私の生い立ち
『サラ・コンスタンタン』
それが私の新しい名前だ。
生まれ変わる前の私は、ごくごく普通のOLだった。特に趣味もなく、ただ普通に誰に迷惑をかけるでもなく、なにかに不満があるでもなく、質素に生きていた。
死んだ理由は覚えてない。何かを庇って……とかカッコイイ理由があればいいんだけど。普通の休日に道を歩いていて、急に苦しくなって倒れて……。『急にあの世に旅だったようだ』ということしか分からない。
転生してからの私は、中世のヨーロッパのようなこの国の市井で、貧乏ながらも母と助け合いながらひっそりと、でも幸せに暮らしていた。
幼い私の目に映る母は、美しくも逞しくよく笑う人だった。よく気が付く親切な人で、わずかばかりの畑と、ちょっとした細工ものをつくっては小金を稼ぎ、村人と助け合って生きている。そんなイメージだった。
生活に余裕はなかったけど、そんな母を見て育った私もいつからか(母のようになりたい!)と思うようになっていた。
前世の私は特徴も特性もないのだから、生まれ変わっても私の人生なんてこんなもんだろ、と、なんの疑問もなかった。
その日までは。
それは、私が8歳になる誕生日の事だった。
小さな我が家の前に、4頭立てのやたら豪華で大きな馬車がやってきた。
馬車から降りてきたのは、馬車とは不釣り合いな質素な衣装に身を包んだ男性だった。体格だけは立派なその男は、自分を『父』と名乗り、私と母を力強く抱きしめた。
母は抵抗することなく父の抱擁を受け入れ、涙し、キスをしていた。それから、2人で何か2~3言葉を交わし微笑み合うと、膝をまげ、2人で私を抱きしめた。母は大粒の涙をボロボロと流していたが、今までで一番美しかった。
それから私たち母子は生まれ育ったこの小さな村を出て、父の屋敷へと引っ越しをした。二階建てで部屋が5つ程ある立派な屋敷だったが、父は苦笑いをしながら、『実は貴族としてはそれほど大きくは無い』と言い、それでも一緒に住める事が大事だ、と笑った。その他にも、小さな領地も賜っているから、安心して暮らせるぞ、と私の頭を撫でた。
父は、さる高貴な方を魔獣から救った功績で『お貴族様』になったとの事だった。
爵位をいただいた父は、地元の豪商に目をつけられ、無理やりそこの娘と結婚させられたらしい。まだ、お腹の大きな母を人質にされて。2人で相談し、泣く泣く決めたらしい。
愛し合っていた母と無理やり引き裂かれた上に、その豪商の娘とも父とも折り合わず、白い結婚を貫いたと父は言った。意味は、少し経ってから知った。母は、どんな理由でも、どんな過去でも会わない間に何があろうと構わない、と少し寂しそうに、でも、今、一緒に居られることが全てだと笑顔で父を受け入れた。
屋敷には、執事が1人、妙齢のメイドが1人いて、家族が一気に5人に増えた気分だった。
私はと言えば、新しい服に靴、自分の部屋まで与えられ、大興奮だった。
メイドを『ねぇね』と呼び、お風呂にいれてもらって、髪を梳いてもらい、真新しい洋服に着替えて、それから生まれて初めて鏡を覗いた。
そこには、今まで…いや、前世でも見たことがないほどの美少女が立っていた。
ピンクゴールドの少しウェーブがかかった髪。パッチリと開いた二重の瞼。髪色と同じ色の大きな瞳は少しうるんで、通った鼻筋と、小さな唇はプルプルだ。
あまりの美少女っぷりに自分だと認識出来ず、真っ赤になって照れ笑いをしながら手を振って挨拶をしたもので、みんなに笑われた。鏡の中の自分も嬉しそうに笑っていた。
嘲笑ではない幸せな笑いが、今世での私を祝福してくれているようで、嬉しかった。
それから、応接室に案内されると、そこには気難しそうな4人の画家がいた。
肖像画が完成するまでの数日、そこに立たされる羽目になった。8歳の幼い少女になんの苦行だ(怒)
と思ったが、満足そうに私を見つめる父母の笑顔に答えるべく頑張った。
完成後、今度は3人で!皆で!とオネダリしてみたが「ウチでは画家を雇うほどの余裕はないのだよ」と残念そうに断られた。
もう1話、幼少期編続きます






