同居人『ジュリー・メリエス』
「はっ!」
目が覚めて最初に見えたのは、見知らぬ天井だった。
嘘だわ。寮の自室だ。
同居人の居ない、ガランとした1人ぼっちを感じる部屋。この部屋に帰るのが寂しくって学校で寄り道してたんだっけと、1人感傷に浸る。
「あ、目が覚めた?」
「……?」
声のした方を見ると、少女が同居人スペースの学習机に腰掛けていた。落ち着いた茶色の髪を二つに分けて、無造作にぶっとい三つ編みにしてメガネを掛けたそばかすの少女だ。彼女は私と目が合うと、椅子から立ち上がりこちらに向かって傍まできた。
「初めまして。私、ジュリー・メリエス。あなたのルームメイトです。よろしくお願いします」
ジュリーと名乗った女の子は、制服のスカートの裾を摘むと、ぎこちなくカーテンシーをしそつのない挨拶をした。
「ご気分はいかがですか?誰か呼んできましょうか?」
気をかけてくれてるのだろうけど、言葉尻が丁寧で、どこか冷たい。
「いえ、お気遣い感謝いたします。大丈夫です」
「それは安心しました。ですが、私に丁寧語は不要ですよ。私、平民ですので」
「え?」
「あなたがどんな思惑で平民寮を選んだか存じませんが」
ベッドに横たわったままの私を、見下ろすような、見下すような冷たい視線を下ろしてくる彼女に、たじろいでしまう。
「私のような平民には、名乗る価値もないということ、なのでしょ?」
「そ、そんなこと……!」
理解した。
この国では、平民と貴族の間には、大きな隔たりがあると聞いた。私のような末端の父1代限りの男爵といえども、何から何まで差別区別されてしまうのだ。たとえ、大枚を稼ぐ平民だとしても、お貴族様様なのだ、と。
従って、自治領であるならばともかく、王都のように色々な身分が入り交じるところでは、その格差はより大きいと聞いたことがある。
とにかく、同室となる彼女とは、こんな事でトラブルになって3年間険悪なまま過ごすことだけは避けたい。
ここで、今自分の態度を鑑みる。
寝そべったままの私は目線だけ彼女にうつし、起き上がることも挨拶することも、名前を名乗ることすらしない。どう考えても彼女を軽視している。これは……マズイ!
「わ、私はサラ!サラ・コンスタンタンです!」
と、慌てて上半身を起こしたけど、少しよろつき、自分の服装をみる。ベッドに横たわったままの私はヨレヨレの制服姿だった。
「こ、こんな格好でごめんなさい」
あわあわしながら自分の格好を確認し、情けなくて赤面してしまった。人間、ファーストインプレッションが大事、見た目が9割だって言うのに、こんな情けない格好ある?くすん。
でも、逆にジュリーはクスクスと笑った。
笑顔だ!ほっ。よかった。
「あ、あのね!私も小さな頃は小さな農村で過ごしてたの。自分が貴族なんて今でも信じられないくらいだし、ジュリーとはちゃんと仲良くなりたいの。よろしくお願いします!」
と、ペコリと頭を下げた。
ジュリーはそんな私を驚いた目でみていたけれど、やがて、にっこりと笑った
「そうなんだ。ね、サラって呼んでもいい?」
「ぜひ!私も、ジュリーって呼んでいい?」
「もちろん!」
そして、私とジュリーはクスクスと笑いあった。部屋の空気が、柔らかくなった気がする。
三つ編みの少女が気を許すと、対面の彼女のベッドへとドスンと腰を下ろした。そして少し大袈裟に身振り手振りをしながら話しだす。
「大騒ぎで大変だったんだよ! あなた、学校で気絶したらしく、先生方5人でこの部屋まで運ばれてきて」
うっ。重くてごめんなさい。平均くらいのつもりなのですが、そんなに重かったのね、ますます恥ずかしい。
「あ、重いとかじゃなくって、安全性の方みたいよ。担架使って運ぶ時に、あなたに怪我させるなとか、大物の指示がとんでたみたい」
「そ、そうだったんだ。それはご迷惑をお掛けしまして…」
「先生方は大変だったでしょうね〜。でもそれも先生方の仕事でしょ。ね、私、あなたのこともっと知りたいわ」
「私も、ジュリーのことを知りたい!」
それから、私たちは自分たちの両親、生い立ち、仲の良い友達のことなどを話し続けた。食堂でも。夜も。就寝後の時間も。
今まで女友達なんて居なかった私は、新鮮な気持ちで彼女と話しつくした。
疲れて寝落ちるまで。
やっとメインキャラが出揃いました。
テンポが遅くて申し訳ないです。
はやく、逆ハー、モテモテが書きたいです。