ですね。厩舎ならすぐ建てられるし代用可能性かな。それより…」

「それより?」

「あっという間に噂が広がると思うんです。そしたら見物人も増えるでしょうね。親子のプライバシーが心配です」

「確かに」

「いっそ見物料でも取りますか?いや、遠くから見られたら規制が難しいし」

「そ、それなら猫カフェ!猫カフェがいい!!」

「……」


 しまった。猫カフェで通じるわけが無い。こっちの世界には猫カフェなんてない。


「なるほど…。テーブルセットとお茶を用意して、利用者は近くで見物が出来ると。運が良ければ赤ちゃんも見られる…これなら充分に親子でも運営できますね。お茶はコチラから提供するとして、金額は…」


 通じたー!!

 理解力がありすぎるんよ、シャルル。なんなら、赤ちゃんウルフを抱っこして…とかブツブツ言うシャルルを見てたら、サ○ァリパークのCMを思い出した。赤ちゃんを抱っこして写真を撮れるあれだ。そこまで発展するかは分からないけど、1を知って10を知るってこういうことかぁ。


 私の膝の上でスヤスヤと眠る赤ちゃんウルフに視線を落とす。魔力を分け与えるのは、献血行為に似ている気がする。私の魔力が通ったこの子は、最早私の分身のような不思議な気分だ。よかったね。ちゃんと大きく育ってね。そんなことを思いながら優しく撫でた。


 じゃ、軽く鍵魔法を張りますかね、とクルクルと肩を回しながら魔法の準備をする私に、シャルルは苦笑いをしながら小さく呟いた。


「魔獣を閉じ込められるのは、鍵魔法ではなく『結界』というのですよ」

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