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遠足4

 山に囲まれた湖畔に吹く風はほんのり暖かく、頬を撫ですり抜けていく風の香りすら透き通っていて気持ちいい。高すぎない太陽が凪いた湖の水面を煌めかせている。その美しさに見入っていると、足元の注意が疎かになり、踏んだ小枝が「パキッ」と心地よい音を立てて折れた。


 ここは王都から北北西に位置する伯爵家の領地の一つだ。もっと言えば、引退された元伯爵の老夫婦が余生を過ごしている領地、結界のすぐ横の、山に囲まれた湖だ。ちなみお住いの御屋敷は山の向こうの為、ここからは見えない。


 先日、その老夫婦にご挨拶を兼ね、今日の遠足の下見に集団で訪問したときに、暖かく迎えてくださったのだ。領地内の安全な場所、少し危ない場所、ぜひ見てほしい絶景スポットから穴場まで教えてくださり、さらに話が長くなっちゃったからと急遽お茶会を開いてくれた。頂いたお茶もお菓子も美味しかった。そこでご夫婦が揃い、奥様が「この人ったら、現役時はバリバリでカッコよかったのよ」と微笑えみ、旦那様は照れて怒った様子が可愛らしくて。素敵なご夫婦だな。こんな余生を送りたいなって思っちゃった。


 他領地を見学させてもらうのは、前世での職業体験に似てる。領地経営と1口に言っても様々で、この遠足ではそのうちの一つ、領地の内外の魔物狩りが目的だ。

 領主の仕事のひとつに、『領地内の保全活動』や『領地を広げる』事がある。そのために領地外の魔物狩りを行ったり、領地に魔物が入ってこないように結界を強化したり、安全地帯が増えたら領地を広げるために新たな結界を展開したりする。それを手伝ったり、代わりに行うのが遠足の目的なのだ。だから領地を遠足の場として提供する側にもメリットがある。win-winだ。


 とはいえ、それは上級生たちの話で、私たち1年は「行って帰ってくる」が最大の目的なのでわそれなら楽しんだものが勝ちでしょ。なんてことを言うのにも理由があるのだ。それは、今 私が 楽しいからだ!


 私の護衛についてくれた6人はみんな上級生なのだけど、そのうちの1人が女性だったりする。名前はノーディカ・パッシュさん。学園の中でも数少なく貴重な女性騎士パッシュさんが名乗り出てくれたのだ。お陰で『男性5人に囲まれて歩く』という、緊張しつつも非常に困るイベントになっていた事だろう。それが、彼女のお陰で『同性とお喋りしなから遠足』という楽しい学校行事に早変わりだ。最初こそパッシュさんも「私は護衛なので」と言っていたのだけど、何回も顔合わせをしているうちに何かを察してくれたようで、気さくに仲良くしてくれるようになった。学校行事のことやら、去年の出来事やらの話を聞くのも、こちらの話をするのも、みんな楽しい。いや、学校行事で誰かと一緒に居て、人と話せるというだけでこれだけ楽しいのだ。普段がどれだけボッチなのかということが伺えてしまう。うぅ……。

 パッシュさんが、砕けて仲良くしてくれてると、だんだんと男性5人も仲良くしてくれるようになってきた。特にパウル・シェルツェさんはパッシュさんと同じクラスで親交が深いようだ。というか、この2人はとにかく美形だ!並んで立つと目が眩む。絵になる。所作も洗練されて美しい。眼福だ。そんなふたりは、王侯クラスの『エミール』さんをとにかく誉めてる。讃えてる。そんな凄い人かー。へー、ほー。ってなる。

 他の4人の口からも、『マルク』さんや『アクセル王太子』の良いところ、素敵ポイントが沢山聞けた。

 うん。全員交流ないし、知らんけど。

 でも、上級生にまで名前が知られてるってなんか凄い。出来れば私もお近づきになって仲良くして頂きたいなってぽそりともらしたら「あなたも充分有名人ですよ」って笑われた。身に覚えがないのですけど。でも、有名になってしまうのも、悪役令嬢のサガなのですかね。いや、本当に身に覚えはないのですけど。

 なんて回想しながら歩いていると、再び小枝を踏んだ。少し高い「パキッ」とした音すら心地いい。


「少し歩きづらいですか?」

「いいえ、山道も獣道も楽しいです!幼少期は何も無い田舎暮らしだったので」

「ふふ。わかりました。なにか不都合がありましたら遠慮せずにすぐに言ってくださいね」

「はい!」


 と微笑むパッシュさんが美しい。すぐ横に居てくれるし、よく気がつくし、安心感が半端ない。危なく「お姉様」とか呼んでしまいそうになる。てか、見とれるのがバレちゃう。危ない危ない。


「そうだ、サラ様。体力にまだ余裕がありそうですよね」

「はい!まだまだ大丈夫です」

「では計画外にはなりますが…。せっかくご夫妻から教えて頂いた穴場スポットに行ってみませんか?とても美しい場所なのですよ。実はここからスグのあの辺なのです」


 とにっこり笑顔を向けて指を指した。

 一瞬「えっ!?」と戸惑ってしまったけれど、その仕草も美しくて、私は「うん」という以外の選択肢は持ち合わせていなかった。



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