日曜日は自由行動可 1
「あぁ、このお紅茶香りがたまらないわ……!こっちのおスイーツもただ甘いのではなくて、見た目から華やかで可愛い!なんて贅沢なお嗜好品!!」
「ジュ、ジュリー、しーっ!」
平民街を案内してもらった土曜日から一夜明け、今日は日曜日だ。
あれからすぐに寮に戻り、貴族街の地図を手に入れた私たちは、食堂で夜ご飯を済ませ、夜遅くまで貴族街の探索プランを立てた。気分はもうパジャマパーティ!楽しい!
そして朝。
食堂で慌ててご飯をかきこみ、いそいそと『貴族用』制服に身を包む私とジュリー。
ジュリーには、私が仕立てた1番シンプルなものを。
私は、1着だけまだ袖を通していなかった、なんだか格式が高いものを着用した。
それからはスムーズだったと思う。
誰に咎められるでも止められることもなく、ジュリーも私も未踏の地である貴族街に潜入し、探索し、見学しつくした。
あ、足が棒のよう。足の裏まで痛い。万歩計があったら、きっと5万歩、いや10万歩は歩いたかも!
もー限界!と訴える私に、ジュリーが「仕方ないな」となるべく手頃そうな喫茶店に入ってくれたのである。
ちなみに私は手持ち0のため、彼女の奢りだ。お小遣いなんて貰ってないもので……すみません。
そして、ジュリーのこのはしゃぎようである。なんでも『お』をつけ貴族風の喋り方風を装い、お上品にしているようだが……。
め、目立つ。目立ってる。
先日の私の悪目立ちよりはマシだけど、目立ってるよー!ジュリーさん!!
「おアナタ!そんなにアワアワしなくても大丈夫よ。おアナタの連れに注意できる人なんて居ないから」
「そうなの?」
「そうよ」
ジュリーは事も無げに言い放ち、小指を立てて紅茶をすすった。
「まぁもっとも。そのせいで目立つし、周りのみんな『え、誰?』状態なんでしょうけど」
「?」
「逆に聞き耳立てられちゃってるからね。ここからはそれっぽい会話しようか」
イタズラっぽい微笑みを浮かべ、周りを軽く一瞥した。そして私に向かってずいっと顔を近づけると、小声で喋り出す。
「アナタの悩みは、貴族クラスの交友関係のことでしょ?」
「ど、どうしてそれを?」
「王都に知り合いなんて一人もいないって自分で言ったんじゃない」
「うっ」
「貴族社会って繋がり大事だから。それこそ幼少期から繋がりあるだろうし、結束の固い勢力が出来てるんじゃないかと思ってたのよ。アンタみたいな新参モン、受け入れてくれるのかなって」
「受け入れられてない……」
「ましてや、男爵令嬢なんて仲良くする価値薄いもの」
「うっ」
ジュリーの言葉がグサリと刺さる。
「クラスの中に友達欲しいんでしょ?」
「それはもちろん欲しいよ。クラスでボッチとかヤダよぉ」
「はいはい、涙目になんかなりなさんな。私が一緒に考えてあげるから」
「ジュリー様!」
「アンタが涙目になるとね、男性客の視線を集めて余計な敵を増やすのよ。早急におやめ」
「は、はい」
慌てて涙をゴシゴシと擦って姿勢を正した。ジュリーはそれを見て、「ヨシっ」と微笑んだ。
「いくらグループが出来てるところで、学校始まってまだ1週間よ。アンタと同じく高校から入学してきた人を狙うとか、どこかのグループに入るとか、手段はあるだろうから。ね?」
「は、はい!ジュリー様!」
なんて頼もしいんだろう。こうなったらジュリー様に全力でおんぶに抱っこされてしまえば安泰な気がしてきた。私は顔の前で両手を組み、祈るようなポーズでキラキラとジュリーを見つめた。
ジュリーは鼻を高くし、お菓子を一つ摘むと、パクリと口にした。
「とはいえ、今年は本当に当たり年なのよね。貴族クラス40人のうちの半分が女子で、そのうち侯爵家が3人。さらに一人は一人娘で彼女と婚姻を結べれば次期侯爵とか」
「すごい。それなんて逆玉」
「逆玉?」
「玉!」
注目を浴びている貴族子女が、『玉』なんて言うなと怒られた。変な意味じゃないのに。
とにかく野原の野うさぎのごとく、聞き耳がアチコチにピンピンたっているこの場所を、ジュリーは楽しむかのように
「デルフィーヌ様がぁ!」
「ソニア様はぁ!」
「ドミニク様ってぇ!」
「ジュディット様にぃ!」
と、大きな声でお名前を羅列して言った。
うん。その人たちは誰。