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遠足7

 正直に言えば怖かった。

 穏やかに見えても最上級生。ナマクラや木剣ではなく本物の剣を帯刀しているのだ。

 剣先に光が当たってギラリと反射したしたその冷たさは、周囲の熱を全て奪ったかのようにすら感じた。あのまま、斬り合いになったらどうしようと血の気が引いた。

 そんな考え事をしながら山道を下っていると、また小枝を踏みポキンと音を立てた。


「サラさん?大丈夫ですか?」


 パッシュさんが心配そうに私を覗き込んでる。だけど私は返事ができなくて、(あなたさっき、私の方に剣を向けましたよね?)(私の護衛の筈なのに)(もしかして、スパイか何かなのですか?私が『悪役令嬢』だから?)なんて考えてしまって言葉が出ない。下手くそな作り笑いを浮かべるので精一杯だ。



 結局、お昼ご飯は誰も食べなかった。喉を通らなかったのだ。みんな赤、青、紫、橙、土色とそれぞれの顔色をしていたので、心境もバラバラだったろう。

 あれほど頑張って作ったサンドイッチが、出番もなくランチボックスに戻され、来た時と同じ重みの箱を持って、来た時と同じ獣道を下っている。虚しい。


「……滑りやすくなっています。足元、気をつけてくださいね」


 と、パッシュさんも苦笑いをしてまた歩き出した。来る時は重心が左に傾いていたのに、今は歩きやすそうだ。護衛対象に剣を向けたペナルティとして、剣を没収したのだ。

 とはいえ、女性の護衛は彼女1人の為、私の1番近くの護衛は彼女だし、もう1人のシェルツェさんは先頭を歩いてる。これで2人を全員が見張れる。

 仲間同士で疑い合う。辛いことだ。でも、どうしても私も疑ってしまう。それと同時に(そんな事ない!)(あんなに良くしてくれたパッシュさんとシェルェさんだもん!)(きっと何か理由が)って信じたい自分もいる。分かってる。理由を聞けばいい。

 それなのに「どうして?」の一言がどうしても口からでない。

 ……多分、信じようと、仲良くなりたいと思った人に裏切られるのが怖いんだ。

 どうしてこんな目にあうのか。私の何が悪かったのか。「護衛役やりますよ」って自己推薦してくれたのが嬉しくて、身の上も調べずに全員そのまま採用したから悪いのか。それは確かに私の怠慢だ。自業自得だ。だけとあの時は、同じ学園の、それも上級生を疑う必要があると思わなかった。王立学園に通ってるってだけで、身元保証されてると同じだと鷹を括ったのだ。

 ああ、こんな気持ちになるのなら、いっその事馬車組の遠足に行けばよかったのかもしれないと、大きなため息をついた。

 馬車組の遠足は集団で行くため、ランチは学校が準備してくれる。やることも散策や野狩りなどの他に楽団も付いてくるらしい。まさに貴族のお遊びだ。貴族の友達を作るチャンスも逃した。

 ……いや、違う。それを知った上で私は天馬コースにこられるように頑張ったんだ。あちらのコースでは、野狩りがあるから。野生の獣、魔獣、人以外の全てを『狩って競う』と聞いて、私には無理だと悟ったから。残酷に命を奪われるその瞬間にとてもとても立ち会えない。あちらもヤダ、こちらもヤダ、ヤダヤダヤダ!なんて小学生じゃないんだから!って思わず苦笑いが出た。じゃあ、気持ちを入れ替えないと!楽しんだ者勝ちって言ったのは私だ!


「パッシュさん!ちょっとこのバスケット持っててくれますか?」

「え?ええ」

「よし!」


 私は目をつぶって深呼吸をすると、両手で勢いよく両頬を叩き、パン!パン!と音をたてた。


「!」

「ちょっと、サラさん!?」

「なんだなんだ?」


 ほら、みんなが心配してくれる。なら私は最後まで全員を信じる事が、この遠足内のマイルールだ!

 全員の視線が自分に向かったことを感じて、私はニッコリ微笑んだ。


「さっきの事は、不死鳥仮面も言っていた通り、不問にしましょう!パッシュさんとシェルツェさんには、後日改めてお話を聞かせていただき、全員に共有します。それで構いませんか?」


 今度は真剣な顔で訴えた。

 完全に元通りになるのは無理だろうけど、せめて表面だけでも元通り、最後まで仲良く締めくくりたい。

 そして、その場に居た全員が、同意をしてくれた。

 よし、それじゃあとはもう安全に帰宅するだけだ!とホッと肩をなでおろした時、遠方から『パン!パン!』と発砲音が聞こえた。


「サラさん?」

「また頬を叩いたのか?」

「わ、私じゃないです!」

「それじゃ今のは……」

「みろ、西の方向に煙幕があがってるぞ!」

「「「「「!!」」」」」


 それは、緊急事態が起こっていることを告げていた。


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