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体力担当

 本当は大声で叫びたかった。

 さすがに入学初日からそんな狂気じみたことはしたくなかったので、必死で我慢した。

 声は我慢したけれど、逃げ出すことは止められなかったので、少し長いスカートの裾をもち、今の私に出せるトップスピードで校内を走り抜けた。

 ありがたいことに、目撃者となる人影も私を咎める教師にも遭遇することはなかった。


 長い長い廊下の全力疾走は、階段昇降よりも私の肺呼吸を苦しめた。く、苦しい。ヒーヒー言いながら倒れそうになる自分を叱咤し、そもそもなんで校内を見て回っているのかその目的すら忘れられたから、ありがたいと言えばありがたい。


 そうこうしながら、やっとたどり着いたそこは鍛錬場だ。

 ここもまぁ呆れるほど広い。真ん中の建物を中心に放射状に延びるいくつものグラウンドは、剣術、棒術、弓術、体術などなど各種格闘技っぽいことを学ぶんだろうなぁというのが想像される作りになっていた。そしてその周りをぐるりと1周するトラックは、馬術用なのだろう。1周何kmあるのだか。そして驚くことに、このグラウンドの更に向こうに、もっと大きなグラウンドがあるのだ。あー、広い。散々と陽の光を浴びるそこは、全力疾走してきた私には少しばかり目の毒だ。体育の授業で、あのトラックを走らされるのだろうかと想像するとゾッとした。まだ中身に空きのある鞄ですら重く感じるのに。


 とにかく、少し腰を落ち着けて休みたい。グラウンド中心にある高い建物を目指し、日陰と椅子にありつこう。ヨタヨタと歩いてその建物の中に入ると、木剣や弓矢防具などの道具がズラリと並んでいた。ここは体育館倉庫みたいなものなのかな?

 よく手入れをされ整頓された武器たちには埃ひとつない。もちろん、椅子などあるわけが無い。


 仕方なくトボトボと建物から出てると、遠くに制服を雑に脱ぎ捨て、剣を振るいながら短いオレンジ髪をなびかせる背の高い筋骨隆々な男性がいた。男性というか、青年……?いや、同い年??


 オレンジ寄りの赤髪の少年と言えば、マックを思い出す。運動神経抜群の彼は何をやらせても凄かった。

 かけっこをすれば走り出したと同時にゴールしてるレベル。鬼ごっこをしたら秒で捕まえられ、こっちが鬼になれば永遠マラソン。キャッチボールをしたくても適正距離が見つけられず。そもそも豪速球過ぎてキャッチなんて出来ないし。彼の筋トレの真似をしてみても先にギブするしかない。私にはせいぜい30回が限界だ。結果、彼の筋トレを数えるのが日課になった。おかげで早口で万まで数えるのが得意技になったよ。

 それでも、1番思い出すのは、森で彼に助けられたこと。あの時の傷はもう消えたのだろうか……。


 ぼやっとしていると、その人は剣を手に取り素振りを始めた。流れるような剣技だ。まるで、踊っているかのように、流れるように剣先が動く。剣舞とでもいうのだろうか?無駄のないその動きは、素人の私の目で見ても美しく見えた。


 そう、美しく見えるはずだったのだ。後頭部にある紐で何かを結んでいるのが見えさえしなければ。

 これはアレだ。またきっと何かの仮面を被っているに違いない。

 今度はなんだ?なんの動物だ?

 キツネ、タヌキときたのだ。これあれだ!童謡だか何だかの歌のやつ!

 コブタ→タヌキ→キツネ→ネコ

 こぶたぬきつねこ!

 の逆!!!

 だから、次はコブタに違いない!!

 なんだ、理解出来れば怖いものなんて何一つないじゃないか!

 ちょっと得意気に鼻を高くして物陰に隠れながら、ちょっぴりワクワクしながらその大きな背中を見つめた。

(ほら、こっちむけ、ほらほら、仮面を悪役令嬢さまにみせてみろ!)

 と、それはもうわっくわくしながらみていた。ワクワクし過ぎて前のめりになりずしゃーっと転んでしまった。その音を聞き、オレンジ髪の青年が


「誰だ!」


 と振り向くと


「熊だー!!!!」


 と、思わず叫んでしまった。大きな体格に似合わない可愛い作りのクマのお面に意表をつかれ、またも私は逃げ出した。

 この学校、本当になんなの。

 うっ、うっ。

 もうお家に帰りたい…。






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