ダンスパーティー後日談
人っ子一人居ないはずの土曜日の学園に、音楽が流れてくる。
楽器を抱えた5人の楽隊が優雅な音楽を奏でていた。
その場所は、図書館に向かう途中の東屋の横。そして、その周りを複数の黒服の騎士がぐるりと囲み、目を光らせている。物々しい雰囲気だ。
椅子とテーブルがどかされた東屋の中心には、女物の高価なドレスに身を包み、仮面をつけた二人がギクシャクとワルツを踊っている。リードしているのは、背の低い方の女子、察しの良い方はもうお分かりだろう。そう、王太子の姉だ。
楽しげに男役を踊る彼女に対し、ギクシャクとぎこちなく女役のダンスを踊るもう一方の喉には、立派な喉仏が逐一上下している。ミスしかける度に、緊張感から息を止め、唾を飲み込んでしまうのだろう。
「まったく。あなたはいつまで経っても上手くなりませんのね、ダンス」
王女は残念そうに大きなため息をつき、そのダンスパートナーを突き飛ばした。
「お、俺は真面目に踊ってます!」
突き飛ばされ、地面に膝をついたまま、キッと睨み言い返し、仮面をとる。その顔は、シャルルを女側に、と提案したあの子爵子息だった。
「まぁ、この私に言い返しますの?」
「言い返すもなにも、そもそもなんで俺がこんなことを!」
「あら。あなたがしようとしたことを黙っている代わりの交換条件だったことを忘れたのかしら?鳥頭なのね、おバカさん」
「くっ!黙ってればいい気になりやがって!」
カッとなり、王女に飛びかかろうとした途端、黒服の騎士たちが彼を取り押さえ、羽交い締めにしていく。
「まぁ、オホホ。せっかく綺麗にお化粧までしたのに、花のかんばせが泥まみれでみっともないわ」
口調こそ笑っているものの、王女の目線は冷たく子爵子息を見下している。
「俺はただ、俺より身分が下の癖にいい気になってる生意気な女に、立場を分からせようとしただけじゃないですか!それの何が悪いんですか!」
羽交い締めにされたまま、みっともなく大声で叫ぶ子息は、反省の色などひとつも見せない。
「……呆れました。あなたが嫌がらせをしようとした相手こそ、この国になくてはならい存在になるかもしれないのに」
「は?」
「それ以前に、か弱い女生徒に嫌がらせしようだなんて。みっともなさすぎるでしょう?」
「はは!か弱い女だと言うのなら、尚更男に逆らうとかおかしいでしょう!それこそ力の差を分からせてやることこそ親切というものです!」
「……それを、女の私に言うのですか……?」
王女は扇子で口元を隠し、汚いものを見るかのような目つきになった。
「いやいや、あなたは身分が違うでしょう?そのくらい俺だって弁えて……」
「黙りなさい。先程私に飛びかかろうとしたのはあなたでしょう。未遂とはいえ実行犯ですわ」
「実行犯!?いや、大袈裟です!」
「あなたは、短絡過ぎるわ。恥をかかされたと、サラ・コンスタンタンに嫌がらせをしようと待ち伏せしていたところに、偶然わたくしが通りかかったから未然に防げたものを……。その罪の相殺のための女装とダンスも完璧にこなせず。やる気もない。挙句、このわたくしにまで飛びかかろうとする始末。馬鹿ですの?」
「くっ」
「全校生徒の前で、その姿を披露し、恥をかかせれば溜飲が下がるかとも思いましたが……。あなたがこのままこの学園にいては、またサラ・コンスタンタンを目の敵にして、なにをするか分かったものではありませんね」
「勿論です!かならずあの女に恥かかせてやりますよ!」
「……。選びなさい」
「は?」
「あなたの家門ごと取り潰しにして平民に落ちるか。あなた1人、奴隷として他国に売られるか。領土外の魔物の巣窟に丸裸で捨てられるか。3つにひとつです」
「え?え??」
「選べなければ、私が選びましょう。そうね……」
「ひいぃっ!!」
王女は校門へ向かって歩き出し、指をパチンと鳴らした。
その音を合図に、黒服の男たちが、もう貴族ではなくなるであろう子息をグルグル巻きにして連れ去った。
鼻歌を歌いながら優雅に歩く王女は、校門で1度立ち止まり
「また会いましょうね、サラ・コンスタンタン。未来の私の妹ちゃん」
と、笑顔を浮かべた。
翌々日。
学校の掲示板に、また人集りが出来ていた。
そこには、子爵子息の名前と『病気療養のため休学』と書かれた紙が張り出されていた。
お姉ちゃんは怖いかもしれません……。




