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診断

 花の便りがあちこちに舞い、陽春の日々と表現するのが相応しい1週間だった。


(前世では、桜が春を告げる代名詞だったなぁ)


 そんなことをぽけーっと考え、窓の外を眺める。この世界ではまだ桜を見てない。存在してないのかもしれない。

 貴族教室からよく見える校庭の庭園に咲きほこる花々が、夕日を浴びて赤味を増していく。



『魔の初日の放課後』と呼んでいるあの日から4日が経った。

 困惑から救ってくれたのは、同室のジュリーだった。やはり友達という存在はありがたいものだ。


 今週は授業らしい授業はなかった。

 もっとも前世と比べて、なのだから、この世界での学校授業なんてこんなものなのかもしれない。


 とはいえ

 初日→自己紹介、資材配布

 2日目→体力テスト&健康診断

 3日目→学力テスト

 4日目→魔力テスト

 5日目→結果発表&クラス分け

 って、呑気すぎる気がする。

 それとも、1日1種目しかしてはならないという校則でもあるのだろうか。



 学校2日目の朝。

 私が複数制服を所持している事に気がついたシェリーが、「念の為、その防御の高そうな制服を着ていけば?」と、アドバイスしてくれた。

 なるほど、と納得した私は、自衛のためにいそいそと防御力の高そうな制服に身を包み、体操着も同じものを使用した。その結果なのかは分からないけれど、体力テストはエライ結果だった。そりゃどエライ結果だ。健康診断は健康そのものだったことはさておき。


 走ればぶっちぎりで1位。

 飛べば人の背を超え。

 ダンスはキレッキレ。社交ダンスってナンダッケ?のブレイクダンスレベルである。もちろん悪目立ちである。涙。


 前世の私の目立たなさよ、どこいった……。という程注目を集めた。注目された事なんて無い人生だったもんで、こそばゆいやら恥ずかしいやらだった。けど、こんな事で萎縮してはいけない!と心を支えてくれたのが、私の今世での役割『悪役令嬢』だ。


 悪役令嬢たる私は、がんばって背筋を伸ばし、誰からの視線だろうと毅然たる態度で受けてたった。もう、負けてたまるか!こなくそ!とまぁ。半分ヤケではあったけど。半泣きになりながらも逃げ出すことなく1日を終えることが出来た。


 ちなみに、この制服で教室に入った途端『ふぐぅ!』と奇声をあげ教室を出ていくガタイのよい男子が1人居たけど、まぁ気にしない。



 3日目は学力テストということが分かっていたので、1番目立たなそうな制服を選び袖を通した。

 そのせいなのか、テスト問題は、詰まることなくスラスラと、まるでペンが羽根になり、勝手に紙の上を舞うかのように解答することができた。見直しの時間を含めても時間に余裕があるなんて初めてだった。


 テスト中、チラチラとこちらに視線を送ってくる男子が居た気がしたが、前日の全視線集中の刑を乗り越えた私には、羽虫の如く気にならなかった。いや、実際羽虫が飛んでたらめちゃくちゃ気になるし逃げるけど。



 そして4日目。

 諸々の結果発表の日だ。

 この日は、残り2着のうちの、豪華過ぎない方を選んだ。なんというか、可愛いくて可憐な方。

 そして、ドキドキしながら張り出された結果発表を見た。

 ……まぁ、なんというか……。

 体力、学力、魔力、オマケに気品。全部門で貴族女子で文句なしの1位だった。

 男女総合で2位。

 学年全体でも2位。ワンツーを、貴族クラスだ独占だ。


 ザワザワと掲示物に集まる貴族の子女たちが掲示された私の名前『サラ・コンスタンタン』をみて「誰だ」「誰だ?」とザワつく。


 すみません、それは私です……。

 最悪だ……。最悪飛び越えて極悪だ……。

 悪目立ちどころか、名前まで知れ渡ってしまったよ。うぅ。おうちに帰りたい。できれば前世に戻りたい。『悪役令嬢』なんて、私には無理だ。こんな目立つ中でそんな役目は私には荷が重すぎる。


 収まらないザワザワから、私は身を隠すようにそっと避難して、今この貴族クラスの窓際に座り、ぼーっと庭園を眺めているのだった。


 できれば、貴族クラスでも友達、少なくとも一緒に行動をする仲間くらいは作りたいと思っていた。けど、現実はそう甘くなかった。

 初日から、もう既にグループらしきものが出来ていたのだ。恐らく、貴族同士横の繋がりでもあるのだろう。縦の繋がりもあるのだろう。1人、リーダー格のお嬢様に、取り巻きが数人、というグループが出来ているのだ。


 顔見知りすら居ない私は、ボッチ確定。ましてや、私は1代限りの男爵の娘。貴族とはいえ下っ端の下っ端。そもそも上位貴族の子女にこちらから声を掛けることも許されないのだ。(学校では例外と後で知った)


「はぁ、友達、欲しいな……」


 ポツリと呟いても、誰かが返事をくれるわけでもなく。私は今日も1人、平民用寮の自室へと戻るのだったが。

 テスト結果のあまりの素晴らしさに、色んな意味で目をつけられていた事に、この時の私は気がついてはいなかった。






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