日曜日は自由行動 2(ライバル女子)
「この国の侯爵家って、12家しかないじゃない。そのうちの三家が一学年に揃うなんて珍しいのよ」
「……」
「うん。その顔は、さては侯爵家の数も知らなかったの?」
三つ編みのメガネ少女は、黒い手帳をペラペラとめくりながら呆れ顔をした。
オシャレなカフェの空気に似合わないほど青い顔をした私は慌てて否定する
「し、知ってるよ?侯爵12家門、伯爵36家門、子爵36家門、男爵100前後。それは知識として持ってるんだけど……。まさかそんな高位貴族と同じクラスに所属してるなんて……」
サーッと血の気が引く感覚がした。
高位貴族。それすなわち一軍女子ってことだろう。しかも、生まれにより確定しているものだ。今後の努力や行動で何とかなるものではない。
そんな人らのグループに入れるならいい。でも私、何の特徴もない。特徴どころか、私の役割は『悪役令嬢』なのだ。つよつよ女子と肩を並べるとか、対抗するとか、ましてや従えるなんて無理無理無理!
緊張と不安で、異様に喉が渇いてきた。
「まぁ、とりあえずお聞きなさいよ。ほら。お紅茶飲んで落ち着いて」
「うん」
「アンタが第五勢力作るんでしょ」
「ぶっ」
飲もうとした紅茶を吹き出しちゃった。うぅ。てか、突拍子もないこと言い過ぎだよジュリーさん。
私は口の周りをハンカチで拭くと、じとりとジュリー睨んだ。
「そんなかわいい顔で睨んでも、怖くないわよ。それより、何をやるにしてもまずは敵を知ることからよ」
「確かに」
確かに彼女の言う通りだ。私はごくりと唾を飲み込むと、無言で頷いた。
「じゃあまずはソニア・パンジョン嬢からね」
侯爵令嬢
一人娘
緑髪ボブヘア 茶色の瞳 アーモンドアイ
158センチ
読書好き
頭の良い男性が好き
体力:中 知力:下 魔力:中(土属性)
「おぉ…」
なんだこの詳細。ジュリーはどうやって相手のデータを手に入れてるのだろう。
人に囲まれつつも、大人しくお茶しながら読書をしていた緑髪の少女なら、覚えがある。きっと彼女だ。
「ソニア嬢は、頭のいい人が好きだから、アンタなら割と仲良くなりやすいのじゃないかな」
「わぁ!」
「テスト前あたりに一緒にテスト勉強でもできれば一気に仲良くなれそうよ」
「おぉ……」
一筋の光明だ。真っ暗な学園生活に光がさしてきた気がする。ぱあっと笑顔になる私に、ジュリーは気を良くして手帳をペラペラめくった。
「次はドミニク・モルガン嬢ね」
侯爵令嬢
兄・弟
紫髪ショート 紫瞳 吊り目
172センチ
体力自慢の戦う女騎士のような人。剣術、馬術が得意
体力:上 知力:上 魔力:下(火属性弱 木属性)
「ドミニク嬢は、好戦的な女性だから、ちょっとまずいかもねぇ」
「え!?私何もしてないよ!?」
「何言ってんの。この間の体力テスト、ぶっちぎりだったんでしょ。ライバル心バリバリだと思うよ」
「あ、あれは不可抗力で……」
「そんなわけあるか。まぁ、現状ではそんな感じ。そのうち勝負でも挑まれたら関係が変わるかもね」
「それって、勝てばいいの?負ければいいの?」
「しらん」
「そこまで言っておいて切り捨てられた!!」
なんてことだ!とテーブルに項垂れる私が悔しさのあまり、テーブルの上の握りこぶしでドンッと机を叩いた。こんな時に「がってーむ!」とか言ってみたい。
「ハイハイ。次にいくわよ。ジュディット・デコス嬢ね」
伯爵令嬢
姉・姉
水色ロングヘア 毛先はピンク 碧眼 クリクリのタレ目
154センチ
流行、芸術、可愛いものが好き。コレクター気質
体力:中 知力:中 魔力:中(闇属性)
「デコス伯爵は相当な資産家で、うちの新聞にもしょっちゅう広告をうつお得意様ね。娘のジュディット嬢もコレクター気質があって、可愛いものには目がないの。アンタ多分すんなり仲良くなれるわよ。バチクソ可愛いから」
ふぅ。とため息をつくジュリーから嫌なものを感じて悪寒が走った。
「……なんだろう。なんか、嬉しくないような……」
「でしょうね。彼女はヤンデレ気質もあるから、仲良くなりすぎることだけは気をつけて。彼女のお人形にされるから」
「ひぇ」
簡単に恐ろしいことを言うなぁと思ったけど、金と権力が揃うと、それも可能なのだろうと簡単に想像がつく。
「とまぁここまで紹介したけど。3人は序の口ね。最後の彼女が1番難関だから心して聞きなさいね?」
「はい!ジュリー先生!」
「よろしい。デルフィーヌ・モントート嬢」
侯爵令嬢
弟
赤髪 赤眼 きつい顔つきの美女
168センチ
プライドが高く、性格もキツイ
体力:低 知力:低 魔力:高(火属性)
「彼女は……控えめに言って、性格が悪いわ……」
「控えめで……悪い……」
「目をつけられないように、気をつけなさい」
「はい……」
「それと補足なのだけど、4人とも婚約者がいないの。狙っている男性がいるかもだから、必要以上に男子と仲良くならないようにね」
「うん。気をつける」
「よろしい」
ジュリーは熟練の先生のようなジェスチャーをして、私にウインクをするから、2人でふふっと笑ってしまった。
「あ、そだジュリー先生、質問いいですか?」
「ふむ。よろしい」
「私の連れに文句言えないって言ってたのは、なぜですか?」
「あぁ。理由は簡単よ。アナタの着ているその制服、王族専用デザインだもの」
「王族専よ……?」
「難しい話は終わり!さ、楽しい話しましょ!来週はダンスパーティーね!……」
ジュリーは楽しそうにおしゃべりを続けたが、私はショックのあまり全部聞き逃していた。
王族専用の制服……だとぅ……?
なんでそんなものが?
そんな事で頭がいっぱいだった私は『男子と仲良くなりすぎるな』と忠告を受けたばかりなのに、来週のダンスパーティーでは不可避と言う事実を聞き逃していたのだった。大切な事なので、三度目も言いたい。
聞き逃してしまったの!うぇーん。