ダンスパーティー2
「お、おはようございまぁス……」
恐る恐る教室のドアをあけ、やや小声で挨拶をした。
……まぁ、誰も振り向きもしなければ挨拶を返してくれるでもない。フツーにスルーだ。ツラ。
けどまぁ『これが貴族社会よ』と割り切れているので、平常心を保ったまま自分の席に着席する。
ところが今日はなにやら教室がザワザワと落ち着かない様子だ。教室のあちこちに出来たグループから、どちらかというと、黄色い声よりのザワザワが聞こえてくる。つまり私がスルーされたのではなく、本当に気が付かなかったのだろう。なんとなくホッとする。
そうなってくると、話の内容が気になってくるもので。なんとか聞き耳を立ててみるものの、内容までは聞き取れない。残念!
まぁ『聞こえないものはしょうがないよね』と、そうそうに諦めたけど、ソレは担任の先生の朝のホームルームであっさり明かされることとなる。その内容は
『貴族のダンスパーティーに王族クラスの2名が参加することになった』
というものだった。
なるほど、それは女子の皆様は浮き足立つわけですね。
自領地に篭っていた私と言えど、流石にそのくらいは知っている。王族や上位貴族とダンスをするということの名誉を。下手をすれば、これが『出会い』となり 『縁』となるのだ。まして、今回の王族の話はジュリーによれば『王太子』様なのだ。どんな形でも『ご縁』ができ、覚えめでたい関係になりたくない子女が居るだろうか。
居る。ココに。それは私だ。
そんな偉い人と踊るとか、何それ怖い。
万が一にも足とか踏んじゃったり粗相でもしたらどうするのよ。と、身震いする。想像しただけでも怖いのに。出来れば当日は、お腹痛くして休みたいくらいだ。これ以上目立ちたくない。悪目立ちしたくない。そう考えただけでも頭が痛くなるよ。
それに、私悪役令嬢なのだ。王太子にまでそんな役割をぶつけて、あっという間に処刑コースに入りたくない。ゾッとするよ。
まぁ、そんなことを考えるのは多分私だけなのだろう。だって、女子の皆様は、期待に満ちた瞳をキラキラさせてらっしゃるもん。
あれ?
でもそうすると、男子は何を話してたんだろう?なんて疑問も、直ぐに解決することになる。
男子の問題。それは
『男子が2人余る』
ということ、らしい。
本来、王族クラスの生徒がダンスパーティーに混じることはなく、見学か不参加になるらしい。ところが今年は、お2人の強い要望で今回の運びとなったらしい。
ともすると、余る2人はどうするのか。
貴族クラスは、男子20名、女子20名なのだ。男子が2人増えれば、女子が足らなくなる。
ということは、皆が踊っている中、パートナーがいない、エアダンスをする生徒が2人いるということ。
想像するとちょっと滑稽だね、それ。見学者の視線を一斉にあびること間違いなし。よかった、増えたのが女子じゃなくて。
どこか他人事の私とは裏腹に、男子たちのザワザワは続いた。
午前の授業が終わり、ランチを済ませ、午後のダンス練習へと時間割は進む。
男子生徒たちのザワザワは、苛立ちへと変化していた。
普段は鈍感な私だけれど、流石に分かるのよ。面と向かって手を繋いで一緒に踊っているのだから。ダンスリードが雑というか、乱暴と言うか……。昨日までの穏やかなダンスとは全くの別物だ。
先生方も対応を決め兼ねて困っているようだが、早目に対応を決断していただきたい。そんなの、女子を2人増やすしかないんだから、先生か、平民か、協力して貰えばいいのに。そんで、男子生徒たちにも落ち着いてちゃんと練習に集中してもらいたい。
だって失敗したくないのよ。仲良くなった平民領の友達たちに嘲笑われて友達無くすのも嫌だ。王子様の足踏んで、不敬罪で捕まるのも、嫌なのだ。
いや、もしかして逆かな?足踏んだら『悪役令嬢』っぽい?その方が私の役目を果たせるのだろうか?
踊り疲れて段々私の思考が不穏になってきた頃、今日のギスギスした練習時間がやっと終わった。
授業が終わると同時に、5、6人の男子が、青い髪の背の低い男子を囲い、どこかに連れ行くのが目に入った。
まるで連行にも見えるあの連れ方は……イジメを連想させるものだった。
でも、連れていかれてるのって、ジュリーが言ってた注目の『伯爵子息シャルル・クードリ』じゃないかな?そんな目立つ人が、虐められるの?!




