遠足9
行動が決まれば、あとは早かった。
私たちはペペたちペガサスを呼び寄せ、浮遊魔法で騎乗し、ピュンっと一飛びで現場に到着した。
そして、上空から見れば現状は一目瞭然だった。4つ足の大きくて黒い魔物が全身から黒い瘴気を立ち上らせながら唸り、飛びかかっている。ここから見ていてもわかるほどに激怒している。多分、グレートウルフだろう。
そして、同級生と思われるオレンジ寄りの赤髪の筋骨隆々の青年が、護衛と思われる6人を守りながら魔物と対峙し、攻撃をいなしている。そのうち2人は大怪我をしているようだ。それを見て、体力組グリマウさんが飛び込んで行ってしました。同じくバファンディニョさんも向かおうとしたけど、なんとか制止した。無策で飛び込んでも被害が増えるだけだ。
さらに遠巻きに同じ形の魔物の群れもいる。瘴気を纏っていない魔物たちは、狼に似ている。あの群れが全部同じように襲ってきたら、もうどうしようも無い。全滅する。
「サラさん!引くにしても加勢するにしても、緊急事態宣言をもう一度打つよ!いいですね?」
「シャヴノンさん!ええ!是非お願いします!」
パンパンと、光と音だけの魔法が空に打ち上げられた。光の色は黒。切迫した緊急事態を告げている。そしてそれを皮切りに皆が口を開いた。
「俺達も早く加勢に!」
「私たちが行ったところで犠牲が増えるだけよ!?」
「そうだ!俺たちに何が出来るって言うんだ!!」
「じゃあ見殺しにするのか!?」
「それは…」
騎乗主たちが荒れると、呼応するかのようにペガサスも落ち着きを無くした。焦りが増す。
「そもそも、結界の中に何故あんなにも魔物が侵入しているのか……」
その通りだ。あれほどの瘴気を纏った魔物が結界の中に入るなんてありえない。異様だ。何かがおかしい。
「みんな、落ち着け!俺たちの今の使命を忘れるな!」
「さっきサラさんを第一と確認し合ったばかりだろう!」
学年ワン・ツー組が、3人のペガサスの手綱を持ち、場を制そうとしている。5人が私の顔を見た。その不安な視線に答えるべく、私はコクンと頷いた。
こんな時、ルルならどうするだろう。あぁ、こんな時にルルが横に居てくれれば、なんとかルルを呼び出す方法を考えて作戦を出してくれるに違いない。いっそ私がルルだったら良かったのに!
違う違う、落ち着け私!一旦冷静になろう。知ってるか?一刻って14.4分なんだぜ。そんな時間があれば超余裕だぜ!無いけど!!
考えろ、考えろ私!一刻の猶予もない。
もう一度、状況を確認しよう。敵対する魔物は一匹。対抗出来ているのは一人。その彼を魔物は……狙ってない!?
魔物は重症の2人には目もくれず、荷物を抱えた一人だけを狙っているように見えた。それが突破口になるかもしれない。
「ひとまず、重症の2人を引き上げましょう!パッシュさん!シェルツェさん!はそれぞれ抱えたら上空に戻り手当てをお願いします!」
「「 はい! 」」
「残りの私たち4人も、加勢しながら上空へ撤退します!命大事に!」
「認められません!それではサラさん、あなたも危険です!」
シャヴノンさんは手綱を三本持ちながら私を制止しようとした。多分彼らは身を呈して私を守るだろう。でも、私が飛び込んでしまったら守りようがない。そんな顔をしている。だけど、ごめんなさい。私は私一人だけ安全地帯に居るつもりはないんです。
「…見くびらないでください。3年生首席。私、これでも首席なんです。それも貴族クラスの!」
その言葉は妙に説得力があった。その場に居た全員(私含む)が納得し、腹落ちした。
「では飛び込みます!いざ!!!」
「「「「「 はっ! 」」」」」
正直怖い。怒り荒れ狂う魔物と対峙なんて初めてだ。それは、私たち全員同じだろう。そして、皆を危険に巻き込んだのも私だ。私の血の気が引いて怯んだのがペペに伝わったのか、彼女は強く空中を蹴って足をならした。
うん。私にはペペがいる。励ましてくれてありがとう。その気持ちがペペに伝わったのか、彼女は後ろ足で立ち上がり、力強くいなないた。それを合図に全員が急降下する。
こんな時、私が『悪役令嬢』ではなく『聖女』であれば、ご都合主義かつ平和的解決が出来たのかもしれないなんて苦笑いしつつ、私は囮となるべく赤髪の青年と魔物の間に飛び降りた。
「サラ!?」
聞き覚えのあるバリトンボイスが私の名前を呼んだ。
そこには、幼なじみの『マック』が居たのだった。




