ダンスパーティ3
「センセー男子一同から、提案がありまーす」
それは、ゾッとする提案だった。
サラサラとした青髪をボブヘアにした線の細い背の低い少年シャルル・クードリを、女装させて女子の列に入れる、というものだった。
提案をした男子は、『男子生徒全員一致』『女子も一部賛同』『本人も同意』『なんなら、多数決して決めよう』とまで言った。
もちろん、本人にそういう趣味があるなら、他人が口出しするものじゃない。
でも、シャルル少年の顔色は真っ青だ。とても本人の同意とは思えない。
さらに言葉は続いていく。『男子が1人女子に移れば、21対21で数はぴったり』『1人の犠牲で皆が助かる』『学力面で目立っても、ダンスが未熟な彼は、女子側で男子にリードされた方が見栄えがいい』『平民と踊るなんてまっぴら。そんなのは許されない』『先生方は、貴族クラスに平民が混ざるなんておぞましいことを許すのか』と。
もう、滅茶苦茶だ。だけど、確かにクラスの男子はそうだそうだと同意し、女子は、扇子で顔を隠すようにしながら、面白いものを見るかのように高みの見物だ。
何これ、ナニコレ。
これ、このまま何も言わなかったら、私も賛同したことになるの?
もう一度ちらりとシャルルの顔をみる。
彼は、まさに血の気を失い、プルプルと震えている。
……私、悪目立ちはしたくないの。
でも……、こんなの嫌だ!!
気がつけば私は、挙手と同時に立ち上がっていた。
「あ、あの!上級生のお姉様方から、お2人ご協力いただくのはどうでしょうか!?」
声が震える。でも、精一杯考えたの。
教室中の視線が私に集まる。
シャルルは、大きな目をより大きく見開き、私を見ていた。「安心して。あなたの味方が少なくとも1人、ここにいるよ」その思いを込めて、シャルルに向けてにっこりと微笑んだ。いや、緊張のあまり、にやーって笑ってたらごめんなさいだけど。あ。やっぱり私の笑顔不気味だったのかな?シャルルの顔には赤みが戻り、俯いてしまった。
とにかく、私は私の正義感に従ったのだ。だって私は『悪役令嬢』なのだもの!って、正義感と悪役って真逆な気もするけど。
結局。
先生は生徒たちを制止し、授業を中断した。そして私と、シャルルを陥れようとした男子生徒の2人は職員室に連れていかれ、ここでもまた悪目立ちをしてしまった訳だけど。私に後悔はなかった。
だいぶ怒られてしまったけれども。理不尽に怒られてしまったわけだけれども。半泣きになったこともバレてないわけだし。
やっと職員室から解放された私は、一直線に寮に駆け戻り、ジュリーに泣きつきながら一部始終を事細かに話したけれども。その夜はやたらとぐっすりと眠れたのだった。
翌朝。
「お、おはようございまぁス……」
恐る恐る教室のドアをあけ、やや小声で挨拶をした。
……教室に入った途端、全員が私をみて、ザワついた。
それはそうだろう。昨日アレだけ悪目立ちしてしまったのだ。ヒソヒソ話も覚悟の上よ。と、自分の席につく。そして今日も今日とて噂話に聞き耳を立てようとした。けれど、聞き耳をたてる必要すらなかった。紫髪の女子が私に話しかけてきたのだ。
「サラ・コンスタンタン。君はなにか特別なコネがあるのか?」
随分と荒い口調だ。貴族令嬢がボブヘアーなんて珍しい。目立つ彼女は、以前ジュリーが教えてくれた『ドミニク・モルガン侯爵令嬢』だろう。
スラリとした長身の彼女から、見下ろされるかのような目線で高圧的に聞かれる。しかし、正直なところ身に覚えはない。
「いいえ、ございませんわ」
ごくりと唾を飲み込み、毅然とした態度で彼女の質問に答えた。
「だとすれば、男爵令嬢ごときがなぜ?」
彼女は腕をくみ、不思議そうに首をかしげた。
「いったい何のおはなしでしょう、モルガン侯爵令嬢様」
「みんな、君がお咎め無しだったことを、不思議に思っているのだよ。昨日の騒ぎを起こした子爵令息は、謹慎1週間をくらったのにな」




