シャルル・クードリ
「では、今回はここまでで」
アクセル王太子の一声で、和やかな雰囲気から引き締まった空気に切り替わる。
席から立ち上がり、僕たち3人は王太子の見送りのために並び、頭を深々と下げ、アクセル王太子の退室を待った。
コツコツという足音を聞きながら、僕はそっと目を閉じた。
(そう、僕たちは同士ではあるけれども公平ではない)
「では、また次回に」
「「はっ!」」
「またね、アクセル」
いつの間にか姿勢を直していたエミール様を横目に、頭を下げたまま返事をする僕とマルクは、アクセル様が退室されたのを確認すると、ゆっくりと頭をあげた。
「じゃあボクも出るね。まだ楽しいコトしようね」
「はい!」
「……」
含みのある言い方だ。
(エミール様には勘づかれてるな)
マルクは嬉しそうに返事をしたけれど、僕は微笑みで誤魔化し、会釈してエミール様を見送った。
「今日は俺が先の退室でいいか?シャルル」
「ええ、どうぞ。侍女と執事のチェックは僕がしておきますよ」
「入室もシャルルが先だったのに、悪いな」
「大丈夫です。マルクもまた次回に」
と、背をのばしたまま挨拶をし、見送ることもせずに奥の側仕え控え室に向かった。
これが僕たち4人の身分差。
いくら同盟を組んだ同士だとしても、礼節は重んじている。どこに誰の目があるか分からないからだ。
従って、この部屋から最初に退室するのは「王太子」であるアクセル様であり、その次は公爵子息のエミール様。そして伯爵子息であるマルクと僕は、最後に退室となる。それは入室時は逆になり、身分の低い順に入室して、出迎えをしなければ不敬になる。
つまり、この部屋の滞在時間がいちばん長いのは僕ということだ。
その待ち時間で余計なことを考える。
どんなに仲がよかろうとも、どう頑張っても今すぐには覆らない身分差を。
(本来、伯爵家も高位貴族なんですけどね)
多分、そんなことを気にするのは4人の中で僕だけだ。
今はただ、未来のライバル達と、1人の女性の成長を見守るという楽しい時間を共有する『時期がくるまで四人で公平にと約束』した仲間だ。こんなに楽しいめると思ってなかったし、この時間を大事に思っている。できれば、壊したくない関係だ。
この関係を壊して、僕たち4人が攻略対象としてバラバラに動き出し、サラと接触してしまえば、女子の嫌がらせが始まってしまうのも怖い。
それを防ぐために僕たちは4人とも婚約者を作らなかったけれど、念には念を入れておいて損は無い。
もう一度ゆっくりと目を閉じ考える。
(その近い未来において、僕達はライバルになった時、僕は弱者だ)
絶対的権力とカリスマをもつ王太子のアクセル様
アクセル様の従兄弟であり、輝く銀の髪と美貌を持つ唯一無二の芸術センスのエミール様。
立派な体躯をもち、武力も運動も抜群で、頼り甲斐のある男の中の男のマルク
彼らは他人と自分を比べなくてもいい。ただ、自分を磨くだけで輝く。
僕が女性だったら僕よりもあの3人を選ぶ。誰だってそうだろう?
勝ち目のない3人と同じ人を好きになってしまった。
逆を言えば、それだけサラが魅了的なのだ。仕方がない。
『ちょっとだけ記憶力が良いだけの小男』
それが自分自身への評価だ。
身長154㎝ 体重42㎏。
腕力もない、人脈もない、膨大な財産もない。広い領地があるわけでもない。その上三男で、病弱な体。
高3の卒業時までに14cmも伸びても、168㎝にしかならない。
男としての魅力にかけた自分。
頭も表情も硬く、1周目での2つ名は『氷の男』
冷徹で冷酷なのは血筋のせいだ。曾祖父の代までは子爵だった家門が、どんな任務であろうとも冷徹に完璧に遂行した。そんな祖父と父の力で陞爵し、最近伯爵位になった。それを誇らしく思っていた自分も、無駄に笑うようなやつを軽侮していた。
そんな僕と君が出会ってしまった一周目。
自分の評価を君は『きょとん』とした顔で聞いていたっけ。
「記憶力がすごいってことがもうすごいんだよ」
ってびっくりしてたよね。
君の顔から表情が消えたあの日。きみにもう一度微笑んでほしくて、僕が下手くそな笑顔を君に向けたら、君は笑ってくれたんだ。それが嬉しくて、僕はそれから笑うようになった。君と一緒に。
人生で初めての笑顔を、君が引き出してくれた。笑うということを教えてくれた。僕の中の氷を溶かしてくれた。
そして、君を好きだと気がついた……。
そこからは、もう僕は君のことで頭がいっぱいでダメだった。
君と一緒に何かをすることが楽しくて楽しくて仕方なかった。心が踊って、強制的に幸せを感じた。
……今でもずっと、好き……なんだ。
やり直す機会が与えられたのだから、今度こそ必ずきみを振り向かせたい。前回の分の1年、今回の分の15年、合わせて16年もずっとずっとサラが好き。両思いになりたい。
でもそれは、今じゃない。
今こうして四人で和気あいあいとサラを守れるのは、四人ともサラの「恋愛対象」ではないからだ。
いつか必ずサラはだれかを好きになる。その時、自分は冷静でいられるだろうか?
でも、だれを選ぼうともサラの自由だ。それは強制するものではない。
だけど、サラに自分を好きになってもらう努力をしないなんて、だれが言っただろうか。
スタートラインに並んでいる今こそ、僕がリードするチャンスだ。その為に、仮面は『たぬき』を選んだんだ。他を抜く。絶対に同じスタートラインから走り出さない。
そして、スタートのタイミングを牛耳るのも僕。自分に有利な状況を確実に作りあげていく。
自分の権威権力財力を作ることを始めた。
前回興味のなかった心理学の本も、恋愛小説も、女性の扱いなんて方面の方の本も読み漁った。
それ記憶のピースを並び替えてはめていく。下準備は抜かりない。けど今はまだ単純接触効果だけでいい。
次の大きなイベントは、運動会、海、将来の夢、夏祭り、氷の微笑、冬の花。どれひとつ逃すことなく、君の好意を僕に向ける。
もし、こんな腹黒い僕を君が知ったらガッカリされてしまうだろうね。だから絶対に心情は誰にも話さない。社交界の噂話にもさせない。
ゆっくりと目を開け、側仕え室の扉を叩き、「控えご苦労さまです。茶会は終わりましたので後片付けをお願いしますね」と声を掛けながら全員の顔をチェックする。今回のメンバーも信頼のおける人選と確認し、僕も部屋を出て扉を閉めた。
ここは秘密の茶会部屋。
そして僕の秘密の決意部屋。
攻略対象達が4人同時にサラに好意を表現するために、それぞれに『担当恋愛感情』を持たせました。
シャルルの担当は「好き」です。
他の4人も担当感情がありますので、想像しながらお読み頂けると幸いです。
感想の方から予想を聞かせて頂けると嬉しいです。




