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部活決め5

「はあああぁ……」


 ここにジュリーが居たならば、肺活量を測定しているのかと突っ込まれそうだ。それほど大きなため息を吐きながら机につっぷした。


 何一つ身が入らなかった月曜日の午前授業。せっかく勉強というものが楽しいと感じるようになっていたのにこのザマである。


 遡ること2日、土曜日。

 私とジュリーの鞄を盗もうとした小さな手の主は6歳くらいの男の子と4歳くらいの女の子だった。理由を聞けば、病気のお母さんの薬を買うためだと言う。「またそんな見え透いた嘘を!」ってジュリーが説教をしたけれど、マジモンの話だった。

 2人は王都の塀の外、領地の端に母親と3人で暮らしていた。(家まで着いて行った)

小さな家と、その横には小さな畑。家の中は薄暗く、病気をこじらせて寝込んでいた母親。その母親に泣きながら飛びつき、せっかく貯めたお金を盗まれてしまって、お薬買えなくてごめんなさい!とワンワン大泣きをしながら謝る2人。

 そんな様子を見てしまっては、2人が私たちの鞄を盗もうとしたとはとても言えなかったし、言わなかった。だって、察してしまったのだ。

 母親が病気になってしまい、王都でなら薬が買えるだろうと、有り金を全部もって、小さな兄弟2人で力を合わせてこの距離を歩いて王都に辿り着いたのに。そのお金を盗まれてしまったのだろう。小さな2人が大金を持っていれば、狙われない訳が無い。子供の話なんて取り合ってくれない警備兵に、知らんぷりする大人たち。知らない場所で、知り合いもいるわけがなく、途方に暮れた2人。それでもなんとか薬を買おうと、私たちの鞄に目をつけたのだ。それが悪い事だと知っていても。


 言葉に詰まった私とジュリーに病床の母親が気がつくと、起き上がって頭を下げ「子供たちをウチまで送ってくれてありがとうございます」と、子供たちの無事が何より嬉しいと、弱々しく頭を下げた。


 私は知っている。

 この世界で、男手が無い家庭が食べていくのにどれほど苦労するのかを。だって、幼少時代の私がそうだったから。父が迎えに来るまでは、母と二人暮しだった私。私の母は働き者だったけど、それでも村人と助け合い、食べ物を分け合ってようやく生きてきたのだ。あの幼い2人と母親の姿が、どうしても自分と重なってしまう。私にとっては楽しく美しい思い出だけれど、それだって母が元気だったからこそだ。

もしも母が、病気や怪我で寝込んでしまったら……。私1人取り残されることになったら……。想像しただけでも血の気が引いた。ジュリーは私の様子に気が付き、顔色が青いと心配してくれた。

 とにかく、このままではダメだと即行動にうつした。

病状を聞き、買い求める薬の種類を聞き出し、走って王都の平民街にある薬屋にいき、(ツケで)薬を1週間分処方してもらって、その間に寮に戻り、余った食事を3人分分けてもらって、また3人の家へと戻って来たのだ。3人にはとても感謝されたけれど、これで解決じゃない。ただの一時しのぎだ。とにかくまた来るね、と約束をしてジュリーと寮に戻ったのだった。


 寮に戻り、私たちの部屋に入った途端、それまで我慢し続けた涙がボロボロと滴り落ちた。

 自分が情けなかった。

 貴族という身分は、みんなを守ってこそじゃないのか。

 自領地の民ではない。とはいえ、薬1つまともに買い与えることが出来なくて、何が貴族か。何が悪役令嬢か。そもそもなんで私はお小遣いのひとつも持っていないのか。

もっと、もっと、なにかしてあげられる事があるのではないだろうか。

 あの家族に、生きる術と職を用意してあげられないだろうか。

 

手助け出来たのではないか。


 しゃくりあげながら大泣きする私の背中を、ジュリーはずっと擦ってくれた。私の出生を知っているからか、ジュリーの目にも涙が溜まっていた。それがあの家族を思ってか、もらい泣きかは分からなかったけど、彼女がルームメイトで良かったっていつもながらに思った。

 そうして泣き腫らした私の瞼は案の定腫れ上がり、日曜日は自室で大人しく過ごし、今日、月曜の朝を迎えたのだった。


少しだけ冷静になった頭の中で

・ジュリーに借りたお小遣い

・借りっぱなしのドレスと宝石

・薬代(1週間分)

のことを思い出し、『学園一の借金王』の異名がつくのではないかとか余計なことを考え、冒頭の大きなため息をついたのだった。

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