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攻略対象たち

「ふむふむ。そんな不思議な事があったのね」


 太い三つ編みメガネの少女が、探偵よろしく腕を組み、顎に手を当てなにかを撫でるジェスチャーをした。そこには、無いはずの髭が見えてくる。パントマイムが高度過ぎませんかジュリーさん?




 私たちは自己紹介をした後、食堂で一緒にご飯を食べた。我が家で食べる食事よりやや豪華だったことは、我が家のメンツの為に内緒にしておこう。


 そして食堂には、ジュリーのお友達が沢山いた。なんなら、全員お友達だと豪語する。

 王都で生まれ育った彼女は、同じく王都で生まれ育った上級平民たちと同じ学び舎で育ってきたからだ。

 もっとも、ご家族が新聞社に務めるお家柄らしく、情報をリークしてくれそうな人と普段から仲良くなることに精力的であるらしい。社交界であるならば、間違いなく顔役になるであろう社交性と人脈を、この年で築いている彼女を尊敬してしまう。

 そんなジュリーは、彼女の友達ひとりひとりに私を紹介してくれた。知り合いなんて誰1人居なかった私が、一気に知り合いが増えた。ありがたやー。もっとも、多すぎて名前まで覚えられそうになくて、申し訳なかった。ちょっと混乱して頭から湯気でも出ていたのか、顔に出ていたのか、みんなが「気にしないで!」と言ってくれた。皆様、なんて気のいい人達なのだろう。出来ることなら、貴族クラスではなく、平民クラスに通いたいと思ってしまった。


 そんなこんなで自室に戻り、放課後学校探索時に起こった出来事をジュリーに聞いてもらっていた。学校入学初日でも、前情報バッチリの彼女にかかれば、なにか分かると確信したのだ。


 そして冒頭に戻る。私たちはそれぞれのベッドに座り、学校地図を手元に置き、見ながら話を進める。


「まず、王室専用教室に行ったのよね?」

「うん。金髪の男子がいたわ」

「金髪だけじゃ断定できないけど。碧眼の痩せマッチョな体型で、ものすごくカリスマを発してる人なら、『アクセル・クラヴィエ』王太子ね」

「お、王太子!?」


 思わず声が裏返り、立ち上がってしまった。そんな、雲の上の人とニアミスしていたとは。それも、仮面着用の?!


「王族クラスってね、使用されない年もあるくらいなのよ。それなのに今年は直系の王子、それも王太子だから先生方の気合いもすごいらしいわよ」

「先生方まで……」

「そそ。今の2年生はゼロ。3年生が1人、現国王の又従兄弟の甥っ子とか、だいぶ遠縁がむりやり王族専用に入ったと聞いたわ」

「じゃあ、全員で3人しかいないということ?」

「そう。あんた、その人に無礼なことしなかった〜?」


 三つ編み少女は、意地悪く笑うと、私のおでこをツンツンした。


「し、してな……」

「名乗りもせずに慌てて逃げ去ることを、『無礼』というのだよ〜」

「うっ……」


 恐怖のあまり、顔を真っ赤にして涙目になり、プルプルと震え出す私。悪役令嬢の物語〜【完】〜


 って流石に早すぎる!



「私、入学早々不敬罪で打首とかになるのかしら……。まだ初日なのに断罪されるのかしら」

「あはは!ないない!せいぜいサラの可愛さに見とれてたとかそんなよ!そもそも彼は、全校生徒の注目を一身に浴びる人だし、彼の覚えめでたき人になれたら儲けものよ」

「かわ……、え?」

「はいはい、次。次は?」


 ジュリーは学校地図に視線を落とすと、次を促してきた。


「次は、図書館だっけ?」

「うん、そう。図書館で、多分同じくらいの背丈の青い髪の男子が、たぬきのお面をしてたわ」

「ふむ。図書館、青髪、低身長。とすると『シャルル・クードリ』伯爵子息かしら。三男で、頭脳明晰、魔力、薬学に精通してる人だったと思ったわ。早くも上級生のお姉様方に注目されてるわね」

「薬学!薬草にも詳しいのなら、ぜひお近づきになりたい!我が領地でも薬草を栽培していてね、それで……」

「そのお近づきのチャンスを自分で棒に振ったのはだれだっけ?」

「うっ……」


 orzって絵文字があったけど、生まれ変わってからこのポーズをしたのは生まれて初めてだわ……。


「それから、次が?」

「次は、地図で言うとそこ」


 私はがっくりしたまま、見取り図の鍛錬場を指さした。


「そこには、ファンキーで可愛らしいクマのお面を被った、背が高くて筋肉ムキムキのオレンジ髪の男子がいたの」

「なるほどなるほど。その方は『マルク・ニース』伯爵子息で間違いないと思う。騎士団団長のご子息でご自身も騎士団入団希望だったはず。運動系では、上級生も顔負けで、男女関係なく人気者よ。私たち平民にも優しいの。というのも、騎士団の下っ端は平民出自も多いからとか。分け隔てない人柄はポイント高いわよ」

「騎士団……。守られるより背中を預けあいたい」

「何言ってんの、その細腕で。剣1本振り上げられないでしょ」

「うっ……」


 いちいちツッコミが鋭い。先程から、抉られるのよ、心が。無い胸が凹んだらどうしてくれると言うのだ。恐る恐る胸をなで、小さな膨らみがまだそこにちゃんとある事を確認してホッと肩を撫で下ろした。


「そして最後が芸術棟だっけ?」

「う、うん、そう!」

「孔雀だっけ?」

「違うの、不死鳥!フェニックス!!」

「オレンジの鳥の仮面、大きな鳥の翼、見事な尾っぽに、銀髪の男子?」

「そう!」


 なんで細かく覚えてるのよ。さては、最初から全部覚えたな?

 と、じとりとジェリーを睨む。


「あはは、ごめんごめん。あんまりにもサラが可愛いからつい」

「か、可愛くなんか……!」

「それが謙遜なら嫌味だけど、無自覚なら危ないから自覚した方がいいよ?整った顔、プルプルの唇、ピンクゴールドでフワフワ艶々の髪、スラッとした成長途中の体。目立つわよ〜、あんた。可愛すぎる」

「ふぇ!?いやいやいやいや」

「うん、これだもの。ちゃんと対策しないで痛い目見るのはアンタだからね」

「う、うん……」


 メガネの奥から鋭く睨まれ忠告されたけど、イマイチ実感がない。可愛いなんて言われ慣れてなくてドキマギするだけだし、そんなこと言ってくれるの、多分ジュリーだけだよ。


「それから、芸術棟の変人は『エミール・オーモン』公爵子息だと思う。次男だったかな。彼が王族専用クラスのもう1人。王子のいとこにあたる人ね。で、芸術ならあらゆる方面の才能が凄いらしいわ。彼自身が女性からモテるし、だいぶ女慣れしてるから仲良くなる時は気をつけてね」

「う、うん。近づかないように気をつけるわ……」


 そこまで言うと、ジュリーは手帳を広げた。


「さて、どの殿方の好感度が知りた……」


 そこまでいって、キョトンとした。


「? 私、今何を言おうと?」

「さぁ……?好感度がどうとか……」

「?」

「?」

「「あははは!」」


 この年の女の子というものは、とにかく箸が転げてもおかしく感じるものらしく。2人で転げ回って笑った。

 自分たちの謎のセリフなど気にしないかのように。


 そしてこの時の私は知る由もなかったのだ。今名前を聞いた4人が『攻略対象』で、『2周目』で、既に『溺愛モード』に入っていて、逆に彼らから攻略されようとしているなんて。

 幼い頃に一緒に過ごした友達だったなんて、想像もしていなかったのだ。


勘のいい方はお気づきかもしれません。

ジュリーさんは、ときメモgirlssideで言うところの尽のようなキャラをイメージしています。

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